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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
2-10:グレイスダウン
128/134

開錠。

 ──関城、会議室。


 黒い目の勇者が単品だといつ言った、バカめ一度も言ってないわ。

 というマーリンのドヤ顔と幻聴がジェシーの頭の中に右から左へすっ飛んでいく。ここまでくると胃痛が胃痛どころではなく穴どころか痛みすら感じなくなってきた、前略ジェシーは頭が痛い。


「つまり、なんだ。非常に言いづらいことではあるんだがよ、あー……技術の横流しをしていたのは「黒い目の勇者」っつーギルドでな? ギルドっていうからには多人数でな? 今リーダー格はブリテンにいるらしいんだがその大部分はこっちにいるらしくてな」

「ロト王……もういい……気を使わなくていい……オブラートに包みきれてない……」


 そうか、とりあえず生きろ。と無法者のしっぽをつかんだロト王は随分と申し訳なさそうに肩をすくめた。

 ──度重なるドラゴンの襲撃と続出する負傷者に外交関係のつり合いなど様々なことが並行して起きる最中、合間を縫ってロト王からの連絡があった。なにか捕まえたかと実際に会ってみればこのとんでもなく頭が痛い案件が出てきてしまったというわけで。違法者を突き止められたのは事実前進だ、だがまさか組織ぐるみでの行いだったとは。

 しかしそこまでわかったとしても依然として勇者の目的は不鮮明なままである、正直なところメリットがない。技術を買わせるのならばまだわかるが、調べていると存外かなり低いレートで……文字通りに横流しにしているらしい。

 まさか、本気で人助けだと思ってやらかしているのだろうか。

 今時いるだろうか、そんな人間。


「本気でこの街はどこに向かうつもりなんだ……」

「港口だし影響が出やすいのはしゃあねえってアーサーがいってたぜ」

「えぇ……ってアーサー王にも話を?」

「気になることがあってな、少し」


 で、とロトは机にいくつかの資料を放り投げる。


「ここ数か月の大陸全体の入国人数と正式手続き数の集計だ、まさかなって思ってちぃっとばかし禁じ手を使わせてもらったんだがよ。ほらここ、数がかみ合っていねぇだろ」

「被害が飛び火しまくってて本当に申し訳が立たない、……あぁ本当だ数があってな……待ってくれこれってそういうことか?」


 いろいろと諸説あるが基盤譜面の大本をつかさどっているのはアーサー王が務めるブリテンの基盤譜面だ、そこからの情報ならば確実なのはわかるのだが、その資料に記された数値をジェシーは一瞬だが目を疑った。この大陸にはいくつか立ち入りの規制が存在する、だからこそ入国手続きというものが必要になる。

 手続きは管制局と呼ばれる外大陸の国家のような機関を通して行い、そこで許可をもらって初めて正式入国が許される。正式な手続きがされた数は今までと平均的に変わらない、むしろ全盛期──月祭のころに比べれば減少傾向にあるのがわかる。

 しかしブリテンの基盤譜面が数値として数え上げた数か月間の入国人数は、手続き数の1.5倍近い数値をたたき出していたのだ。

 密入国者がここのところ、特にこの一か月で増加している。

 異常事態だ。


「さすがのあいつも入国者の総計把握だけで手いっぱいだったみてぇだな、完全に死角を突かれちまった」


 港はすべてが通過する場所だ、だからこそ異物が流れ着くことが日常茶飯事として受け止められてしまっているせいで本物の異物にすら目が向かない。部下の報告にもあった亜人種の商人の増加や物品傾向の乱れはこのためか、さてはて、これは今まで外大陸との接触を最小限にしていたこの大陸の報いなのか。

 住んでいる身としては壊歴の大陸は「終わっている土地」だ、生きていくことで正直なところ手いっぱいな部分のほうが大きい。

 だが、外からしたら。


「──宝の山、って話さ。勝手に入るよー」


 急に別の声がすっ飛んできた、目線を上げると窓から侵入を果たしてしまったらしいセージュの姿があった。いやお前なんでそこから入ってくるの、冒険者は何か芸でもしないと死ぬ縛りでもやっているのか。


「うおっカムラン王いつのまに湧きやがった!?」

「せめてノックぐらいしてくれ、セージュ」

「ごめんごめん、ちょっとアリバイ作りの関係で正面から入れなかったんだ。情報引っ張ってきたからほら、おーいプレイヤーくん早く入ってきなよー」


 プレイヤー? と首をかしげているとまた窓から「ちょっと待って高いところ無理!! 無理だって!! 滑る!! 足滑る!!」と知らない声が。

 すこしすると肩で息をしながら随分と疲れている様子で一人の……見知らぬ青年がなだれ込むように入室する。窓から。

 灰色のレインコートからのぞくその顔は端正に整ってはいたが、どうにも印象の薄い、声はどこかで聞いたことがあるような……。


「紹介するよ、こちらかの聖剣キャリバーンに運悪くそこにいたから選ばれてしまった”主役”くん。ええっと名前なんだっけ」

「スモーカー、だ! いい加減覚えてくれ!」

「燻製君だって」

「あんたわざとだろ! 何回目だよその下りは!!」


 どうにもセージュの管轄外の人間らしい。だがジェシーが気にかかったのは……同じくロト王ものようだが、引っかかることがあった。


「……”主役”?」

「便宜上の話だよ、まぁきにしないで」


 話すと長いから割愛させて、といったところか。

 そこの部分は今は関係ないようだしとりあえずは今のことに集中しよう。


「街に固有種の人間が増えてるのは、もう把握してるのか?」

「今さっき確認をとったところだ」

「それじゃあ、……「鱗化症」のことは」


 また病気関係かー!!

 ジェシーは思わず石のように固まってしまった。

 

 /


 後天鱗化発達障碍症、通称鱗化症。

 簡単に言ってしまえば後天的に半竜化する完治不可能の症例。スモーカーが語ったのはその鱗化症を引き起こしている病児が街で増えているという情報だった。発症しているのは決まって子供ばかり、丸一日駆けずり回って見つけられた数も想定を上回り同じような立ち位置にある捕喰者たちが急きょ街に出て保護活動を行っているのだそうだ。

 事後報告になってすまないと彼は言うがそれは仕方がない話だ、対象が子供となれは何が起こるかは大体予想がつく。むしろ対応してくれて助かったと礼を言わねばならない。

 あぁ、本当に気が遠くなりそうだ。

 しかしこれで見えてくるものがある。


「……【文化侵略】か」


 誰が、という問題ではない。

 おそらく複合的に状況が絡み合たうえでの化学反応のようなものだ。


「この大陸の技術は外からしてみたらタイムカプセルみたいなものなんだ、だから管制局もここの規制は厳しめ……だったんだけど今外大陸闇鍋状態みたいでさ、それで網がぼろくなってる。正直、こっちでさえも人手不足に陥ってるから大局としては完全な玉突き事故だね」

「だが意図的に仕向けてるのが一部いるから、一概に事故ってわけにもいかねぇのか。わーめんどくせぇ」


 細かいことはさておいてこの状況を長く続けることは少なからず街の崩壊につながる、ということが答えとして出されたわけでして。

 単なる事故なら処理はたやすいが今回はロト王の言うとおりに「意図的に動いている輩が存在している」、顔が見えない相手との対局というわけだ。

 チェスは苦手なんだがなぁ。

 ひとまず情報の筋は見えただけ、現段階ではまだ救いだ。


「ボールス王、黒い目の勇者が現れました」

「要件は」

「それが言っていることがなんとも」

「……屋上庭園に通せ、俺が話をつける」

「わかりました」


 扉のノックと同じくして騎士から情報が入る、この場にいる面々の空気が急激に引き締まる。



「屋上庭園の地図をよこせ、ポジション決める」


 

 まぁつまり。

 本人から話を聞けばいいだけの話だ。

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