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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
2-10:グレイスダウン
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襲来。

 来訪があるとき鐘が鳴り響くように、予兆はいつしも大波となって押し寄せる。大波をこえて起きるのは大抵騒乱とアクシデントの祝砲だ。

 それは合図にもなる、大事には絶対にあってほしいものではある。あるのだが。


「おい、どうすんだこれ」


 宇宙ソラでは一体何が起こっているんだとロトはらしくなく空を見上げた。

 宇宙ソラ。おそらくそんなことを思うのは、今のグレイスタウンでは……否、この大陸すべてを含めてもロト=オーグニー・コールマンただ一人だろう。

 この大陸の歴史が如何様に歪で各国一点のみに集中して培われてきたとはいえ、依然、この空よりも更なる上の世界を制した国はない。あのロデグランス王の治めるキャメラルドでさえ到達することができていない未知の領域、神の国とも呼ばれる場所。確かアイツはコロニーといっていたか、ともかくとして、そこはオーグニーの延長線のように機械技術で回る世界なのだそうだけれど。

 目の前に突如として現れたそれは、まるで、その国から降ってきたかのような姿で。


「流石に星の外側は管轄外だっつのバカァ……」

「これはまた……派手だ、なぁ……」


 凍った港の淵に座り込んだ冒険者の元締めが頭を抱えて座り込む。その後ろに立つ猫の獣人──彼が噂に聞くところのマフィアのボス、マーフィらしい──がううむと唸っては腕を組み、凍り付いた海の境界まで遊び感覚で寄っては遊んでいるエースとサイファ、そして妻はそれを見守りがてら楽し気に微笑んでいるのが見えた。

 先ほどまでお祭り気分で異国の船らしきものにどうやって乗り込もうかと考えていたところだったのだが、どうしてこうなった。

 あれから。

 あの異様な船の接近を見て港にまで降りてきたロトと家族ご一行だったのだが、その港に突貫してきた船には入口らしい入口が見当たらず地元住民たちも困惑に首をかしげていた。冒険者も含めてさてどうやって調べようか、そうこう話し合いを始めた矢先に港は一瞬のまに光に包まれた。その光が何だったのかは分からないが、光が消え目が現実を見据えた頃にはすでにそれが海の上に浮かんでいた。

 不気味な、白い塔。真っ直ぐに伸びた天を裂くと言わんばかりの巨塔が不気味にも音もなく海の上に、ぽつんと浮かんでいたのである。

 だが問題はそこからだ、巨塔がまた何かの光を発したかと思えば、気が付けばここら一体の海が【凍って】しまっていたのだ。しかも都合よく巨塔まで巻き込んで。

 まるで塔に上れと言わんばかりに。 

 しかしこの巨塔、ロトには見覚えがあった。

 かの宇宙から落ちてきたヤツが持っていた端末情報の中に、まるでこれと同じものが描かれていたのを知っている。そしてそれを試練の塔と呼ぶことも。

 さすがの冒険者たちも黙ってなどいられない、真っ先にこの場に駆け込んできた元締めセージュが顔を真っ青にしていたあたり彼らの界隈から見ても異常事態なのだろう。マーフィの顔色は流石に分からないが、理解不能だと白旗を上げている。


「どうすんだよこれ……」


 これは長くかかるぞと、思わぬ大問題にため息をつく。

 呆然、一言に尽きる。

 だが行動しなければ何も始まらない、あまり、関わり合いにはなりたくない空事だが仕方がない。


「おい、カムラン王だろう。これはどうなんだ、やべぇのか」

「え、あぁ、だいぶダメ……ってうわぁっ!? なんで此処に!?」


 忘れてた、今回俺さまお忍びだった。


「家族サービス中だ察しやがれ、でだ、どうすんだこれ」

「そうだね、とりあえずは……ジェシーに報告するしかないだろうなぁ、これは。ここまでのものになると本国で対策打ってもらわないと、何が起こるやら」

「……俺帰っていい?」

「え、帰っちゃうんですか」

「えっ」

「えっ」

「い、いや帰らねえけどよぉ」


 なんでそんな期待してんだよ。


「真っ先に飛びつきそうだなぁって思ったから」


 これは上の世界の絡みでしょとセージュは言葉にせずとも上を見上げ、視線をそらしては頭を掻く。

 そういえば色々揉め事があった時に冒険者の一人……いや一機? あれ人間だったのか? 完全に機械兵士だったがまぁどちらでもいいか、多分、カムラン王の同類であろう人物……人であってほしい何かと宇宙のことの一件に関しては相談をしたことがあった。

 ……まああれは向こうから来たようなものだが、さておいて恐らく彼を通じてこのことも知っているのだろう。相変わらず恐ろしい情報網である。

 が。


「お前らでも把握しきれていないのか」

宇宙うえは人の領域じゃないからさ。ま、それに天にまで手を伸ばしたら天罰が下るんだと」

「天だけにってか」

「そう、天だけに」


 安心したような、がっかりしたような。

 宇宙のことを知る人は少ない、皆空はどこまでも続いているようなものだと思っている。機械帝国となづくオーグニーでもいまだに空の果てを目指すものはいるが、その先の存在を知る人物はいない。

 ヤツが来て、ヤツが宇宙から来たのだと打ち明けてくれたことは嬉しかった。空の先があるのだと知った時、言うようもないほど気分が昂ったことを覚えている。空には先がある、神の国が本当にあるのだと知った時、死ぬまでには見れるだろうかと思ったほどに。

 だが、その存在を在ると信じて希望を語らう同志はいなかった。

 一人で生きてきたから別にそんなものは必要ないし、求めてもいなかったが。

 一人で死んで。

 死んでから。

 寂しいと、思うようになってしまった。


「愚弟の胃が心配になるな、こりゃあ」


 苦し紛れに同じ証名を持つこの国の主の名前を出してやる。きしくも同じ死体の名を持ったそいつは、ある意味ロトの後輩的な立ち位置にある。ロトが勝手に思っているだけなのではあるが、休戦状態にある中でもわりと互いに支援したりはする仲だ(と、ロトは思っている)。変な風に巻き込まれたものだから苦労するのだろうなぁと他人事に思いながらも、俺巻き込まれてんじゃねーかよって。


「小僧共」


 ふとマーフィが肩を叩く。なんだなんだと振り向けば。


「あれはどうする」


 氷の海を叩き割るが如くドラゴンが降ってきたのは、さすがに如何なものだろうか。 

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