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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
2-10:グレイスダウン
120/134

廻道。

「いやです」

「そこをなんとか」

「ごめんなさい、依頼主がセージュでも流石にいやです」

「そこまで嫌か勇者アレルギー症候群!」

「自分の胸に手を当ててやらかしたことを思い出してくれませんかねヒイラギ・セイラ!」

「さらっと僕の前の名前を晒さないでくれないかなフジサキ・チカァ!」

  

 世も世界も時には世界線すら縫いわたるという冒険者たちを総括する役割にある彼でも、かつての学友を前にしてしまうと威厳も威圧も形無しである。


「落ち着け、フグも自分の毒で死ぬほど間抜けじゃないだろう」


 前略、マーフィ=アドは未知の船の突貫事件の報を聞き渋々グレイスタウンの表部分に足を運んでいた。道中別件でまたも引っ張りまわされているらしい小僧、セージュと出くわし情報交換もかねて酒場へ赴いたのだがそこにちょうどいたこの青年、東洋人の特徴を持ちながらも妙に地に足のついていない気配をもつ彼がどうにもセージュとの知り合いだったようなのだ。

 面白そうな相手だといつも開けさせている奥席を使い話を聞こうと思ったのだが、中々に手ごわい相手だ。

 彼、フジサキ・チカと言うらしいが噂に聞く大陸に召喚された勇者ではないか。

 外道の法にて遣わされた勇者、異世界人ともいえよう。そんな人物がこんなところにいたのも驚きではあるが、よりにもよって元々腹の底が判別付かないセージュと旧友、腕は確かだろうがこれには手出しをするべきではないだろう。

 これには私の言葉は通用しない。それがひとまずの結論である。

 

「それもそうだ。ごめん、少し取り乱しすぎた」

「わ、わるかったよ……」


 軽く頭をかいてはようやく席に着いた二人は、こうしてみればただの子供にしか見えない。見た目が見た目のままの中身であればどれほどよかったか、とマーフィは頭を悩ませる。

 

「しかし、揃いも揃ってめぐり人の類とはな……」


 思わず言葉を零す。らしくはないが愚痴だって吐くのがマーフィというものだ。 

 

「類は友を呼ぶ、ってことじゃあないかな。それに廻り人なんて探せばゴロゴロいるものだよ、五週してるけどそろそろ顔覚えきれなくなってるし」

「セージュがぼけ始めたっていう可能性は」

「大物の三枚おろしは中々高難易度だなぁ」

「やめてせめて人間判定してください、マーフィさんもそんな真顔で見てないでください」

「いや、私はそもそも何も思っていないから心配するな」

「鉄砲玉じゃなくて鉄球が飛んできた……」

「マーフィに板的な会話を求めるほうが間違いだよ」


 こいつらは漫才を始めなければいけない縛りでもしているのだろうか。

 どうしてこいつらが廻り人なのか、というよりもなぜ廻り人はこんな連中しかいないのか。


 ──夢のような感覚でだが、確信した形で覚えていることがある。


 自分がいまのような獣人でもなく、人間の形をしていたこ/FD.1997、仕事を切り詰めすぎ一人となり/と。どうしようもない人生と、その末路と傷みも。

 少なくとも今の私ではないはずのものの記憶/FD.2000、偽りの罪を着せられ挙句主を殺し/がぼんやりとだが、覚えている。

 他の者たちもそういったことを似たような形/FD.2604、焦がれた者を追い死に焦がれ/で覚えているものがいた。その中でも何度も違う人生を見ているものや、しっかりと覚えているものも。つまりこの目の前の小僧共、セージュとフジサキ、これらのようなものも僅かにいる。/FD.4881、間引かれ/。最初は妙なもの/FD.8045、間引かれ/だとばかり思っていたが最近はそうでもなくなった。/FD.5000、間引かれ/今はもうないが、かつてあったことだと自覚するには思い出すことが多すぎた。

 繰り返し続けていればいずれ壊れるだろう、目の前にいるこいつのように/AD.0001、間引かれ/。だからこそ手を組むことも躊躇いはなかったが。



「そろそろ本題と行こう、若人共」



 RD.07、擦り切れた。

 

/


「船のほうのつるし上げはロト王くんにぶんなげるとして、問題は無断提供者のほうだよ……誰だよ……レギュも見ずにばら撒いてるバカは……」

「それを探すのがお前の仕事だろう?」

「はい……。マーフィは何か分からないか」

「そうさなぁ」


 グレイスタウンの巣は深い。貿易で栄えしばらくは砂糖の恩恵すらもつかっていたような街だが地元である、この街の住民は総じてそうだ、自分も含めて。

 さてそんな街だからこそ力のある無法者が多い、というわけではない。むしろここは無法を行い手痛い目にあったものたちが流れ着いた吹き溜まり、ここで相応の権力の座についているものは相応に法を理解している。

 その抜け穴も含めてだが、だからこそ今頭を悩ませている無法者は地元民ではないと確信できる。


「少なくともこの街の者ではないだろう、そんなことをしたものが仮にいたとしても」

  

 巣は深く、根も深く。この街だって年月を重ねている、噛み傷の痛みもまた教えとして。


「既に生きてはいないだろう」

 

 背けば死ぬ、その程度の話だ。

 ふと小僧のほうを見ると、ぽかんと小さく口を開いたままの顔で動きが止まっていた。

 フジサキが隣で疑問符を目に見える形で浮かべている。妙だと思い「おい」と声をかけてみる、すぐさま「あぁ、いや」と呼吸交じりに反った。


「マーフィって、本当にこの街が好きなんだなぁって」

「急にらしくないことをいうな、毛が逆立つぞ」

「いやだってどや顔」

「あ゛あ゛ん?」

「ごめんなさい唸らないでわりと怖い」


 前々から思うがこいつは毎回一言多いと思うのだ。

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