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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
2-10:グレイスダウン
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渡竜。

 月祭収束から一週間後、ようやくドタバタの後処理が終わり一息ついたところでスモーカーはここに来た目的を思い出した。そういえばあの任務どうしよう、結局何一つ進まないまま終わってしまったがどうしたものかとメビウスに相談したが、「伝承派とは完全に離反扱いになったから遂行義務はもうない」と、ようするにもうこれ以上の厄介を引き起こすなと言われてしまった。そういうならば仕方がないか、せめて一度ぐらいは殴りかかってみたかったのだが残念だ。

 さて、この一週間はひたすら残党処理に追われた一週間だった。地上に振ってきた謎の星と呼ばれるものの処理に、残った腐敗者の掃討、祭りの後片付けに一くくりに囲われた掃除は冒険者のみならず協力体制にある組織のほとんどが、とりあえず五体満足で動ける奴は動けと総動員の状態にあった。

 それらが終わって今ようやくため息を付けるのだが、唯一の消化不良にスモーカーは頭を抱える。今後のことだってあるのだし、この銃剣聖剣の扱いだってどうしたものか。今になって国にかかわるのだって本当はお断りしたいぐらいだ、ああどうしようかなぁ。


「スモーカー、今手はあいてるか」

「空いてるがもうしばらく何もしたくない」

「そうか、空いてるならば話を聞け」


 メビウスがいつものように依頼の話をする、次はどこだいと投げやりに聞けば、その地名にスモーカーは思わず目を見開いた。


/


 ──風よ吹け吹け塩を運べ、帆は風追って大きく開く。風よ吹け吹け水を運べ、我ら海上の運び屋なるぞ。

 昔からのわらべ歌を口ずさみながら青年は揺れる海の波を眺めていた。生々しい塩と潮の、海の匂いが風に乗っては鼻孔を塗らす、久々のいい天気だ。野郎どももようやく海に出てこれた反動か妙に元気がいい、いや元気がよくなったのはほんの少し前からか。

 前までの港は随分と物周りも人周りも悪かった、港が港らしくなったのはここ最近のこと。今でも相変わらず灰色の街と呼ばれ続けてはいるが昔より数段いい街にはなったろう、人が笑うようになった、それだけで活性化するには十分すぎる。とはいっても殆ど街で動きなどしない青年からしたら、住処が少しだけ環境が良くなった程度なのだが。

 今日も変わらず水平線には何も見えない、見えないだけで島はあるが結界に閉ざされて視覚できないのだということを青年はつい先日知ったばかりだ。どうにも奇妙なものだ、魔法なんてお伽噺の存在かと今でも思っているがたまにそうとしか言えないことも起こる、相変わらずおかしな街だ。

 

「ん……?」


 ぼうっと眺めていると妙な影を見つける、空を飛んでいるらしいが渡り鳥の群れだろうか。だがこの時期に渡りをする種類の鳥なんていただろうか、眺め続けているとそれはこちらの方角に流れてきていることが見える。随分大きな翅の音だなぁと呑気にみていると、その異様さは後を追って青年に襲い掛かった。

 風に煽られ波が揺れる、大きく揺らいだ船の端にしがみつくには本能が判断する。


「な、なんだ!?」


 望遠鏡をのぞいた先に見える黒い鱗の塊、化け物という単語が浮かんだ。

 港町の方角へまっすぐ飛んでいく、仲間たちもそれに気が付いたらしく大きく騒ぐがこの距離と速さでは撃ち落とすにはもう遅い。大丈夫だろうかと念のため「漁」はこの程度にして引き上げると指示を出したが、指示が行き届いたころにもう一度確認するとあの化け物の姿はどこにもなくなっていた。

 何かの幻覚? 

 思考が追いつかないが、とてつもない嫌な予感に青年はコンパスを見やる。

 コンパスはただ港町の方角を指示しているだけだった。

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