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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
2-09:セカンドギア
114/134

深黒。

 切羽詰まる状況下、畳みかけてくる物量を押しのけて上へ中央へと駆け抜けていく。状況はあまりいいとは言えないのは今更だが、それ以上にスモーカーは異様なほど響く寒気と鼓動に苛まれていた。中層制御室の制圧、そしてエネルギー炉の回路情報の引き出しはうまくいったはずだ、手が足りないのは常の事だと異邦班は最悪を踏まえてエネルギー炉へと脚を進めている。だが、その脚を進めるたびに大きくなっていくこの感覚は一体なんなのか。

 大気の震えはエネルギー収縮による風の流れ、気温の変化は熱を奪う本熱の性質。

 分かってはいる、わかってはいるのだがそれだけではないと脳裏に警鐘がうるさいほどに鳴り響く。


「え、マジでありますか」


 ふと殿シンガリを担当しているエクターがぽつりと完全に地の状態のような声をこぼした。何かあったのかと振り返ると、どうにもアバアバと彼は現状起きていることを把握したがらないような空気で目を泳がせる。

 様子がおかしい、札か殲滅組に何かあったのだろうか。


「……冒険者の班に、その、」

「その?」

「【無声の悪魔】が出たと……はい……、なんだか凄まじい悲鳴が聞こえるのでありますがこれは大丈夫なのでありますか?」


 瞬間、意味を理解したらしいグラッジとローディが「はぁああ!?」と凄まじくすっとんきょうな声を荒げる。

 【無声の悪魔】のことをよく知らないスモーカーには疑問符を浮かべることしかできず、どういうことだとエクターの代わりに問う。曰く、どこかのバカが作り出した量産型の機械製悪魔らしいがどうしてそこまで怖がるのか、やっぱり理解ができない。

 機械はともかく量産型なら対して強くないだろう、というのがスモーカーの言い分なのだがそれを否定するようにグラッジは頭を振る。

 

「出会ったら最後なんだよ……こっちが死にかけるまで追いかけてきやがる、しかも異様に速いもんだから絶対攻撃があたんねぇ」

「つまりどういうことなんだ」

「シューテングゲームってあるだろ」

「ああ、横シューなら得意だ」

「例えるなら、あいつは横シューの主人公機で俺たちはモブだ」

「それはやばい」


 ということは絶対攻撃が当たらないが向こうは絶対攻撃を当ててくる、のだろうか。

 切実に冒険者たちが心配になるが札からは今のうちにエネルギー炉に到達して壊してこい、ということらしい。となれば進むしかない、嫌な予感はするがどうすることもできないのならばどうにかするしかないものだ。だが。


「うわ、追加オーダーだ」


 向こうも向こうで慈悲がない、どこからか漏れてしまったのであろう腐敗者がまた群れを成して退路を塞ぐ。さすがの数だけあって討伐するにも時間が足りないであろうと判断したエクターが慌てて「ぜ、前進するであります!」と号令を放つ。号令に従って駆け出すものの行き先はどうにしろ行き止まりなのは目に見えている、どうしたものか、考える思考はあっても答えは出る気配がない。


/


「分からないな」


 ふと鋸鉈の捕喰者はぼやく。目の前に広がった「星」の死骸を踏み越えながらもため息をつけば、ただ白い息が表面化しては消えていく。

 眼球のみを動かし空を眺めれば、逆サの城に巨大な月。異常ともいえる光景は確かに理解を超越するものだがそれ以上に理解できないことが鋸鉈にはあった。敵の狙い、目的、誰が味方なのかでさえ疑わしい。もしかしたら相手にはなにも目的がないのかもしれない、いっそそういうことのほうが筋が通るだろう。しかしそうであったとしたならば、事態はさらに凄惨な方向へ捻じ曲がるのも確かだ。

 まだ息の根がある「星」が食らいつくようにとびかかる、その動きに慣れてしまった鋸鉈は必要最低限の動きでそいつを叩き落しては手の平に伝う肉の感覚に顔をゆがませる。気色悪い熱、空回りするすべてがすべて疑問だけだった。背後の悲鳴が夜風に響く、さらに遠くからは祭りの音。何事も起きていないという風に魔法をかけるのはなかなか難しいことだ。

 ああ、やれやれ。けだるげに鋸鉈は振りかえれば、そこにはさっきまでは祭りの会場にいたはずの赤髪がいつものヘラヘラした顔とは一変真面目に固めて「星」を踏んでいる。


「なぁシャムロック、てめぇはこの状況どう見るよ」


 ロト王はほとんど呟く程度に鋸鉈に問う。

 

「貴方が主犯なら一番気が楽だったろうにな」


 喧嘩売ってんのかと言葉では投げつけてくるも、そこにロト王らしい覇気はない。

 生ぬるい風が駆け抜けていく、終わりは近い。だがそれはもっと厄介なことの幕開けなのであろうと鋸鉈は頭痛を覚えている。敵はどこにいる、研ぎ澄ました牙はまだ獲物を求めて唸っては何もいない場所に牙を立てるのだろう。牙さえ落とせば終わるのだろうか、ただ不安に身を駆られては鋸鉈はそれを振り払い先へ進むことを選ぶ。

 行き先は依然わからないが。


/


 そうして暫く鬼ごっこを繰り返し、異邦班はなんだかんだでようやくエネルギー炉までたどり着くことはできた。だがそう簡単に終わらせてくれるわけでもないらしい、そろそろ体力も限界に近いのだがもうひと踏ん張りするしかないのだろう。


「そんな気はなんとなくしてたけどよ」


 グラッジが髪を掻きながらあーあーくじけそうな声を出す。挫けたいのはこっちも同じだといってやりたいが、そうもいっていられないのがこの状況だ。スモーカーは切れ味をなんとか抑え続けてきた聖剣キャリバーンを構えては、異邦班としては最後の障害となりうるソレに視線を移す。

 歪なものだった。

 機械という機械を鮮麗していったら結局はああなるのだろうか、それは人の形をしても尚尋常ではない機械特有のやり場のない殺気と、気配という気配を携えていない正真正銘人が作り出した化け物だ。

 

「【無声ユダ悪魔セラフ】……最強の番兵だな」


 冒険者の班を長時間足止めしているものとは別個体と思しき、人の形をした人ではない何かはエネルギー炉の中枢を司るコアを目の前にして立ちふさがっている。つまるところ、最悪の警備員であり最強の番兵だ。

 嫌な予感というのはこいつのことだったのだろう、我ながら探知能力が上がっている気がしないでもない。捕喰者たちは腐敗者を食い止めるので精いっぱいのようで、札にはそもそも高速戦なんてできない。冒険者たちは言わずもがな別の悪魔のせいでかなり消耗している。消去法で異邦班がこいつを取り除くしかないのだ。

 こいつを倒せば牙は落ちる。

 倒せなかったら波動砲が落ちる。

 酷い賭けになったものだ。


「グラッジ殿、ローディ殿、スモーカー殿……まだいけるでありますか」


 震えを抑えた声でエクターが問う。

 この手の相手に立ち向かうことも初めてのはずだ、緊張するのも震えるのも当然のことだ。

 


「ははっ何いってんだ、余裕だろ。──傲慢にいこうぜ」



 全員が全員、一斉に武器を構え直しては言葉は不要と合図を待つ。

 引き金が弾かれれば、──あとはそれだけだ。 

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