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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
2-09:セカンドギア
105/134

分枝。

 月祭開催まであと一日、スモーカーは月祭の際に同時に行われる伝承派の空中城【チャリスの牙】攻略、つまるところ牙落しに参加する者たちと合流するため普段はめったに人が入らないらしい古錆びた図書館を訪れていた。なぜ図書館なのかと疑問にも思ったが、移動手段が特殊だから気にするなとのことなので気にしないことにする。

 普段から管理はされているようだが人の出入りがないせいで妙に静かだ、しけったカーペットを歩きながらもさて合流場所はどこかと周囲を見る。明かりが弱いせいで視界が悪い、話し声はするのだが反響して位置もよく分からない。

 

「あぁ、こっちだこっち」


 ふと背から声がかかる、振り返るとそこには眼鏡をつけ、羽織を着た青年が手招きをしていた。見覚えのある目の色だが、どこかであっているはずだ。まぁどうせ後で思い出せるかと思考を振り払い案内についていくことにする。

 青年の足取りは軽いが、その装備には奇妙な紋様が描かれた札がついている。武器は刀だろうか、歩を進めるたびに鈴の音が鳴っている。その特徴的な装備は青年の経緯を言葉なしに語っているようなものだった。


タグデバッカーいを見るのは初めてかい」


 そのことにスモーカーが気が付いたのを青年は察したのか、比較的小さな声量で世間話を吹っ掛けてきた。

 図書館特有の空気のせいで小さな声でも大きく聞こえてしまうからだろうが、もともと彼はそれほど声量はない人物らしい。声よりも装備が発する鈴の音や紙の重なる音のほうが大きいように思えた。


「いや、以前に一度共闘したことがある。そちらに話が回っているのが意外だなと」

「ああそっちのほうか、いやぁ今回は緊急だったから人数がギリギリらしくてね、札遣いにも話が回ってきたんだ」

 

 人数合わせにしても珍しい話だった。 

 タグデバッカーいはその名のままに札という媒体を通じてバグ、異能力を引きずり出すことで戦う者たちだ。

 しかし戦うと言っても率先的に戦闘に身を投じる捕喰者や常日頃から戦闘で得ることでできる糧を当てにして生きる冒険者とは違い、組織を結成しそのうえで一般人の身の安全を優先する行動指針はどれかといえば守護者に近い。

 だがよくよく考えれば月祭はその下で一般人が普通のお祭りとして外出しているのだ、一歩間違えば大惨事になるのならば札遣いたちが動くには十分すぎる理由だ。


「そういえば、今回は何人編成なんだ」

「少数精鋭、今のところ基盤は四人編成フォーマンセル、十五人……キミを入れたら十六人だ」


 顔ぶれはこれから紹介すると彼はいい、個室らしき扉を押し開く。あいかわらず薄暗いが廊下などに比べれば明るいほうで、そこは元は何かの保管庫だったらしい部屋だった。先ほど聞いた十五名に近い人数がそれぞれチームを組んでざっとした計画を練っているらしかった。

 予想した通りに個性的な面子である、統一性がないとも言っていいだろう。それぐらい彼らの服装や人種はバラバラだった。


「おぉスモーカーじゃあないか」


 彼らのうちの一人がスモーカーの存在に気が付いたのか、腕を振ってけだるそうな挨拶を飛ばしてきた。白髪、灰色のコート、あぁ見るだけで頭痛がする。というか大分音信不通だったように思えたがこんなところにいたのか。

 いや、いたというよりも足止められていたというべきなのだろうか。

 

「グラッジ、死んでなかったのか」

「おおーい、半年ぶりに再会した友人に対して開口一番がそれかー」

「だってなぁ……」

 

 半年前っていったら相当なことをやったじゃあないか。主に俺が原因だったけど。


「はいはい、じゃあ面子集まったから点呼と自己紹介しようか。所属は明かしたい人だけ明かして」


 羽織の青年が今回は軸になっているらしい、全員の意識を雑談から引き戻して進行を取っていく。全員は覚えなくてもいいと羽織の青年は耳打ちしてくれたが、リーダー格ぐらいは顔と名前だけは一致させておこうかとスモーカーは珍しく記憶の回路を開いた。

 

「順当に俺から紹介入るよ、俺は『水葉ミズハアキト』。見ての通り札遣いだ。今回は盤上外立場が指揮を執ったほうがいいとカムランからのお達しを受けてね、畏れ多くも戦線指揮リーダーフラッグを担当するよ。まぁボチボチよろしく」


 羽織の青年、アキトは簡単な紹介と一緒に札から何か情報を呼び出して見せた。白い画面に黒い文字、数字の羅列はアキトの無線連絡先だろう。

 そしてその他の細かい数値や文字列は今回想定される調律の周波数や大きな戦闘の波を予測したものらしい。覚えておけるならば覚えておいたほうがいいだろう、城落しなど大抵そういうものだ。

 今回の面子の中には札遣いに初めて会う人もいるらしく、端のほうで説明を受けている様子が見える。本当に現地集合だったか。今のメンバーはまさにそのまま、ほとんどが即興なのだろう。だからこその四人編成なのだろうが。

 

「次は私だな」


 各チームのリーダー格から紹介をする流れらしく、その流れを作るように一歩前に出た人物がいた。

 緩やかな金髪、同じ色をした瞳。顔面の三つ傷でかなり印象は悪くなるように見えるが、あっさりとした態度からどちらかといえば善人に近い立ち位置の人間なのだろう。しかしその三つ傷の彼はそれなりに有名人らしく、隣にいたグラッジが「うわ」と素で零した。


「冒険者の分枝指揮グループフラッグを担当する、『アレフレッド=ヴァル・インファンテ』だ。現在は義勇と冒険者リーヴの重複中だが他意はない、よろしく頼む」


 名前でようやく思い出した、彼、確か別大陸の戦技大会で上位に食い込むほどの成績をたたき出した冒険者のチームを纏めている人物だ。

 チーム名はアルケミストだっただろうか、義勇軍にも協力しているようだが他意がないと言っている以上何もいうなということか、どうにしてもかなりの実力者だ、てっきり月祭のほうに集中するかと思ったが案外そうでもないようだ。

 見たところ、リーダー格は各陣営を中心に一人ずつ設置されているようだ。あと二人、どんな人物なのだろう。


「……俺か」

「お前だ」

「眠い……」

「頭蓋に穴あけんぞ」

「分かった分かった」


 装備からして捕喰者だろう、そのうちの一人が頭を掻きながらやれやれと腰を上げる。

 随分物騒な会話が聞こえたのでよくよく見てみたら、眠そうな捕喰者の隣にいたのは魔弾……クォートだ。彼も牙落しに参戦とは、多分弾をばら撒きたいだけだろうが知人の少ないスモーカーにとっては心強い。

 しかし、あの眠そうな捕喰者、どこかで見たことがあるような。


「『忠犬』の捕喰者アルベルト=カシュニッツ……捕喰者の分枝指揮グループフラッグ、任せられた……すまん、三徹目なんだ……」


 だめだ、思い出せない。睡魔のせいで覇気が死んでいるからだろうか、っていうか三徹目ってなんだ!? だいぶ危ないんじゃあなかろうか、今にも睡魔の鎌に持っていかれそうになっているのだが、大丈夫かとかそういうレベルじゃあない、もう半分寝てるんじゃあ。「分かったルベルトくん、寝よう、今すぐ寝よう、時間になったら起こすから今すぐ寝て!」とアキトが言うが忠犬は「いや、もう、意地でも起こしてくれ……ハイで行く……」と目を擦りながら断った、これは、ちょっと怖いかもしれない。


「ちょ、ま、待つであります……胃が、かなり不味」

「心配すんなって、いっそやるだけやって吐け」

「吐きたくないであります! ゲロるのは勘弁であります! あぁでも指揮なんてやっぱり自分には無理」

「はよいけ」

「はいぃ!」


 次は誰だろうとみていると、端のほうでカタカタ震えている人物が引きずられるように出てきた。服装からしてこの大陸の出のようだが、どうにしても顔色がよくない。確かに先の三人がかなり濃い面子で、リーダーの中では事実上のトリとなると胃が痛いのは分からなくはない。


「エ、『エクター』=マリス・ベンウィックであります……! 三勢力外の傭兵、旅人、壊歴に随行する方々の分枝指揮リーダーフラッグを担当することになりましたが、よ、よよよろしくお願いいたす……!」


 誰かこいつに胃薬を処方してやってくれ、とさすがのスモーカーも冷や汗が落ちるのを感じた。

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