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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
2-09:セカンドギア
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血露。

 月祭まであと二日、街のほうも鬱憤が溜まっているらしくそろそろ派手に騒ぎたい一般人たちも小雨の中にも関わらず祭の準備を急ピッチで進めているようで、曇天の下にしては似つかわしくないほどのざわめき、というよりも騒々しさが城下町を抜けていく。

 こんな状況下でよくやるな、とスモーカーは思うが聞くところによると月祭の開催に関して反対する者はいなかったらしい、反対する気力がない、というよりもどちらかといえばもう何でもいいから騒いで雨のことを忘れたい、といった風だ。この国の王の評判もついでに聞いてみたところ、目に見える防衛戦やら冒険者や義勇軍を名乗るそれらの魔族サーチ&デストロイが効いているらしく、評判は最近になってむしろ上がっているらしかった。多分、アンクの性格がいいからだろうがそれでもブリテンの民は逞しい。


「しかし冒険者も考えるよなぁ……」


 さて、現状メビウスが動きが取れないしかも伝承派を殴ると宣言しておいてまだ本城に乗り込んでいないスモーカーにも一応理由はあった。

 宣言してもう次の日には乗り込もうと考えていたスモーカーだが、セージュの提案によってそれをいったん保留にしているといえばいいのだろうか。


『月祭の際に伝承派の空中城……【チャリスの牙】を同時攻略する。その時の牙攻略組にキミを入れる、でファイナルアンサー』

『手は足りるのか?』

『他の大陸に行ってる連中に現地集合をかけてる、それで攻略組は間に合うよ。っていうか間に合わせる』

『人使い粗いなぁおい』

『持て余してる権力を今出し惜しみしていつ出すの、今回なら告発PPもねじ伏せる自信あるよ』

『お前がそれ言うと本気でやりそうだからやめろ怖い』


 一人で殴り掛かるよりかは勝算がある、ということもありスモーカーは二つ返事でそれに乗ったわけだ。

アーサーへ勝負を仕掛けるという任務は祭りの後に時間をずらすことになるが、仕事よりもメビウスだ、まずはご主人様の命が最優先だ。放っておけば一人で脱出しそうだしメビウス本人は絶対放っておけというだろうが、此処だけは譲れない。譲ってはいけないのだ。

 過去の恩やらなんやら理由とそれらしいものはごまんとあるが、理由といえば彼女はスモーカーの一番だから、その一つだけで十分だ。


「遅いな……」


 さて月祭に参加するにおいてその前準備も手伝うのは当然の話だ、道具の収集などは既に何度も月祭を経験している冒険者が中心になって行っているためそっちの方向には出番はない。なら何が手伝えるか、簡単な話だ。祭には邪魔という邪魔が入れば一気に行程が面倒なことになってしまう、だったら始まる前に出来るだけ片づけておく必要がある。駆除は苦手だが掃除なら得意だ、ということで土地勘のあるやつと組んで掃除作業に加わることになっているのだが。

 予定時刻になってもその土地勘のあるヤツという人物が合流ポイントに現れない、小雨のなかで待ちぼうけは些か不愉快な気分になって仕方がないのだが。まさか迷子か、それとも何かあったのか。これ以上はもうやめてくれといいたいが、まだこないのか。

 タンタンと靴底で地面を叩き、そろそろ端末で呼びかけるべきかと考えた矢先にようやく路地の先からこちらへ近づいてくる足音が聞こえた。

 ようやく来たかを視線を向けると大陸外のものであるらしい改造されたジャケットを揺らしながら「悪い! 寝坊した!」と言いながら駆け寄ってくる少女の姿を捉える、茶髪、琥珀色の目、普通に近い外見だが纏う雰囲気はやっぱり冒険者のそれだ。得物はハルバードだろう、隠しもしないあたりディ・ナハト大陸の出か、足音を聞く限り結構重装備を抱えていそうだが様子をみるからに普通にひょいひょい屋根の上でも跳べそうだ、あのセラフ討伐に参加していたものの一人かもしれない。


「時間何分オーバー?」

「三十分」

「うわっ、マジか。ごめん、えーと掃除担当でいいんだよな。名前は」

「スモーカー=ベレッタだ、お前は」

「アビ=ベーグル・ベッダ、呼ぶときはベッダかベーグルで頼む」


 名前で呼ばれたがらないあたり彼も訳ありの類のようだ。冒険者は皆訳ありだが、こんな少女がそうなるとは一体どんな凄惨なことに巻き込まれたのだろうか、気にはなるがそこから先は踏み込んではいけない領域だ、そこらへんは考えないようにしよう。


「分かった、よろしく頼む。ベーグル」

「おうよろしく、スモーカー。でさっそく掃除巡回の話になるけど、魔物と腐敗者、どっちのが得意だ?」

「どちらかと言われれば腐敗者のほうだな、弱点が変わらないほうが混乱せずに済む」

「OK、じゃあ西ルートだな。にしても見た目以上に強気だな、ありがたいけど」

「やっぱり冒険者的には魔物のほうが得意なのか」

「元からそっちが専門だからな、腐敗者は捕喰者の獲物だし」


 そろそろ行こうかとベーグルの先導にまかせて裏路地を中心に腐敗者の潜んでいそうな場所を順番に回っていく。

 新月期なこともあってか腐敗者もまた活性化しているようで、数は多いように思えるが単一個体はそう強くはない。というよりも先を行くベーグルが強すぎる、吃驚するぐらい軽快な身のこなしで率先的に弱点をハルバードで叩き斬っていくのは爽快の一言に尽きるだろう。

 しかしその傍らでも確かに感じ取ることができた、この聖剣という名の銃剣キャリバーン、切れ味が冴え渡りすぎだ。

 腐敗者は元が人間であることもあって斬るにも突破するにも結構な力がいるはずなのだが、それが以前戦った時よりも必要な力の量が半分に抑えられている。扱いを間違えるととんでもないことになりそうだ、気をつけなければ。


「うわ、雨強くなってきた」


 常に雨が降っているのはそうだが時折バケツをひっくり返したような雨量が降るのにはさすがの冒険者もギブアップらしく、雨がマシになるまで雨宿りをしようとベーグルは提案をする。スモーカーも流石に滝のような雨の中で戦うことには抵抗がある、あっさりとその提案に乗りダッシュで街を駆け抜け、建物に備え付けられている外階段の下に空いていた空間に移動した。

 完全にずぶ濡れになってしまったが買い換えた外套が仕事をしているのか、中身までは濡れていない。やたら雨具が強いのは何故なんだろう。というよりも、スモーカーは冒険者や捕喰者が雨が強くなるたびに憂鬱とした表情をするのが少し気になった。

 今隣にいるベーグルでさえも、雨が強まって掃除が中断されたというような感じではなく、何か嫌なことでもあったのかと思うほどの暗さを一瞬だが出していた。


「ベーグル、一つ聞いてもいいか」

「どうぞ」

「雨に関することで何か大きな災厄でもあったのか?」


 冒険者が雨が降るとそんな反応をする、と付け足しながら聞くとベーグルは少しだけ目を見開き、そしてどこか遠いところを見る目で「あぁ」と間の抜けるようなため息をついた。


「そうか、もうそんなに前になるんだな」

「どういう意味だ?」

「色々、スモーカーはこの大陸のことはどれぐらい知ってるんだ」

「全く知らん」

「ですよねー、こりゃあ話しておいたほうがいいか。少し時間かかるぞ」

 

 わざわざ話してくれるとは、よほどのことがあったようだ。スモーカーは「構わない」と話すように促し、言われたとおり時間がかかりそうなので近くにあった保存樽の上に席を取った、ベーグルもまた立ちっぱなしでは辛いのか木箱の上に座る。


「血露戦争って知ってるか」


 雨は、まだまだ強くなる一方だった。 

SSC/s

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