柱
何事もなかったような顔をして
彼女は
掃除をして、買い物をして
友人に電話をかける
今にも崩れそうな
建物が
彼女の目の前にある
細いひもで固定された
建物を彼女はゆっくりと
見上げる
そよかぜでも
大きく揺れてしまう
建物を
彼女は真っ直ぐに
見つめている
彼女を呼ぶ声に
何事もなかったように
笑顔でふりかえる
崩れてしまっても
かまわない
と
思いながら
細いひもがちぎれることを
おそれている
やさしく
やわらかく
しなやかで
したたかな
心で
出来た柱が
必要だ
柱さえあれば、
と
彼女は胸にそっと
手をあてた
ここにあれば
何もおそれることは
ないのだ
と