間章
ふわふわと揺れる感覚に仁は目を瞬いた。何もない真っ暗な空間で足元も不確かなその場所に覚えはない。
《真実を……知りたいか?》
しわがれたような声が耳を打つ。ザワリッと背筋が凍りついた。何も見えない空間から聞こえる事に恐怖を覚えたのではない。その声から感じる嫌な感覚に本能的な恐怖を感じた。ジワリジワリと迫ってくる感覚に一目散に逃げ出したくなったがどこから聞こえてくるかも判らないものから逃げる事なんてできるはずがない。
《真相を知りたいのなら……この手を取れ》
その声が聞こえると同時に何もなかった空間に突如1人の青年が現れた。その顔に仁がハッと息を呑む。それは、6年前死んだ兄だった。会いたくてしょうがなかった兄、それなのに差し出される手を取ることをためらった。何かとてつもなく嫌な予感がする。
《仁。……俺が殺された時の真相を知りたいんだろ?だったら、おいで》
手招きするその声は、さっきまでのしわがれた声ではなく、兄の声だった。ゆったりと近づいてくるソレは、兄に見える。だが、本能は「違う」と叫んでいた。兄は死んだのだ。これが兄であるはずがない。
「自殺するつもりじゃないのなら、あまりに愚かな行為だと思いますが?」
不意に蘇ったのは屋上で聞いた生徒の声。厳しい表情、厳しい声。それが無茶をした仁に向けられた優しさであることを仁は知っていた。彼女の……霧島希の声が蘇ると同時に目の前の兄だったものが姿を変える。姿を持たぬ、黒い霧のようなもの、それが兄の正体だった。
正体がばれたからなのか、さっきよりも早いペースで近づいてくる。
「く……来るな!!」
自分の大声で、パッと目を覚ました仁は、そこが自分の部屋であることにほっとした。さっきまで感じていた恐ろしい雰囲気は消えている。それでも、背筋から這い上がるような寒気を感じて、ブルッと体が震えた。
「何なんだよ……あれ……」
ポツンと呟くと同時にベッドにぱったりと倒れ込む。体がひどく重かった。