アンドロ妹~ホント、さきっちょだけですよ?~
初めてのキスは冷たくて。血と涙の味がした。
塩っ辛く、鉄臭い――舌よりもずっと、心に苦いものだったなと、思い出す。
「お早うございます兄。ゆうべはおたのしみでしたね」
目を開けて真っ先に飛び込んでくる、フラットな声とフラットな表情。サファイヤ・ブルーの瞳はその色がもたらす印象よりも遙かに冷たい。
一見いつもと変わりはないが、それなりの期間付き合ってきたヤクモには分かる。
彼女、ハナは今正に、
――随分、怒っているみたいだな。
押し倒すように覆い被さる彼女の手は随分と強張っているし、ヤクモの腰を挟み込む足はがっちりと固定をかけて全く動けないようにしている。
微かなぬめりが口元に見えるのは、今朝一番の食事が済んでいる証だろう。
そこに、少し。ほんの少しだけ、赤い物が混じっている。
血だ。考えるまでもなく、ヤクモの物――ハナはこういう、赤い血を流すことはない。
ヤクモが舌でそっと口内をまさぐってみれば、なるほど、血の味が幾分か残っている。状況から言って、犯人はハナで間違い無かろう。
つまり、対応にはかなりの慎重さが要求される。
胸の中で一つ、深呼吸。ホントにしたらハナが警戒するだろうから、あくまでそこは気持ちだけ。
「お早うハナ。食事、もう済んだか?」
少しはっきりしない調子で聞いてみる。寝起き相手ならば多少は手を緩めてくれるだろうという狡い計算をしたのだが――
「ええ。それはもう、兄がお休みのうちにねっぷりたっぷりしっぽりと。いえ勿論、兄が下さると言うのなら有り難くいくらでもいただきますが」
そう言ってハナはにんまり笑う。
訂正。笑うかのように、口を大きく開く。
形の良い歯と、艶めかしく長い舌。そしてべったりと張り付いた沢山の血。
どう見てもキスをするポーズではない。どちらかと言えば捕食の後で、足りないからワンスモア。してみると完全ホールドされたヤクモはばっちり餌でしっかり獲物。まな板の上の鯉というより、皿に乗せられた活け作りだ。
よくよく考えて見るならば、ハナの観察力でヤクモの演技が見抜けない訳もなく、むしろ取り繕って騙そうとした分だけ心証は悪くなった筈で――
まあ、つまり失敗したらしい。寝惚けているフリをしたつもりが、本当に寝惚けていたと言う訳だ。
「……あの、ハナさん? つかぬ事を聞かせてもらうが、ウチの妹のお口はどうしてそんなに大きいの?」
「それはね、妹と遊ぶ約束をした休日にそれをすっぽかして日がな一日彼女と乳繰り合う兄を食い殺しもとい悔い改めさせる為ですよ」
言い終えるとハナは、およそ人間には不可能な大きさにまで口を開いた。あんぐりと。
「ちょ、今お前殺すっつったね?! 待てウェイト、危険が危ない反省したから口を閉じてくれマジ怖い!」
少しでも逃れようと後退るが、その先にあるのは壁である。脚は変わらずロックされているので、逃れると言うよりも胴体をぐねんと伸ばしただけだ。
そんな無様な様子を見て、ハナは口を閉じにこりと笑う。
「嫌ですね、冗談ですよ」
冗談らしかった。
多分、冗談だった。
冗談みたいに、わざとらしい笑顔だった。
「――私は兄の肉を食べたりしません。ユキ様じゃないんですから。第一、兄がそれくらいで死なないのもよくよく存じ上げておりますことよ」
効果音すら着きそうなオリジナル笑顔で、ハナは三たび口を開いた。
「ッッギャーーー!!!」
朝もはよから騒がしい。
以下、極めて残虐な描写になり十五歳未満の少年少女の心に重大なトラウマを残す可能性があるため、しばらくの間どうでも良い話。
ヤクモの妹――のようなもの、彼女、ハナはアンドロイドである。
やかましいお前なんてロボットだ、と言ってみても、何故かアンドロイドだと訂正する辺り譲れない何かがあるのだろうが、ヤクモには違いが分からない。
数千年前のバビロニア近辺で信仰されていた神と関係があるだとか、幾つかの宗教に関係する水神の類だとか主張しているが、ヤクモにはさっぱり区別が付けられない。
三重水素アクチュエータとかマナ・パルス信号機とか、何それ美味しくいただけますか? 家電製品とどう違うのか、ヤクモにはもう全くもって完全に全然当然理解できない。わからないったら分からないので、仕方無い、家電兼妹というよく分からん立場として扱っているのが今現在のお話である。
まあ、流石にそろそろハナの怒りも収まる頃であろう。
収まったのはあくまで怒りだけなので室内及びヤクモ、そして勿論ハナに関する描写は控えるものとする。
「あんみつ、ぜんざい、プリンパフェ」
抑揚を綺麗に消し去った声が、しかしどこか歌うようにして通学路に響く。
「おしるこ、たいやき、アフォガード」
言いながら歩くハナの後ろに、付かず離れず行くヤクモ。
汗びっしょりである。勿論、暑いからじゃない。なんだかもっとずっと嫌な感じの冷や汗だ。
「ティラミス、ジェラート、ポップコーン」
「その、つかぬ事を聞くがなハナよ」
おずおずと挙手までするヤクモを、ハナはちらりと一瞥し、
「手羽先、ササミ、柚子アイス」
「ええと、一体どの辺からどの辺まで見てらしたので?」
敬語である。
そのお陰かどうかは不明だが、ハナは歩く速度を緩め、
「全部」
実に端的に答えて見せた。
勿論、その意味が分からないヤクモではない。先程からハナが歌っていたのは、昨日、ヤクモとユキが食べた物だ。つまり、全部と言うのは文字通り最初から最後までの全部。余すところなく見ていたと、そういうことになるのだろう。
「提案があります」
ヤクモの声に、ハナは大きく首を傾げて立ち止まり、
「聞きましょう」
「何かしら適当に言うこと聞くんで、その、色々と黙っていてはくれまいか」
「ほう。適当に、ですか」
「誠心誠意対応させていただきます」
ゆっくりと数度頷いて。
「受けましょう。ただし、今度はすっぽかすことのないように」
勿論、ヤクモはがくがく頷いた。
それからまた歩き出し、いつもの待ち合わせ場所まで数分。
立ち止まり、ユキを待つ。
午前五時半。国道沿いなら車も流れているのだろうが、少し入った脇道を通るのは犬の散歩をする人とか、商店街に荷物を運ぶ配送車、後は精々朝練に急ぐ学生くらい。
静かで、二人きりで。
辺りに満ちる沈黙が、自然と気まずさを持ってくる。
ヤクモは何度か口を開こうとしては閉じ、閉じてはまた視線を彷徨わせ、結局はただ、空疎な音を響かせるだけだ。
「ずっと、考えていました」
ぽつりと、思い付いたようにハナが言う。
ヤクモは視線を落として、振り向こうとは考えない。
「即脱がすコスプレAVがは間違い無く悪ですが、局部だけ切り取る奴って何考えてるんですかねアレ」
「お前ずっとそんなこと考えてたの?!」
首が折れんばかりの勢いで振り向いて、元気よくツッコミの声を響かせる。朝っぱらから迷惑な話である。
「ええまあ。昨日、置いてけぼりにされて随分と暇をしましたので、兄の部屋を捜索させていただきました」
何とも酷い話である。
咎めようと思いはするが、発端というか原因というか、まあ、元々悪いのはヤクモの方だ。直接関係の無いこととはいえ、そう強く出られる立場でもない。
ちらりと、ハナが視線だけでヤクモを見る。
「兄のばか。企画系」
訳の分からない罵り言葉だった。意味は分かるからなお嫌だった。
「あの、ハナさん? その辺りの物を母さんには……」
「今後の対応次第、とだけ言っておきましょう」
ハナの索敵能力は超強力だが、そこは流石に光学的・魔術的な制約がある。障害物を隔てれば印刷物の色などはかなり曖昧にしか分からないし、色や姿形をしっかり確認しようとしたら魔力を持たない生物は見えない。
それらを知っていたからこそ、油断した。普通の映画ディスクと一緒くたのケースに入れておいたのだが、
――油断したなぁ。
よくよく考えて見れば、ハナの目を持ってすれば光学ディスクの内容をデコードすることなんて息をするより簡単に違いない。
「まあ、別に難しい事や不可能な事を要求するつもりはありません。無理なことは無理だから仕方有りませんし。詳細は後にするとして――」
物凄い勢いで距離を詰め、ハナはヤクモの首根っこを掴む。
あ、とヤクモが気付いた時にはもう遅い。冷たい唇が強く触れ、口の中をまさぐられる。少し、力の抜ける感触。
そのままハナは手を挙げて。
「おはようございます、ユキ様。本日は一段とお元気そうですね」
どこからか――少なくとも、口からではない――声を出す。流石アンドロイド、人間にはとても出来ないことを平気でやってのける。ヤクモとしては実に気味悪いのでやめてほしい。後、さっさと口を離して欲しい。
「あ、えと、うん、おはよ」
声の元、ハナの視線が向く先に、当然のようにユキが居る。
笑顔である。
普段から表情が硬いため、何とも分かり難いが、確かに彼女は笑っている。
恋人とその妹がキスしている所を目撃しながらコレというのはやや危なげな光景にも見えるが、まあ、ユキとてハナのそれが食事なのは弁えている。内心はともかく目くじらを立てることはない。
のだが、今はそういうのともまた違う。
何というか、満面の笑みだ。明らかに肌艶毛艶が超良好。誰が見ても何か良いことがあったと分かるだろう。
「……やはり、兄は美味しいのですねぇ……」
唇を離し、ぷは、と息継ぎをしながらハナは言う。
ぼそりと呟かれた程度の言葉でも、静謐な早朝の空気には良く響く。
まずはヤクモが、音が届く程度の間を空けてユキが、一気に顔を赤くする。
こうあからさまに言われると、何というか、その、困る。
「やれやれ。何かあるとすぐに発情するのだから人間というのは困った生き物ですね」
「発情言うな人聞きの悪い。つーかお前も色々大概だからな?」
ヤクモがじめっとした目でハナを見るが、当のハナは鼻で笑って両手を開き、アメリカ人のようなオーバーアクションでやれやれと口にする。勿論、声に抑揚はない。
「ま、要求は後ほどお伝えします。恋人の唇を奪った上に二人の時間まで邪魔しては全く野暮というものですからね。こんなカップルだらけの所にいられるか! 私は先に行かせていただきます」
相変わらずの声でよく分からない小芝居を入れてくるのはどうにかならないのだろうか、この娘。
「では、そんな訳でまた学校で。……あんまり遅くなるようなことを道中で行うのは感心しませんからね」
朝っぱらからそんなのやるか。
ツッコミの声を聞く事なしに、ハナは走り去ってしまう。
足裏に動力付きローラーを作り出して進む『ローラーダッシュ』なのであまり人間的な意味での『走る』ではないが。
なんだかいつもこんなことをしているなあ、とか思いつつ、ヤクモがユキの方へ向き直ると。
「あ、あのね、やっくん……」
ユキがもじもじしていた。
物凄く恥ずかしそうな顔をしていた。
「……よし、早く学校に」
慌てて歩き出そうとするヤクモの袖を、ユキが掴む。
三メートルほど離れていたので、平均時速八十六キロほどで近寄られた計算になるが、そういう人間離れした真似は如何な物か。
「ね、お願い……」
身を曲げて、潤んだ目で見上げるユキ。
ユキはヤクモより背が高いので、これは滅多にないアングルだ。もしかしたら、無意識の計算かも知れない。
「いや、あのな?」
ヤクモの渋面にユキは、
「ホント、さきっちょだけ、さきっちょだけだから」
まるで駄目な男のような懇願をするが、応えるのは中々どうして難しい。
彼女、ユキという女子は肉食である。
一時期よく使われた肉食系――恋愛に積極的という意味ではない。
物理的に直接的に、肉を、食う。それは完全に文字通りの意味であり、性質であり、習性である。
いや、まあ、勿論。
人間は基本的に雑食で、であるからには肉も野菜ももぐもぐ食って、大きくなったり太ったりするものだ。
肉を食わないとか、肉しか食わないという人はそういう主義や主張や習慣があるか、でなければ単純に好き嫌いだろう。
だが、ユキのはそれらとは少々違う。強いて言えば、種族的特徴、とでもなるのだろうか。
そこらは結局個人の事情だ、ヤクモは否定も肯定もしない。
どうでもいいし、
どうしようもない。
ただ、そこには一つ明確な問題があって。
彼女の嗜好する肉というものが血の滴る生で――しかもヤクモのものである、ということだ。
幸いヤクモは色々あってほぼ不死身だが、それだって痛い物はごく当たり前に痛い。血だけならまあ、と思っても、肉は中々どうして難しい。
なお、血だけでも十分アブノーマルだということに二人ともまだ気付いていないので、そこは触れないでおくべきだろう。
躊躇うヤクモと、目をうるうるさせたままのユキ。
しばしヤクモは困った顔でいたが、さっと周囲を見渡すと、
「……あんまり痛くしないでくれよ?」
おっかなびっくり右手を出した。
ユキはぱっと目を輝かせ、何度も深く頷くと、笑顔でヤクモの指にかぶりつく。
生暖かく、やや粘っこい。ざらざらとした肉塊が愛おしむように皮膚を撫で、心までしっとりと湿らせる。
そこにある肉の感触を、味を、舌の全てで確かめる。
そして、ヤクモの指先に鋭くゆっくりと訪れる痛み。
硬い歯が皮を割り裂いて、薄い肉をぷちぷちと押し切っていく。たった三ミリもないその距離を、とても大事そうに進む。
溢れる血が唾液と混じり、それを飲み下すためにユキの細い喉がせわしなく動く。
ユキは顎を軽く引くことで、ヤクモの肉を骨から離す。そのまま口を離すことなしに、再び奥まで含み、舌で舐め、骨に残った肉片を刮ぐ。
勿論、とんでもなく痛い。
痛いが、くすぐったい。くすぐったくて――どこか少しだけ、気持ちいい。
大体、顔をとろんとさせた美少女が、夢中で指に吸い付いているのだ。それが目の前にあるのだ。ちょっとやそっと痛かろうが、それがどうしたというのだ。
男たるもの、例え強がりでもやせ我慢でも、平気な顔で受けて立つべきだろう。
……一応、下心はあるにせよ。
前歯が骨を引っ掻いていく。それは文字通り、骨身に染みる痛みだ。
そうして、ユキが口を離すと、そこにあるのはヤクモの指だ。傷一つなく、ただ少し濡れているというだけの。
けれど良く見れば、爪の周囲だけが不自然に綺麗な、指だ。
色々と複雑な――アンドロイドの妹ができたり、肉食女子が恋人になったり、まあ、そういうのと同じくらいいい加減で乱雑で出来れば関わり合いになりたくない類の――事情によって、今のヤクモは不死である。矢でも鉄砲でも核ミサイルでも、今の彼を殺すには役者が足りない。
それを便利と言うべきか不便と言うべきかは知れないが、
「満足したか?」
ぶっきらぼうに問う声に、
「うんっ!」
こうやって、ユキが晴れやかな笑みを返してくれるなら。
まあ――そんなに悪くはないかもな、なんてヤクモは思う。
それから学校であった諸々をすっ飛ばして、放課後過ぎの昼下がり。
ヤクモの部屋。ハナはベッドに腰掛けて、ヤクモはその正面で正座をしている。
何も知らない人間がドアを開けたら、思わず「間違えました」とか言ってしまいそうなほど、気まずい空気が満ちている。何を間違えればそんなことになるのかは分からないが、そんな感じだ。
ハナの目は平坦であった。胸はもっと平坦である。まあそんなことはどうでもよろしい。
「言っておきますが」
はい、と何故か敬語で答えるヤクモ。兄らしさは全くない。
「別に、兄が誰と乳繰り合おうと構わないのですよ」
冷たい声に、がくがくと頷くヤクモ。その動きは水飲み鳥のものにそっくりだ。
「ただ、先約を破ってそういうことをなさるのはいただけません。私が言いたいのは人としての道、誠意、実直さ、より良く正しい人間関係の作り方についてです。それを適える為に、優先順位というものがあります。時間と場所を弁えなヨー、ってことです」
至極尤もな話に、ヤクモは少し顔を落とす。今回のことは、完全に自分が悪いのだ。よく分からん語尾に突っ込みたいが、流石に我慢する。
「よろしいですか。兄の採るべき順位テーブル、それは妹、妹、妹です。すべての道は妹に通ず。その他の些末事はさておいて、妹との時間を持ちましょう」
流石にツッコミは抑えたが、溜息は隠しきれなかった。
考えて見ればこの妹、基本、無茶苦茶なことしか言わない女だ。
「その辺のことはよろしいが、ハナよ。結局今回の要求は何なのだ」
「ふう。聞きますか、それを。直接。しますか、女の口で言わせようと」
何故倒置法なのかは知らないが、色々と鬱陶しいのは間違い無い。
「ま、兄のような男子は鈍い物と相場が決まっております。その辺り、様々の本に書いてありますからね。その方が引き延ばしもしやすくなりますし」
「フィクションと現実をごっちゃにするでねーよ。俺、特別鈍かったり聡かったりせんだろうに」
「鈍い男は皆そう言うんです」
「鈍くなくても言うわ! お前と話してると俺、病気になりそうだわ……」
「ああ、お医者様でも草津の湯でも、というやつですね。でも思うんですがアレ、相手の異性と一緒に草津の湯に浸かったらたちどころに快癒するのでは」
「いやそれは悪化するような気がもするぞ……」
うっへりしたツッコミに、何故かハナは溜息を吐いて――呼吸の必要が殆どないハナがそんな素振りを見せるのは、つまり何か言いたいことがあるのだろうが、まあ、一々考えるのも面倒だ。ヤクモは残念ながらハナのような妹原理主義者ではないし。
「一応言っておきますが――やはり、兄は鈍い男ですよ。それもコレも何もかも、今更過ぎる話ですがね」
何だかよく分からないが、呆れられているのはヤクモにもよく分かる。
流石に意味を問おうとした矢先、
「では要求を伝えます」
おおう、と出鼻をくじかれる。
「デートをしましょう」
ハナの何でもないような声に、ヤクモは思わず口を開いた。
「デートぉ?」
とてもバカみたいな話だが、オウム返しする他にない。何というか、あまりにも予想の埒外すぎて。
しかしそんな反応も、ハナにはお見通しだったらしい。軽く肩をすくめただけで、ハナは淡々と言葉を続ける。
「ええ、デートです。男女がすなるという、あれ。別に野球でなくても構いませんよ。ええまあタマだのバットだのを弄ぶ競技をお望みでしたらこちらとしても吝かではありませんが」
「すまないがお前が何を言っているのか時々皆目分からんのだが」
大げさに首を傾げ、ハナは何やら頷いて。
「お兄ちゃん、ハナにもユキさんにしたのと同じこと、して?」
「時々お前が読む本とかその他を規制したくなるよ」
「大丈夫ですよ、先っちょだけですから。ホント、先っちょだけですよ?」
「その先端部が何処を意味するのか知らんがアウトな匂いしか漂ってこないぞ」
「良いではありませんかそのくらい。背もちんこも小さい上に心意気まで小さくてどうします。とにかく、私は要求を述べました。ここから先は兄の意志と選択の問題です。大人しく私とデートをするか、明日から学校で『オッス、企画系兄貴!』と呼ばれるか」
「ええいじゃかぁしい、やりゃいいんだろやりゃあ!」
「思うに最近の兄はキャラが変わってきましたよね。嘆かわしい」
「誰の所為だと思ってるんだ……」
まあ、そんなこんなで今週末。何の因果か、妹のようなものとデートすることになったヤクモである。
色々考えていたら長くなってきたので続きはまた後日。
前回に比べてどうも勢いが足りないナァ。