魔王と昼食
とりあえず仕事をしながら、首が治るように神頼みをした。じゃなきゃ今月の給料まで生き残れないかもしれない。むしろ借金地獄に一直線になる。そんなの御免こうむる。
ビクビクしながら、午前中が終わり昼休みの時間になった。チャイムが成り終わったところで、俺は保健室から出た。昼食を受け取りに購買部に向かうのだ。
流石に昼休みなこともあり、校舎内は生徒たちの姿で賑わっている。俺と同じように購買部に向かう生徒や、ほかの場所で昼食を取ろうと移動する生徒。用事で職員室に向かう生徒と、その様子は様々だ。
「沙雫ちゃん珍しいじゃん」
「そういえばいつもひとりでお弁当だよね」
「ちょっと訳ありなんだよ。お前らはもう少し栄養あるのたべろよ?そんなコンビニで買ったやつじゃなくてさ。特に今は体が出来上がる大事な時期だしな」
「はーい」
「あ、沙雫ちゃん。2階のトイレ流れワリィ」
「はぁ?お前らまた詰まらせたんだろ?また業者呼ぶのかよ」
「あのトイレもうダメじゃね?寿命だよ寿命」
「そうそう」
「んなわけあるか!ったく、もう少しトイレの扱いしっかりしろよ」
トイレ云々言ってるけど、お前らここ購買部だから。お昼ご飯目の前にしてよくそんなこと言える……ってまぁ、そんなの気にしないよな。
代金と引き換えに頼んでいた昼食を受け取り、保健室に戻る。俺はよくそこで昼を食べる。あまり保健室を無人にしていたくない。いつ誰が来るかわからないからだ。言っておくが魔王のことは当てはまらない。あくまで保健室は学校の施設であり、俺は生徒のために保健室を開けている。決してあの魔王のためではない。
「あー、廊下寒っ」
「少し暖房きつくないか?」
「じゃ、少し下げ……なんでいるんですか!?」
魔王がデスクに一番近いところのベッドに腰掛けていた。自然な様で足を組んでいるのがなんかムカつく。似合いすぎてムカつく。足長いの見せびらかしてんじゃねぇ!
「なんでと聞かれても、その答えはないな」
「じゃ、帰ってくださいよ!」
「無理」
無理ってなんだ無理ってぇ!!そんな答えで俺が認めると思ってんのかぁ!!
昼食の入った紙袋をデスクの上に起き、椅子に腰掛けた。そして紙袋の中から、おにぎり二つとコロッケパン、唐揚げ(5個入り)それとパックの緑茶を取り出した。
「なんだ、今日は弁当じゃないのか」
「あなたの家に弁当箱忘れてきたんですよ。ここにフラフラ来るなら、今度持ってきていただきたいですね」
「お前が忘れたんだろ」
そうです、ごもっともですよ。
「首の調子どうなんですか?」
「残念ながら、だいぶよくなってきたな」
「文おかしいでしょ。どこが残念なんですか。それは良かったんですよ」
よっしゃぁ!!借金まみれの人生回避!!神様ありがとう、愛してます!!
安心したら急に空腹感が出てきた。魔王のことはこの際いないことにして、俺は昼食を食べよう。今日は早く帰って寝るぞ。昨日もぐっすり寝たけどさ。
おにぎりの包装を開き、ほおばる。口にくわえたまま、緑茶のストローを外し、突き刺す。ちなみにコロッケパンは、帰りにお腹がすいた時ようだ。あの時間は微妙に小腹がすいたりするんだよな。コロッケパンは小さめだからちょうどいいんだ。
「行儀悪いぞ」
「むふ?」
魔王にくわえていたおにぎりを取られた。わずかに口の中に残ったおにぎりを咀嚼する。モグモグしている俺を、見下ろす……見下してくる(雰囲気がそんな感じ)魔王は、そのまま無表情で俺のほうに迫ってきた。
「ちょ……何……ぎゃっ!?」
おにぎりを持って無い方の手で俺の顎を掴んだと思ったら、俺の口元を……。舐めた!?ちょ、何やってんだ!?
でも衝撃が強すぎたのか、俺はただ口元に手を当てて呆然と魔王の顔を見つめ返すしかできない。そんな間抜けな俺の姿が、やつのメガネのレンズに写っている。なんか頬が……顔が熱い。
「何……して……」
「米粒付けるなんて、お前は幼稚園児か」
「は?米っ……!?はぁ!?」
「顔……真っ赤になってんぞ?」
「にたり」とまさにそんな感じで笑うその顔が、再び俺のすぐ近くまで来た。なんでこんな心臓ばくばく言ってんだよ。なに?俺死ぬの?魔王に殺される五秒前!?
「うっせ馬鹿!!何そんな楽しそうなんだよ!!ふざけんなこんちくしょう!!こっちくんな仕事戻れぇ!!!!」
クスクスと笑いながら、俺のおにぎりを強奪したまま魔王は去っていった。しばらく俺は、緑茶のパックを握り締めてることにも気づかず、放心していた。
男子からどう呼ばせようか悩みました。結局沙雫ちゃんですがね。
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思わず目を疑いました。今でも信じられてないです。
更新はできる限りしていくので、これからもよろしくお願いします!




