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魔王の帰還




 ある日家に帰ったら、母親がいなくなった。


 両親の離婚、その予兆はなかったわけじゃなかった。酒癖が悪い父親に、母親は疲れ果てていた。そして当時中学生だった俺と、その日も働きもせずどこかに行っていた父を置いて、出て行ったんだ。


 それからは、実情俺ひとりで生活しなければいけなくなった。


炊事洗濯、掃除。家事全般なんかそれ以前はやったことがなく、手探り状態でやった。


 働かない父のせいで、学校に許可をもらってバイトもした。


 毎日毎日、その日生きることだけで手一杯で、気づけば疲れて午前中はほぼ保健室登校をしていた。寝ても寝ても、疲れは取れなかった。


 めまぐるしいくらい忙しかったからかもしれない。寂しいと思わなかった。でも自分が思ってなかっただけで、本当は寂しかったのかもしれない。でもいろんなことが混ざり合って、自分でもよくわからなくなっていた。


酔いつぶれて寝ている父親を見るだけで吐き気がした。どうして俺も連れて行ってくれなかったのか、母を恨んだ。



 そんな俺を、その中学の養護教諭は優しく見守ってくれた。事情を知り、朝から保健室で眠る俺をそっとしておいてくれた。ちょっとした悩みも、微笑んで聞いてくれた。


 今この職に就いているのも、その先生のおかげだと思う。


 父親は俺が高校に入ってすぐ、死んだ。酒の飲みすぎで肝臓を壊し、それでも酒を飲み続けた末……死んだ。酔って出かけて、そのまま車道に出てはねられて死んだらしい。


 涙が出なかった。


それどころか、やっと解放されたと心のどこかで安堵した俺は、息子失格だろうか。それ以前にあいつは親失格だったけど。


 それからは、将来の目標になった養護教諭になるため、猛勉強した。




◆◆◆


 ふと目を覚ました。


懐かしい夢を見てた気がする。決していい夢とは言えないものだったけど。


 目を覚ますと、目前には有智くんの寝顔があった。室内はまだ薄暗い。……あれ、今何時だ?


 嫌な予感がして、俺は室内を見渡しそこにあった時計を見て唖然とした。そりゃもう、口が閉まらないほどの衝撃だ。


「朝の……6時!?やべっ、あのまま寝ちゃったのか!?つか仕事!!」


 有智くんを起こさないように注意しながら、寝室から飛び出した。すると最悪なものが目に入ってきた。


「やっぱ温めたほうがうまいな」

「何……やってんですか」

「昨日は助かった。急に大阪まで呼び出された」

「いや、それは別に」


 昨日の残りの肉じゃがを、指でつまんで食べている魔王がいた。まだこんな時間なのに、すでにスーツをビシッと決めている。


「まさか……今帰ったばかりとか?」

「いや、深夜には帰ってきた。お前たちが俺のベッドを占領してたせいで、俺はそこのソファで寝る羽目になったがな」

「え……」


 あれって魔王のベッドだったの?めちゃくちゃ寝心地よかった。それになんかいい匂い……って何言ってんだ俺!!


「首が痛くなったな。こうなるんだったら、お前をベッドから突き落とせばよかった」


 ふざけんな!!そんなことされてたまるか!




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