魔王の寝床
てなわけで、レッツ・クッキング!
無駄に広いキッチンに向かい、勝手ながら冷蔵庫の中身を拝見。意外に中身は充実していた。これならなんでも作れそうだ。さてどうするか。
つかこの肉高そう……。和牛?うっわ、これスーパーじゃめちゃくちゃ高いやつだろ。これがさも当たり前のように入ってるって……あぁ、金持ちだったな。
とりあえず適当に食材を選び、思い浮かんだ料理を作る。炊飯器が空っぽだったので、早炊きでご飯も炊こう。あとは味噌汁と……。
料理を作るのは、得意だ。かれこれ料理暦10年くらいだ。
◆◆◆
それから30分ほどで夕飯が完成した。有智くんの食べる量がわからなかったから、少し多めだ。
「うっわーすごーい!これ全部沙雫兄ちゃんが作ったの?」
「当たり前だろ。あ、箸忘れた」
「僕持ってくる!!」
そう言ってキッチンに駆け込んでいった有智君。しばらくして戻ってくると、茶色い木製の端を俺の方に差し出した。
「え?」
「沙雫兄ちゃんも一緒に食べよ?」
「でも……いいのかな」
「ご飯作ってくれたんだもん。パパがなにか言っても、僕がメッてするから大丈夫」
この子……超いい子だ。本当にあの人の子なのか不安になったくらい。まさか、誘拐されたとかじゃないの?魔王の生贄みたいな?やめよ、マジでありえそうだからやめよ。
ちなみに、今晩のおかずは肉じゃがに、コロッケ、マカロニサラダだ。もうすぐで芽が出そうなじゃがいもがあったからそうしたんだ。
「有智君どう?」
「すっごい、美味しい!」
「そっか、よかった。いっぱい食べろよ」
それから俺もお茶碗等を拝借し、一緒にご飯を食べた。食べ終わって俺は悪戦苦闘しながら風呂にお湯を溜め、一緒に入った。俺のマンションよりハイテクなものばかりで、さっきもキッチンで一人あわあわしてた。
ていうか……わずか数時間で、仲良くなりすぎなんじゃないか。まぁいいけどさ。
帰るタイミングを完全に見失った俺は、一人リビングにいた。こんな時間になっても、まだ魔王は帰還しないようだ。いくらこのマンションがセキュリティ優れているとしても、一人有智くんを残すのは気が引ける。せめて帰ってくるまで居ようとは思ってる。
ちなみに有智くんはさっき寝室に向かった。ひとりでも寝れるそうだ。最近の子はしっかりしてるんだろうか。
「沙雫兄ちゃん」
「ん?あれ、どうした?トイレ?」
「一緒に……寝て?」
「……ぷっ」
「笑うなんてひどいー!」
「ごめんごめん。わかったから、早く布団行こうな。風邪ひくぞ」
「うん」
やっぱ、まだ一人じゃ寝れないよな。有智くんが寝付くまで、俺もとなりで横になった。最初は俺がどこかに行くんじゃないかと疑われ、こっちを見つめ続けてきた有智くんだったけど、だんだん眠気には勝てなくなったようでウトウトし始めた。俺はそんな有智君の頭を、優しく撫で続けた。
なんか、優しくて落ち着く匂いがした。