魔王の居城
北条宅は高級マンションだった。多分俺のマンションより、家賃は数倍だと思う。
20階建てのマンションの最上階が、北条宅なわけだ。って、この階全部が?どんだけ金持ちだよ。別に羨ましくなんか……ねーし。
「有智くん、鍵とかある?」
「うん、はい」
そう言って差し出されたのは、可愛いカード入れ。あぁ……カードキーってやつですか。回さないんですね。
カードキーをとりだし、ドアの機械にそれを差し込んだ。俺はそのまま帰ろうかと思ったけど、有智くんに手を捕まれ、そのまま中に入った。そして出迎えてくれたのは、めちゃくちゃ広い玄関。すっげぇなにこれ。ホテルじゃんホテル。床って何、大理石ってやつ?白い大理石がピカピカしてんだけど。ここ土足で良い訳?
玄関でつっ立ってた俺を、カバンをおいた有智くんが中に招き入れた。あれ、俺まだ帰れないの?
「ていうか、誰もいないんだ」
「うん、パパはお仕事だし。だからお兄ちゃんがパパの代わりに来たんでしょ?」
「そりゃそうだけど……」
寂しいよな。家帰っても誰もいないって。流石にこの年になってそんなこと思わなくなったけど、子供のころは寂しいかったよな。テレビつけても、ゲームしても寂しさって紛れなかったんだよな。
「いつも……こんな感じなのか?ひとりで……」
「ううん。いつもは杉下のおじさんが来て、一緒にいるの」
「なるほどね……んじゃ、今日は俺がいてやるよ」
「本当!?」
「帰ってくるまでだぞ?」
「やったぁ!」
飛び跳ねて喜ぶ有智君。いや俺まだ若いはずだけど、そんな体力残ってないから。ホントは自宅に戻ってそのままベッドにダイブしたかったんだよ。だからその……おうちの中でできる遊びにしよう、ね?
◆◆◆
なんていう心配は杞憂に終わった。すごいよここ、ありとあらゆるゲーム機とか全部揃ってるし、ソフトの数も尋常じゃない。ほかにも車のおもちゃとか、おもちゃ箱から溢れんばかりなほどある。
「ねぇ、沙雫兄ちゃん。お腹すいた」
「ん?あぁ、もうこんな時間か。いつもは夕飯どうしてるの?」
「でりばりー」
「へぇー、そばとかラーメン?……なわけないですよね、ソウデスネ」
「どうかしたの?」
首をかしげて俺を不思議そうな目で見てくる有智君。そんな彼が差し出したのは、高級ホテルのレストランのメニュー表。ここってデリバリーやってんの、って疑える程の店だ。ていうか、値段書いてないんだけど。俺ここで出前とか取れないわ。怖いし。
「もしかしてほとんど出前とってんの?」
「うん」
「よし、俺が作ってやるよ」
ダメだ。このままじゃ有智くんの将来が心配だ。
これが当たり前の生活だ、と思ってこのまま生活して言ったらあの魔王の二の舞になるかもしれない。大丈夫、まだ魔王の片鱗は見えない。このままピュアに育てばこの世のためそして俺みたいな人のためになるだろう!
自炊したくなかったけど、やってやろうじゃんか!
なんとなく魔王って言ってますが
あくまで沙雫が心の中で雄治につけたあだ名です。
でも理事長って学校のトップ?みたいな感じだし……あながち間違っちゃないかなぁと…
魔王の他にも帝王とか覇王とか候補はあったんですが
まぁ一番オーソドックスなやつ(?)にしました。