魔王の代理
なんで俺はここに居るのか、改めてわからなくなる。なんで俺、保育園なんかにいるんだろう。
とりあえず門のところで突っ立ってるのも不審なので、中に恐る恐る入っていく。保育園の建物からは、親に手を引かれて帰っていく園児の姿が見える。どうやらお迎えの時間らしい。
とりあえず、保育園の職員室に向かった。やっぱり聞くのが手っ取り早いだろう。
「あのすみません、ま……北条雄治さんにここに行くように言われたんですが、何かご存知ありませんか?」
「あぁ!あなたがお迎え代理の方ですね。はじめまして、お待ちしておりましたよ」
「お迎え……代理?」
うっすら予想はしてたけど、やっぱりそうなのか!?でもあまりにもミスマッチ過ぎて、必死に頭からその考えを追い出してたよ!
ていうか、誰をお迎えすんの?
「では、有智くんのクラスに行きましょう」
「有智くん?」
有智君というのが、どうやら俺がお迎えに来た園児の名前らしい。対応してくれた先生とともに、有智くんのいるらしいたんぽぽ組に向かう。俺……ひよこ組だったな。どうでもいいけど。
保育園はなんていうか小さな子供を対象に作られているから、水道とか低めに作ってあってなんか可愛い。いるだけで癒しだ。高校とは全然違う。あそこはストレスしかたまらない、ある人物のせいで。
たんぽぽの形をした色紙に平仮名で「たんぽぽ」と一文字ずつ書いてある。それが貼られているドアの場所こそ、たんぽぽ組だ。
「有智くんー!お迎えの人が来たよー」
「あ、ママー!!」
「は?ママ?……ママ!?」
俺に向かって走ってきた男の子は、そのまま俺の足に抱きついてきた。いやいやいや!!俺は保育園児の子供を持った覚えはない!!
恋人はいたことあるけど、そんな行為してないうちに別れたし!!よってだれかの親にはなってない!!つか、俺はママって呼ばれるわけないだろ!男だぞ一応!!
「有智くん、その人男の人よ?」
「え?うわ!ほんとだー。全然気付かなかったー」
「(ぐさっ)はじめまして、俺は鈴峯沙雫っていうんだ」
「北条有智、4歳です」
有智くん4歳なんだ。……え、北条?
「北条?ってまさか……。ねぇ、君のお父さんの名前って……」
「北条雄治だよ?」
やっぱりか!?あの人子持ちだったのかよ。結婚してそうな感じしてたけど、子持ちとか。ていうか有智くんに全く面影無い!!いや……外見はなんとなーく似てるといえば似てるんだろうか。あの人の目を大きくつぶらな瞳に変えたら有智くんにならなくもない。
「あー。なんとなくだけど分かってきたぞ。なるほど……この下の住所は家の住所だな?有智くん送ってくのに必要ってわけだ」
「先生、さようならー」
「またあしたね。じゃあ、よろしくお願いします」
「あ、はい。ありがとうございました」
有智君の手を引いて、愛車まで戻る。なんかこんな小さい子供、相手にしたことないからどうしたらいいのか戸惑うんだけど。とりあえず嫌がられないでよかった。
有智くんを助手席に座らせ、しっかりとシートベルトを締めさせた。
「わーい、ちっこい車だー」
「ちっこい言うな!」
再び車を発進させ、今度は北条宅へと向かう。住所見て思ったけど、やっぱりいいとこ住んでる。