魔王の依頼
突然現れる理事長様に、言いたいことはたくさんあったけど、言い合いで勝てるとは思わないからやめた。
パソコンのあるデスクまで戻り、事務処理をしよう。
理事長?まだいるけど?
ていうか、近い。椅子を俺の隣にまで持ってきて座るなよ。なんでわざわざ?あとこっちみんな。
「お前、今日定時であがれ」
「はいはい……はぁ?なんですかいきなり」
「それでここに行ってこい」
そういって手渡されたのは、小さなメモ用紙だった。
これは……何処の住所だ?なんで2ヶ所も書いてあるんだ?
「まず上に書いてある所にいけ。そうすれば大体わかる」
「いや、現在進行形でわけわかんないですけど」
「校長には言っておく」
「そういう問題か!?ちょ……待て!!戻って来いよ!!……行っちゃった……」
大体……俺の意思は尊重されないのか。されないんだな。そうか。
ふざけんなよ!!今日付けの仕事あんのに、あと半日で片付けろってか?無茶苦茶だよ、あのやろう……。
「大体……なんで俺に頼むんだ?」
別に秘書の杉下さんに頼めばいいんじゃないのかとも思うんだけど。わざわざそれを言うために来たとか、それこそ時間の無駄じゃないんだろうか。
◆◆◆
なんとか定時で上がれた。もう仕事はしたくない。できればこのまま家に帰って、ベッドに倒れ込みたい。そう思いながら、愛車の軽乗用車に乗り込み発車させた。向かう先は、この住所の場所だ。
住所だけだったが、大体の場所はわかった。何が待ち受けているのかが怖いんだけどね、頼んできた相手が相手だし……。
「あー、今日の夕飯どうすっかな……。疲れたし、惣菜でも買って帰ろうかな……。でも明日の朝ごはんがなぁ……」
度々ある信号待ちの間、そんなことを考えていた。いや、だってそれしか考えられなくなってきてるんだよね。もう帰って風呂入ってご飯食べて寝たい。仕事終わりはもう何もしたくなくなるんだよ。あぁ、そういえば今日はあのドラマやるんだっけ?サスペンスだけど、あれ原作好きだから見てるんだよなぁ……。でも眠いなぁ……って、今は寝ちゃダメだろ。
10分くらいだろうか、ようやく目的地周辺まで来た。結構かかったけど、ここら辺って何かあったっけか。あんまりこっちは来ないんだけどなぁ。住宅地とか、小さな商店街とかあったよな。
「ん、ここら辺だなぁ……え?」
そこで俺の目に飛び込んできたのは、目を疑いたくなるような場所だった。
いやね、これがもしあの理事長の依頼じゃなかったら、納得できてたかもしれないけどさ。あの理事長が、ここに用事?え、すっげぇミスマッチなんだけど。間違ってない?
「ここ……保育園だ……」
保育園のもんのところで車を降りて立ち尽くす俺。どうすればいいのかわからないんだけど!?