魔王の告白
頭が真っ白っていうか、思考が停止した。もうただ魔王の顔を見つめ返した状態で、固まってるしかできない。
だって、離婚した理由に自分が出てくるなんて誰が想像できる?冗談だと思いたいけど、相手がそんなの言うはずもない人だからな。誰か冗談だって言ってくれよ!なに?今日はエイプリルフール?なわけがないんだよな。
「なんで、俺が離婚の理由に入ってるんですか?」
「俺の個人的な理由だけどな。俺は誰にも言ってないから、お前が関わってるなんていうのは誰も知らない」
「でも、俺何かしたんですか?離婚の原因になるようなことなんて……、もしそうだったら、すみません」
「言葉の選びが間違ってたな。お前は何も悪くない」
「え?」
「あの女に嫌気が差してた時だった。お前に会ったんだ。学校にたまたま用事があっていったとき、まだ来たばかりで緊張気味のお前を見かけた。その時はまだ直接会ってはないから、お前に覚えはないだろう」
確かに、全く覚えがない。
あの頃はまだ、理事長がこんな人だなんて知らなかったし。周りの事より早く新しい職場になれないとって、それでいっぱいいっぱいだった。
「見てすぐに、俺は間違っていたと後悔した。それから離婚がより確定的になった」
「いや、なんで離婚に結び付くかわかりません」
「あの女よりお前のほうがいい」
「は?」
真面目な表情。艶やかな黒髪、凛とした瞳、知的さを醸し出す眼鏡。
強引で自己中で、ちょっと俺様で……。意地悪かったりするけど、優しくてかっこよくて。
欲しいけど、俺には高嶺の花すぎる。
どれだけ手を伸ばしても、届くことのない存在。欲しいと、飛びつきたい。
でも……それは叶わない。叶えてはいけない。
「お前が、好きだ」
お前が……好きだ……?
「冗談……やめてください……」
「俺は冗談なんかいわない」
「俺をからかうにも、限度があります」
「からかってない。俺は本気だ」
そう言われても、信じられるわけないだろ。
視線をそらし、冷たいタイルの床を見つめる。
信じられないんじゃない、受け入れられないんだ。
出来ることなら、あのまま頷きたかった。好きと言われて、心を奮わせたほど嬉しく思った。
でも俺の中で一般常識なるものが、それを揺るがせる。
同性で、職場の上司と部下で。相手は子持ちで。金持ちで……。
挙げたらきりがない。俺と魔王の不一致。
「俺は……男で……」
「……」
「ただの養護教諭で……」
「……」
「貴方と……釣り合うはずが……」
「俺が好きなのは、お前だ。俺と釣り合うかどうかなんか、誰も決められない。俺と……有智の傍にいてくれないか」
嘘みたいな、この時間は夢なんだろうか……。
顔をあげると、まだ真剣な顔の魔王がいた。もう……どうなってもいい。
俺はただ無言で魔王の胸に飛び込んだ。
もう……逃げるのはやめよう。
次回:最終話2月21日19時更新。




