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魔王の来訪

 養護教諭といえど、暇な仕事というわけじゃない。基本は保健室にいて体調不調になった生徒の対応に当たるのが主だけど、そのほかにも様々な仕事がある。


 季節に応じて、風邪の流行の注意を促したり、学校内の水質検査とか照度検査、空気検査なども行ったりする。もういっかい言うぞ、暇じゃないんだ。


「沙雫ちゃんー生理始まっちゃったー、ナプキン頂戴」

「がはっごほっ……!市川……もうすこしオブラートに包んで言えよ。俺男なんだから恥ずかしさとかないのかよ」


 コーヒー返せ。吹き出したじゃないか。


「えー、沙雫ちゃん男って感じしないしー」

「大きなお世話だコンチクショウ!!」


 160半ばの身長、生まれつきの女顔からなのか俺はあまり男扱いされない。こうして女子生徒からすらこの有様なのだ。


まず先生と呼ばれない。まぁ俺はある意味教師ではないから先生と呼ばれなくてもいいが、ちゃん付けはないだろ。沙雫ちゃんとかマジで女に思えるだろ。


 だけど何度言ってもやめてくれない。


「いつもんとこ入ってるから。生理痛はひどくないか?」

「んー、大丈夫そう」

「もしきつくなったら薬あるから取りこいよ」

「やだー、沙雫ちゃんやさしー。惚れそう」

「ったく……」


 自分が吹き出したコーヒーをタオルで拭き取る。パソコンにかからなかったのは奇跡だ。このパソコンは学校のものだ。弁償とかは勘弁して欲しい。


 体育の授業だろうか、生徒の声が外から聞こえる。それ以外は特に騒音もなく、時計が時を刻む音が静かに繰り返されるのが聞こえている。



 ややぬるくなったコーヒーを口に含む。私立高校は今や冷暖房完備は通常装備とも言える。公立高校とかでは寒さや暑さを凌ぐため保健室や図書室に人が殺到するのだが、この学校はそれがない。まぁ、する必要がないんだろう。


 だから保健室を訪れるのは本当に体調が悪い生徒とか、怪我をした生徒がほとんどだ。それも一日に数人程度だから、保健室はこうして静かな空間と化すことが多い。


 それを知ってか知らないでか……。いや、絶対に知っている。


「っと、もうこんな時間か。そろそろ来るな」


 壁に掛けてある時計を確認し、俺は棚の上に置いていた缶詰を取った。ラベルにはキャットフードと書かれている。そして人が通れる大きさの窓を開けた。


 保健室はそのままグラウンドに出れるようになっている。体育で怪我してもそのまま来れるようにしてあるのだ。窓の脇にはちゃんと水道もある。


 缶詰の蓋を開けしゃがみこむと、ちょうどお客さんが来たところだ。


「にゃー」

「ほら、いっぱい食えよ」


 お客さんとは、小さな三毛猫だ。大きさからして子猫だろう。数日前に見つけて、親猫とはグレたのか、一匹でいたのを保護したらなつかれたんだよな。でもうちはペットダメなマンションだから、買えないのが残念だけど。だから缶詰で我慢。


「美味い?」

「にゃー」


 コイツ見てると、仕事の疲れとか全部吹っ飛ぶんだよな。アニマルセラピーってやつ?


「餌付けてもいいが、敷地内に糞をしてたら速攻で追い出すぞ」

「ぎゃあ!?」

「お前のでかい声のせいで逃げていったぞ」

「えっ!?あぁ……行っちゃった……」


 校庭の植え込みの下に消えていく三毛猫の姿を、俺はがっくりうなだれながら見送った。


「ていうか、なんでまた来てるんですかぁ!?」


 大体、猫が逃げたのは絶対にこの魔王……じゃなかった、理事長が来たからに決まってる!!俺のせいじゃない!

 返せ、俺の癒しを!!


「暇になったからの他に何か理由でもいるのか?」

「あなたは暇でも俺は暇じゃありません!!」

「猫と戯れるのは仕事か?」

「うぐ……」


 やめろ。その何か言いたければ言ってみろ、っていう余裕綽々の表情すんな!!




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