魔王の誘い
今までは、誰かの為にする料理何か作ったことなかった。
父親はどこかで飲んで寝てたから、実際は俺だけの分を作ればよかった。だから、誰のためにどんなものを作ろうか。そんなことを考えながら作ったのは、あの日有智が初めてだった。もちろん、美味しいって言ってもらえたのも初めてだった。
とても嬉しかった。もっともっと頑張ろうって思えるくらい、嬉しかった。
「今晩は……どうしようかな……。でも今日は金曜だし……」
ふと弁当のオカズの唐揚げを掴んでいた箸を止めた。金曜ということは、明日は学校は休み。俺も2連休だ。魔王は……明日休みだろうか。理事長って週休2日制なのか?
「食わないのか?もらうぞ」
「うーん……」
「ない頭を使ってどうした?」
「うー……う?うぎゃぁ!?」
だからあんたは何でいつも唐突に来るんだ!!俺の唐揚げ返せ!!あげるなんか一言も言ってないぞ!!
「騒々しいぞ」
「誰のせいですか!!ていうか、自分のお昼くらいあるんでしょ!?俺の食わないでください!!」
「あんなもの……。お前の弁当の方が美味い」
「え……」
ヤバ……素直に嬉しい。顔に焼けそうになるくらい、めちゃめちゃ嬉しいんだけど。まさか魔王にまで、美味しいって言ってもらえるなんて思わなかった。
なんか、きっと高級料理ばっかりで、したも超えてるんだろうなって思ってたし。プロの料理人とじゃ俺の料理なんか屁みたいなもんだし。
「いつになく間抜けな顔になってどうした?」
「間抜けで悪かったですね!!で?なにしにきたんですか!?」
「あぁ……お前、明日は暇か?」
「は?一応……暇ですけど……」
「動物園に行かないか?」
ん?なんか聞こえたような気がするなぁ。聞き間違いかな?この魔王、動物園とかいうわけないじゃん。俺、明日耳鼻科にでも言ってこようかな。そうしよう。
「おい、どうなんだ?」
「すみません、俺ちょっと用事が」
「さっき暇だといっただろ」
うわああああ!!俺のバカ!!めちゃくちゃ忙しいって言っとけばよかった!!魔王と動物園って何!?どんだけミスマッチだよ!!なに?そんな性格して動物好きなの!?ぞうさん見に行きたいの!?
「あの……なんで動物園なんかに?」
「たまには、有智をどこかに連れて行こうかとおもってな。ついでにお前もどうだろうと」
「あぁ……有智が……ね」
なるほどね。一気に脱力したよ。魔王は一児のパパでしたね。そう考えると至って普通の提案ですね。
「でも、俺なんか邪魔じゃないですか?そこは親子水入らずで……」
「はじめはそう思ってたんだが……」
「?」
「有智がお前も来るだろって、目を輝かせてな。ひどくなつかれたな」
「アハハハハ……」
有智の推薦だったのか。それじゃぁ……断ろうにも断れないじゃないか!!
「ハァ……それじゃあしょうがないですね。一緒に行かせてもらいます」
「助かる」
「っ……」
わ……笑った……。あの嫌味な笑いしか見たことなかったのに……、なんでそんな柔らかい笑いっていうか、笑みを浮かべるんだよ。なんで俺こんな、心臓うるさくなんだ……よ。




