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緋色の紙飛行機

作者: 宿屋飯盛女

非常に後味の悪い話のため、ご注意下さい。










岩の上に腰掛けて、透ける裾から伸びた白い足は波に揺ら揺ら。

止せ来る波間に飲まれてしまいそう?









海辺の岩場に座って海を見る。

白い大きな紙飛行機。

果て無き海の向こう側の、別の世界を夢に見た。

届くように、届くようにと飛ばした飛行機。

ワンピースは水で透け、私の足は水を混ぜる。



口から不意に零れだす毒。

その全てに蓋をしては鍵をかける。

ビンに詰めてコルク栓を、最後に箱に入れて仕舞い込む。

小さな南京錠と小箱がぶつかっては小さく小さく声を出す。



その小箱は私の中へ、私の深淵の奥底へ。

体内から吐き出された小さな鍵は私の足を埋め尽くすほど。


どれだけ仕舞い込めば気が済むの?


そんなことじゃ近いうちに私は鍵に埋もれて窒息するわ。

こんな小さな鍵なのに。


簡単な事なのよ

感情に蓋をしてしまうことなんて。






「いつまでそうやって外を眺めるの?」



悪友は教室の窓から身を乗り出して、ただひたすらにボーっとしているあたしに言った。

時計の針がさすのは放課後の時間帯。


夕日が泣けてくるほど真っ赤で。

この体内に流れるものをそのまま塗りつけて色をつけたようだった。

それが目に染みる。



「先、帰っていいよ。あたしはここで無駄に時間を過ごすから。」


「ふ~ん…くだらないわ。じゃ。」



そう、悪友は深入りしないの。

そのギリギリを見極めてあたしを突き放すのよ。

多分そんな曖昧さがちょうどいいんだろう。

こんなヤツじゃなけりゃ、悪友でもなんでもないただのカボチャなだけ。

曖昧さを見極める人間だからこそあたしの悪友でいられるの。



「あー…帰っちゃったよ。」



またボーっと外を眺めていれば先ほど見たばかりの姿。

あたしの悪友さんは真っ赤に染まったまま正門を出て行った。



「あたしもいい加減、帰んなきゃな。」



どこへ?

家へ?それともどこか別の場所へ?


窓辺から差し込む赤い光はあたしをも赤く赤く染め抜く。

素肌の透ける白いシャツを赤く赤く変色させる。




目を閉じれば海が広がる。

真っ暗な闇に浮かぶ大きな海水の水溜りが一つ。


何もない。


島も船も何もかも。

ただ海が見える。

私は岩場に立ってるの。

海水を含んだ白いワンピースが風になびく。

湿った太もも、その内側を撫でる風は酷く心地よい。

このまま人魚姫みたいに泡になって溶け出して、海水に混じって消えてしまいたい。




瞼を開けば赤い教室。

無機質なもの達がこちらを睨む。

ぶっ飛んだ思考と視線で睨み返せば、すぐに視線をそらすくせに。

机も椅子も黒板も、チョークも教卓もここから見える全てが。



「根性なし。」



あたしの体内の海のように悠然と睨み返せばいいのに。

そしたらあたしが盛大に飛ばしてやるから、真っ白の大きな紙飛行機を。

裸足の足でもってあんた達をかき回して混ぜてやるのに。


でもひょっとして、あたしはそんなことをする暇なんてないのかも?

だって海水を溢れさせてしまうほどの鍵が、私の足元に転がるのだもの。

最初は小さな鍵が一つ、私の口から吐き出されただけだったのに。


いつの間に降り積もってしまったの?



「あんた達は気づいてんでしょ?あたしが鍵に埋もれてしまうって。」



机も椅子も、教室の無機質な住人達はもう私と視線を合わせない。

見捨てられちゃったのかしら?




普段あたしが言えないこと。

他人に対する悪意の言葉。

自分に対するくだらない言い訳。

脳内に蓄えられて腐る寸前の嫌味。


あたしの口から吐き出される毒をそっとビンに流し込み、蓋をしてしまう。

いらないの、こんな毒は。

薄紫だったりどぎついピンクだったりするその液体は、秘密の小箱に入れられる。

一つの箱に一つのビン。

銀の南京錠で最後の仕上げ。


鍵穴に小さな鍵を差し込んで回せば、かすかな金属音が聞こえてくる。

その箱と鍵をあたしは自分の体に隠してしまう。

でも、どうして鍵は口から吐き出されてしまうのだろう?

こんなもの、早く消してしまいたいのに。

鍵は私が毒を隠した証拠だもの。

それがあるだけで、私の呼吸は弱くなるわ。





「あー、もう無駄に考えても仕方ないし、帰ろっかな。」





岩場に散らばる無数の鍵たち。

紙飛行機を片手にあたしはそれに見入る。

服の裾が波に飲まれても気にしない。

ただその鈍い光をずっと睨む。




足元を見た。


岩場だと思っていたのは全て銀色の鍵でした。


海を覗き込めば、底に見える砂は全て小さな鍵でした。


白いワンピースだと思っていたのに、何故かその色は赤色でした。


海水の色は薄紫とピンクのマーブル。




そのままあたしは方向転換。

机も椅子も、行く手を阻むもの全てを蹴散らしては窓に走った。


もう帰る気など失せた。


ひんやりとした窓枠に手をかけて、勢いよく飛び越える。

ここは4階、足が宙に浮く。

あたしの体は支えをなくし、地球に引かれるまま落下する。


毒しか生み出さないこの体。

鍵をはき続けるあたし。




真っ白な紙飛行機は真っ赤な夕日に向かって飛んでいって、やがて落ちて潰れた。

大きな紙飛行機は地面に落ちて真っ赤に染まった。






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