年齢がレベルの世界
『年齢がレベルの世界』
プロローグ
人は生まれた瞬間、レベル0。
一歳になればレベル1。
十歳ならレベル10。
二十歳ならレベル20。
この世界では年齢とレベルは完全に一致していた。
経験値もなければレベル上げもない。
誰もが平等に、一年に一つだけ強くなる。
そして。
レベル80前後で、ほとんどの人間は寿命を迎える。
だからこの世界で最も尊敬されるのは、若くして強い者ではない。
長く生きた者だった。
⸻
「レベル16でゴブリン討伐か」
少年アレンは冒険者ギルドの依頼書を眺めた。
年齢は十六歳。
つまりレベル16。
新人としては普通だ。
隣ではベテラン冒険者が酒を飲んでいる。
「見ろよ」
アレンが指差した先には、巨大な剣を背負った男がいた。
胸の冒険者証にはこう書かれている。
レベル58。
周囲の若者たちは羨望の眼差しを向ける。
レベル58。
つまり58歳。
それだけ長く生き延びた猛者ということだ。
「すげぇな……」
「いや、あの人はまだ若い方だぞ」
受付嬢が言った。
「え?」
「本物の化け物はレベル70を超えてる」
⸻
王都には伝説がいた。
その名は賢者エルド。
レベル76。
現役最強の魔法使い。
人類最高峰の存在。
しかし。
誰も彼を羨ましいとは思わなかった。
なぜなら皆知っている。
あと数年で死ぬからだ。
⸻
この世界には特殊な職業がある。
それが。
遊び人。
戦わず、働かず、酒を飲み、女を追いかけるだけの者たち。
若いうちは楽しい。
しかし遊び人は事故や病気で死ぬ率が高い。
レベル30台や40台で命を落とすことも珍しくない。
だが。
ごく稀に。
レベル50まで生き残る遊び人がいる。
すると職業が変化する。
⸻
遊び人 → 賢者
⸻
「なんでそんな進化するんだ?」
アレンは昔から疑問だった。
するとギルドの老人が笑った。
「簡単だ」
「?」
「五十年も遊んで生き残れる奴は、だいたい人生の真理に辿り着いてる」
「なるほど」
「死ななかった時点で才能の塊なんだよ」
⸻
ある日。
アレンは森で奇妙な男と出会う。
ボロボロの服。
酒瓶。
昼寝。
完全にダメ人間だった。
「おっさん」
「んー?」
「ここ危険だぞ」
「そうか」
「魔物出るぞ」
「そうか」
「逃げろよ」
「そうか」
男は起き上がった。
その瞬間。
森が震えた。
巨大なオーガが現れたのだ。
レベル45。
アレンでは勝てない。
死を覚悟した。
だが。
男は欠伸をしただけだった。
「邪魔だな」
パチン。
指を鳴らす。
それだけでオーガが消滅した。
跡形もなく。
アレンは固まった。
「な……」
「ん?」
「今何した!?」
男は頭を掻いた。
「別に」
「レベルは!?」
「63」
アレンの声が裏返る。
「ろ、ろくじゅうさん!?」
男は笑った。
「元遊び人だ」
⸻
元遊び人。
現在賢者。
その名はゼノ。
世界最強クラスの一人だった。
「坊主」
「はい!」
「強くなりたいか?」
「なりたい!」
「じゃあ長生きしろ」
「え?」
「この世界で最強になる方法は一つだ」
ゼノは空を見上げた。
夕日が沈んでいく。
まるで人生そのもののように。
「死なないことだ」
⸻
その言葉を聞いたアレンは知らなかった。
数十年後。
自分がレベル78に到達し。
最後の賢者と呼ばれることを。
そして。
人類の寿命そのものを覆す秘密に辿り着くことを。
これは。
レベルと年齢が同じ世界で。
誰よりも長く生きようとした男の物語である。




