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総理大臣は魔女だった

作者: 銀河ワタル
掲載日:2026/05/02

日本国第二百三代内閣総理大臣・白鷺しらさぎリラは、就任以来「奇跡の改革者」と呼ばれていた。

景気は緩やかに回復し、災害対応は異例の速さ、外交交渉では相手国の頑なな態度がなぜかふっと和らぐ。

官僚たちは「総理には人の心を読む力でもあるのでは」と冗談めかして言ったが、誰も本気にはしていなかった。


ただひとり、首相秘書官の青年・朝比奈だけは気づいていた。  総理が時折、誰もいない方向に視線を向け、空気の揺らぎにそっと語りかけることを。

ある夜、官邸の執務室で、朝比奈はついに見てしまった。

総理の足元に、淡い紫色の魔法陣が静かに広がっていたのだ。


「……総理。これは……」

白鷺リラはペンを置き、静かに微笑んだ。

「気づいてしまったのね。あなたは鋭いわ、朝比奈くん」

彼女は立ち上がり、窓の外の夜空を見つめた。

その瞳は、百戦錬磨の政治家のものではなく、何百年も世界を見守ってきた者のように深かった。

「私は魔女よ。ずっと昔から、この国の行く末を見守ってきたの」

朝比奈は言葉を失った。


だが、驚きよりも先に、妙な納得が胸に広がった。

「では……これまでの政策の成功は……魔法で?」

「いいえ。魔法は“きっかけ”を与えるだけ。  人の心を動かすのは、いつだって人自身よ」

リラは机の上の資料に手をかざした。

すると、紙の上に淡い光が走り、複雑な数字の羅列が、まるで生き物のように整列していく。


「これは……未来予測……?」

「魔法で見えるのは“可能性”だけ。

どの道を選ぶかは、政治家としての私の責任」


そのとき、官邸の外で突然、空が裂けるような轟音が響いた。

窓の外に、黒い霧のようなものが渦を巻いている。

「来たわね……。あれは、この国の“絶望”が形になったものよ」

リラは深く息を吸い、朝比奈に振り返った。

「あなたはここにいなさい。これは総理としてではなく、魔女としての仕事」


そう言うと、彼女の身体はふわりと宙に浮き、夜空へと飛び出した。

黒い霧が触れたビルの窓は一瞬で曇り、街の灯りが揺らぐ。

リラは両手を広げ、夜空に巨大な魔法陣を描いた。

光が街を包み、黒い霧は悲鳴のような音を立てて消えていく。

やがて空は静けさを取り戻し、リラは官邸の屋上に降り立った。


朝比奈が駆け寄ると、彼女は少し疲れた笑みを浮かべた。

「国を守るのは、魔法だけじゃない。人の希望がある限り、絶望は必ず薄れるわ」

「総理……あなたは、本当に……」

「ええ。私は魔女で、そして総理大臣。どちらも、この国の未来のために必要な役割よ」

その夜、東京の空には、誰も知らない小さな星がひとつだけ瞬いていた。

それは、魔女が国を守った証のように、静かに光っていた。

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― 新着の感想 ―
時には政治家と働き、時には魔女として戦うリラ。 二足の草鞋をとても美しく履きこなしていますね。
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