表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

虚空からの神託と王家の体術

 ヴァルド王子の追手から逃れ、当てのない旅を始めて数日。


 アルドとリリアーナは、人里離れた山間の道を馬車で進んでいた。馬車も馬も、もちろんアルドの「宝物庫」から現地調達(という名の在庫処分)したものだ。


 御者台で手綱を握るアルドは、習慣である朝の「在庫確認」を行っていた。


 脳内に展開される膨大なアイテムリスト(目録)。食料、水、武器、防具、建築資材、そしていつか使うかもしれないガラクタの山。


それらが完璧な秩序で整列している様を見るのが、彼の密かな楽しみだった。


 だが今朝、その完璧な秩序に異変が生じていた。


(……なんだ、これは?)


 リストの最上段、最も目立つ場所に、見覚えのないアイテムが鎮座していたのだ。


 【虚空神(こくうしん)の石板(未鑑定・重要アイテム)】


 アルドは戦慄した。彼の「アイテムボックス(宝物庫)」は、彼が認識し、触れたものしか収納できないはずだ。それがいつの間にか、勝手に入り込んでいる。


 これは、この能力の根源に関わる何者かが干渉してきたことを意味する。


 彼が意識をその石板に向けると、頭の中に直接、重々しい声が響き渡った。


『我が器よ。北の山間、カガリビの村へ向かえ。其処の封じられた(ほこら)に、我が愛し子(まなご)が囚われている。これを解放せよ』


 一方的な命令だった。声が止むと同時に、石板はリストから跡形もなく消滅した。


「……どうやら、長期休暇とはいかないらしい」


「あら、どうしたの? 難しい顔をして」


 荷台から顔を出したリリアーナが、不思議そうに首をかしげる。


彼女は旅装束に着替えているが、その身のこなしは相変わらず優雅そのものだ。


「新しい依頼だ。依頼主は……まあ、俺にアイテムボックスをくれた『大家さん』みたいなもんだ」


 アルドは神託の内容をかいつまんで説明した。カガリビ村の祠に囚われた巫女の救出。


「危険な仕事になりそうだ。姫様、アンタは俺の『中』で紅茶でも飲んで待っていてくれ。安全は保証す――」


「お断りよ」


 リリアーナは即答した。


「言ったでしょう? 私はこの世界の全てを見てみたいの。カバンの中に引きこもっているだけじゃ、何も見えないわ」


「……怪我をしても知らないぞ。ごっこじゃ済まないかもしれない」


「ふふっ。私の護衛は世界一の運び屋なんでしょう? 信頼しているわ」


 アルドは溜息をついた。この元姫君、意外と頑固だ。


 まあいい、本当に危険になれば、問答無用で収納すれば済む話だ。


 二人がカガリビ村へ向かう山道に差し掛かった時だった。突如、両側の茂みから数匹の魔物が飛び出してきた。


 ゴブリンの上位種、ホブゴブリン(中鬼)だ。しかも武装しており、連携も取れている。野良の魔物ではない、何者かに使役されている動きだ。


「チッ、収納(テイ)な……!」


 アルドが馬車を止め、迎撃のために手を前に突き出す。いつものように、触れた端から収納してやろうと身構えた。


 だが、それより早く、隣の影が動いた。


「──邪魔よ」


 涼やかな声と共に、リリアーナが御者台から舞い降りた。


 彼女は襲いかかるホブゴブリンの錆びた剣を素手で受け流すと、流れるような動作でその懐に入り込む。


 ──王家一子相伝体術・式ノ型(しきのかた)落花(らっか)


 彼女の掌底(しょうてい)が、ホブゴブリンの胸板に軽く触れたように見えた。


 次の瞬間。


「ゴガァッ!?」


 鈍い衝撃音が響き、ホブゴブリンの巨体が後方へ吹き飛んだ。胸の革鎧(レザーアーマー)は砕け散り、肋骨(あばら)が陥没しているのが見て取れる。


 魔法による強化もない、純粋な体術による破壊力。


「な……」


 アルドが呆気(あっけ)にとられている間に、リリアーナは残りの二匹に向かっていた。


 一匹の攻撃を最小限の動きで回避し、その勢いを利用して背後を取り、首筋に鋭い手刀を叩き込む。もう一匹が(ひる)んだ隙に、優雅な回し蹴りが側頭部を捉えた。


 数秒も経っていなかった。


 三匹のホブゴブリンは、一度もリリアーナに触れることすらできず、地面に伏していた。


 リリアーナは乱れた髪を指先で整え、軽く息を吐いた。


「久しぶりに身体を動かしたから、少し勘が鈍っているわね」


「……姫様?」


「あら、ごめんなさい。驚かせたかしら?」


 彼女は微笑む。


「我が国の王族は、有事の際に自らの身を守るため、幼少より独自の体術を叩き込まれるのよ。ドレスを着てお茶を飲んでいるだけが、姫の仕事ではないの」


 アルドは、自分の「荷物」の認識を改めざるを得なかった。


 どうやら自分が運んでいたのは、可憐な宝石ではなく、切れ味鋭い名刀でもあったらしい。


「……大家からの依頼、少しは楽ができそうだ」


 アルドはニヤリと笑い、再び馬車を走らせた。


 目指すカガリビ村は、不穏な空気を(まと)う霧の向こうに見え始めていた。



\ いいね や ブックマーク / をもらえると、テンション上がるのでよろしくお願います!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ