話し合い
「ベネデッタ! なんのつもりだ?」
王太子が怒鳴った。
ベネデッタは反射的に身をすくめ、「申し訳ございません!」と答えてしまう。
ムスがベネデッタに駆け寄り、肩に乗った。
「ベネ、大丈夫。あんな奴らに、指一本触れさせないよ。……主が」
ムスのふわふわの毛が首に当たる。
「主」と話題に出されて、オッセルヴァはベネデッタに微笑んだ。
ここには味方がいるのだ。
心臓はバクバクしているが、大丈夫。
そう信じて、前を向いた。
どういう魔法かはわからないが、オッセルヴァに動きを封じられている王太子と侯爵。
何かを言うことはできても、危害を加えることはできないはず。
「お前はこんなところで何をやっているのだ?」
侯爵が叱りつけるように言った。
ベネデッタは熱くなった体が、すうっと冷めていくのを感じた。
強い怒りが、恐怖と狼狽を押しのけていく。
「そこの王太子に冤罪をかけられて、この森に捨てられたからですけど?」
ベネデッタの反抗的な態度に、跪かされた男たちは驚いた顔をした。
この人たちに愛されたくて必死だった過去を思い出す。
――何カ国語を覚えれば褒めてくれるのだろう?
聖女として身を粉にして働けば、褒めてくれるだろうか?
役に立てば、愛されるだろうか?
継母の連れ子ソフィアのように媚びを売れば……?
ひたすら虚しく、報われない日々の記憶だ。
今ならわかる。
何をしても無駄だったのだろう。
「王太子殿下、娘にそんなむごいことをしたのですか?
……私はそのような話は聞いておりませんが」
侯爵は横を向いて、王太子を責めるように尋ねた。
ベネデッタは白けた気分で、侯爵を見下ろした。
娘が聖女になったときも、王太子の婚約者になったときも……継母と連れ子に虐げられていたときも、無関心だったくせに。なにを父親ぶっているのだろうか?
娘が学園から帰ってきていないことだって、いつ気付いたのやら――呆れてしまう。
「異母妹のソフィアがそう言うから……私も騙されたんだ」
王太子がふてくされて、そっぽを向いた。
甘える上手なソフィア。
可愛くおねだりして、ベネデッタから何もかもを奪っていった。
部屋も母の遺品も、人々の愛情も……。
「異母妹? 誰のことをおっしゃっているのですか?
ソフィアのことでしたら、ベネデッタより年上ですし、父親は平民の魔道士ですよ」
侯爵は、王太子の勘違いを訂正した。
「な……え? う……そ……」
王太子には受け止めきれなかったようだ。
嘘つきで意地悪なソフィア。
勉強をしなくても可愛がられる彼女に、嫉妬していた。そんな醜い心を持っているから愛されないのだと自分を責めた。
王太子と側近たちは彼女を寵愛し、信じて、私を追放した。
虐められたという彼女の証言だけで、私は断罪された。
そんな卑劣なことをする人間だと思われていたということに、絶望した。
勉強と聖女の仕事で、そんなことをしている暇などなかったのに。
そんな自分の評価が、変わったのだろうか?
ここは、人族にとっては怖ろしい「魔の森」だ。
何ヶ月も経ち、生きている確証もないはず……先日、司教に姿を見られた。
生きているとわかったからといっても、今までの彼らだったら来るはずがない。
陰気な森の中を進みこの家まで来るなんて、よほどのことがない限りしないだろう。
服は破け、擦り傷と……毒虫に触れたのか腫れているところもある。
「あ、その……ソフィアは嘘つきだったな。
やっぱり正直で清らかなベネデッタが私には相応しいと思うんだ。戻っておいで?」
王太子が、猫なで声を出した。
ベネデッタはゾッとした。鳥肌が立った気がして、腕をさすった。




