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もう戻らない令嬢の話――偽物の聖女と断罪されて、魔族に拾われました  作者: 紡里


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再会

 目の前で、婚約者だった男と家族だった男がひざまずいている。

 窓の外では、鳥型の魔物がかすれた声で鳴いていた。


 不快、怒り、恐怖……さまざまな感情が渦巻いて、どうしていいかわからない。




 彼らは魔の森の入り口で、魔物たちに軽く襲撃された。

 馬が怯えてしまい、歩くしかなくなった。


 先日、司教が来た時の馬車の跡を辿っている。

 湿度が高く、湿ったコケや下草が革靴を濡らした。

 整備されることのない森の中は、枝を払うこともないので、自由に伸びている。顔や腕は枝や葉っぱにぶつかり、欠片がついたり千切れた葉の汁が染みついたりした。


 魔物たちは、森の中に入ってきた人族は襲っていいものだと思っている。

 ラモーゾに「今日来る人族は生きたまま、光の家に辿り着くようにしなければいけない」と言われた。

 だから、引っ掻いたり、かじったり、少しだけ遊んだ。



 王太子と侯爵にとって、それは遊びではなく恐怖の連続だった。


 王太子は、自分を守る者がいない状態に怯えていた。

 近衛騎士は、馬を守るために魔の森の入り口で待機している。

 他の騎士団は、気がついたら王城から下町に移動していた。軍務卿も王族の命令に素直に従わない。


 護衛がいない状況など、ソフィアと遊ぶために護衛を撒いたときくらいだ。あのときはスリルと愛欲に興奮して、怖さなど微塵も感じなかった。

 勇気と愛に満ちた冒険の記憶だ。


 だが、そんな記憶も、魔の森を進む勇気になることはない。

 物音に怯え、小さな魔物にも悲鳴を上げ、ベネデッタを罵り、泣きながら進んでいく。



 それを遠見鏡で見ていたベネデッタは、

「そんなに悪口を言うくらい嫌いなら、会いに来なければいいのに」

 と呟いた。


 ムスがニシシと笑う。

「こいつら、もう後がないんだよ」


「ベネデッタは、もう未練はないと考えていいのかな?」

 オッセルヴァがゆったりと問う。

 重厚な魔王城が似合う彼は、シンプルな光の家では、どこか浮いていた。


「フェデリコ殿下と父に対してですか?

 私が苦しんだように苦しめばいいと思うことも……なくは、ないです。

 でも、顔も見たくないし声も聞きたくない、かも?

 いえ、這いつくばって惨めに謝罪しろと……許さないといけないから、それも嫌だわ」


 ベネデッタは思いを次々と口にしながら、混乱しているようだった。



 ようやく光の家を見つけた彼らは、疲れた足を引きずりながら早足になった。


 フェデリコは、扉を乱暴に開けて叫んだ。

「ベネデッタ、お前のせいでこの国は滅茶苦茶だ!」


 ヴィットリオ侯爵は、父親ぶって説教から入った。

「わがままも大概にしなさい」



 あまりの言葉に、二の句を継げなくなるベネデッタ。

 ムスはシャーと威嚇の体制に入る。


 オッセルヴァが眉間に青筋を立てた。

「戯言を抜かすな。無礼者どもめ。

 頭を垂れて、謝罪するのが先だろう」


 オッセルヴァが人差し指を振ると、二人の乱入者は操り人形のように膝をついた。


「な、なんだ、体が勝手に……」

 王太子は喚きながら、床に頭をこすりつけさせられた。


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