会うか決めて?
今朝、ムスに突然言われた。
「今日、ベネの元婚約者と父親が来るかも。
会いたい?」
「え、何しに来るの?」
そんな疑問しか浮かばなかった。
婚約者になったときから悪口を言われ、後半はほぼ無視されて、婚約者としての実態はなかった。
父親は外交官として他国にいたし、継母と再婚してからは話しかけられた記憶もない。王太子の婚約者になったときは、これで父も自分を見てくれるかと思った。だが、そういうこともなく、激励の言葉すらなかった。
「ん~、ベネに結界を張ってほしいとか?」
「ああ、そうよね。結界……ね」
わたくしが元気かどうか、気にかけるはずがなかったわね。
そう考えて、まだ期待してしまう自分に呆れた。
少し沈んだベネデッタの変化を、ムスは見ていた。
「会いたくないなら、魔物に追い返すよう命じることもできるよ」
命じるのはラモーゾだけどね、と付け加える。
どうだろう。会いたいだろうか。
……自分を大切にしてくれなかった相手。愛情をくれなかった人たち。
期待しないと言い聞かせるようにしてきたが、怒られないよう、一言でいいから褒められるように振る舞ってきた記憶が、残っている。
表面だけの軽い言葉でも、謝ってほしい。そうしたら、きれいにお別れできる気がする。
ベネデッタは、そんなふうに考えて
「会います」
と答えたのだった。
みすぼらしいと侮られないよう、村の祭りに着ようと用意した服に着替えた。
いつも一つに縛っている髪を、簡単に編む。リーナに教わっておいて、よかった。
「今日はリーナたちは来ないのかしら?」
きれいに整えたベネデッタを見て、ムスは一瞬だけ複雑そうな顔をした。
「さっき使いを出して、来るなと伝えた。
魔物と仲良くしている村人がいるなんて、王族や貴族に知られない方がいい」
「そ、そうよね。
わたくしはムスたちと仲良くしていると、堂々と言ってやろうと思っていたけれど……おかしいかしらね?」
ベネデッタの声がだんだん小さくなる。
あなたたちがいなくても、わたくしは幸せだと見せつけたい気持ちもあった。
だから、帰りませんと言ってやりたい――できるかしら。
「ああ、村人が魔物と交流しているのを知られて『魔物の村だ』なんて焼き討ちにされたら困るって話さ。昔はそういう……魔女狩りみたいなこともあったし。
だけど、ベネは村人じゃない。
魔物に食い殺されずに、森の中で生きている。それだけで異端だよ。『魔女の疑い』じゃなく『魔女』って断言されちゃう」
ムスの言葉に、ベネデッタは青ざめた。
「大丈夫。成敗されないように、強力な助っ人も来るから安心して」
「助っ人?」
「あ、来た」
ムスはとととと軽い音を立てながら入り口に向かった。
「ベネデッタ。今日はよく眠れたか?」
光の家の扉をノックして入ってきたのは、オッセルヴァだった。




