舞台を整える
オッセルヴァの部屋に遠見鏡が持ち込まれた。
ベネデッタの元婚約者である王太子の様子が映し出される。
オッセルヴァが不思議そうに言った。
「なぜこの男は自分で解決しようとしないのだ?
ベネデッタは結界を張ってきた聖女だが、政治的なことには携わっていない。
王太子妃教育というものも、王妃の愚痴を聞いていただけだったのだろう?
ここまでこじれた状況を解決できるはずがない」
「こういう輩は、誰かが奇跡を起こして一瞬で解決してくれると思っているんだ。
きっと、そんな魔法があるって信じてるぞ」
ムスが果物をかじりながら嘲笑う。
「この人族も可哀想ですね」
ラモーゾが静かに言う。
「おい、ラム。こいつの味方か?」
ムスが声を尖らせた。
「違います。王子という身分に生まれ、わがままも理不尽も受け入れられてきたのでしょう。
それが、ある年齢になったら突然『自分で考えろ』『大人になれ』『役に立て』と言われた。
挑戦して、失敗しながら身につけたものが一つもないのですから、できるわけがありません」
冷静なラモーゾの言葉に、ムスは大笑いした。
「ひ、ひでぇ。ボロクソに言ってるじゃん」
「ただの事実と推測です。
物心つく前から『親の地位の恩恵』を受け、それを自分の実力だと錯覚してしまう。
魔物や魔族なら持って生まれた実力が全てなので、こんな悲劇は起こりません」
「なんだよ。ラモーゾも不愉快だってことじゃん」
「身の程をわきまえない愚か者は嫌いです」
側近二人がいつもの掛け合いを始めた。
オッセルヴァは微かに口角を上げながら、眺めていた。
「愚か者どもがベネデッタに会いたいと言っている。
お前たちならどうする?」
ムスが目をきらきらさせた。
「会わせた方が面白いと思うな!」
ラモーゾは少し考えてから答える。
「以前なら、ベネデッタが更に傷つくだけだと反対したでしょう。
ですが、今は自分の気持ちを言えるようになりましたからね。感情を爆発させる練習にいいかもしれません」
「では、この森にご招待しようか。
側近を失って独りぼっちになった、可哀想な王子を」
魔の森の入り口にするか、光の家に誘導するか……そんなことを話し合っていると、オッセルヴァが思いつきを口にした。
「ああ。遠見鏡ではなく、その場で見るのも一興かな」
「は? え? 主が、人族の王の子に会うの?」
ムスが目を丸くする。
「主様、それは破滅の序章でしょうか?
あの王家は、先々代の魔王を倒した英雄の血筋だったのですよね?」
ラモーゾが慌てた。
「いや、賢者の血筋じゃなかったっけ?」
「それは、その前の王家じゃない?」
「大魔導師は……西の国の王家か」
「そもそも人族は、親の才能を継ぐかどうかわからないわよね?」
ムスとラモーゾは、わちゃわちゃと言い合った。
「どの血筋だとしても、見る限り、かなり血は薄くなっているようだ」
オッセルヴァは、二人の会話を聞きながらくっくっと喉で笑う。
「主、そういう油断はよくないと思う」
ムスがキーキー甲高い声で訴え、オッセルヴァの膝をぺちぺち叩いた。




