義妹と学園生活
義姉いえ、義妹が入学してくるまで、王太子とわたくしの関係は政略結婚らしいものでした。
特に感情を動かされるわけではないけれど、将来を見据えて好感を持てるように、定期的なお茶会は続いていました。
相変わらず特に盛り上がるわけではありませんが、王宮の応接室や庭は美しく、家にいるよりは穏やかに過ごせました。
この頃には、継母は執事に夢中になり、わたくしへの嫌がらせに飽きたようです。
着る服の予算は決められていましたが、安い布でもわたくしに合うように縫ってもらったので、見栄えもなんとか取り繕えていたと思います。
二年生になる時に、学園に義妹が入学してきました。
そこから義妹は王太子に近づき、あっという間に……いわゆる「寝取られた」らしいです。
義妹がわざわざわたくしに言いに来ました。「あんたを蹴落とす日も近いわ」と。
蔑まれるのは慣れたと思っていましたが、唯一の安全地帯だと思っていた婚約者にまで……。
それを想定できなかった自分に、失望しました。
王妃にも「貴方がしっかりしていないからよ」と責められたのです。
どうすれば良かったのでしょうか。
わたくしがいないところで、義妹は王太子を我が家に誘ったようです。義妹に逆らうことを許されていないわたくしには、なす術もありません。
義妹の巧みな話術で、王太子はわたくしを毛嫌いするようになっていきました。
もしかしたら、元々心のどこかでわたくしを疎ましく思っていらっしゃったのかもしれません。
ある日義妹が、わたくしが教会に行く日についてくると言い出しました。
どんな風の吹き回しやら……ただ、「そうですか」と受け入れるだけです。
あまり教会に顔を出さない義妹は、きょろきょろと興味本位で周りを見ていて騒々しいのです。幼い子どものようで恥ずかしい、そんなことを思ってしまいました。
それを可愛らしいと思う方々が、義妹の案内を買って出て、どこかへ消えていきました。
わたくしが祈りを終える頃には、義妹が聖女だということになっていました。
聖女自体は数年に一人出てくるので、まあ、それほどおかしな話ではありません。
けれど、それは十二歳の魔力診断での話です。
十六歳になって(実際は十八歳)いきなり聖属性の魔法が使えるようになるなど聞いたことがなく……わたくしが知らないだけでしょうか?
新たな聖女の誕生は、王宮にも届けられました。
「それこそが、奇跡の証だ」と王太子は突然の聖女判定を肯定しました。
この頃には、わたくしは王太子に対しての発言が許されなくなっていました。反論しても耳を傾けていただけないことは、骨身に染みていました。
大聖女様に義妹の聖力について確認したいと思いましたが、司祭たちが「お忙しい方を煩わせるな」と取り次いでくれません。
どうか、どうか、教会だけは、聖なる魔力だけは義妹に取り上げられることになりませんように。そんな浅ましい願いが、大聖女様に届くわけがありませんでした。
確かに、大聖女様に数回お声をかけられただけの分際で、身の程知らずなことを……。
少し前に他の聖女たちと違う部屋――「結界の間」で祈るように言われたので、自分が後継者に指名されるかもしれないと思い上がっていました。
そもそも、王太子妃と大聖女をどうやって兼任するつもりだったのかしら。本当に愚かなわたくし。
ただ、祈る場所は結界の間のままでした。もしかしたら、結界の間も義妹に譲って、他の聖女と同じ部屋に戻されるのかと思ったのですが。
わたくしは自分の思い上がりを反省して、無心に祈りを捧げることに集中しました。
廊下ですれ違う方々から「偽物」というささやき声を聞くことが増えていきました。
もしや、わたくしのことでしょうか?
聖女が一人増えたのではなく、本物が現れたのでわたくしは偽物ということに……?
その頃には、休日に受けていた王太子妃教育に呼ばれなくなりました。
ですが、わたくしは、そのことを何とも思わなかったのです。
義妹の予言通り「蹴落とされた」だけですから。
どこにいても心許なく、疑問を抱えても答えてくれる人がいないのは普通のこと。
周りに人がいても、当たり障りのない会話でその場をやり過ごすだけ。
やれと言われたことを、ただこなすだけの人形。誰にでもできることばかり。
そんなわたくしに、価値などないのです。
学園のパーティーに、エスコートもなく一人で出席するよう命じられました。
珍しく王太子から送られてきたドレスは、一昨年くらいの流行でしょうか。義妹の侍女たちが「変なドレス」と嘲笑いながら、嬉々として着付けていきます。
こんな姿で人前に出るなど、拷問だと思いました。ですが、まだそんなのは序の口で……。
王太子と側近たちに罪を認めろと責められ、婚約破棄されて――魔の森に捨てられました。




