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もう戻らない令嬢の話――偽物の聖女と断罪されて、魔族に拾われました  作者: 紡里


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ささやかな挑戦

 しばらく歩いて、花嫁の姿が見えなくなってから、ベネデッタはリーナを振り返った。

「リーナ。言えたわ。言いなりじゃなく、自分が納得できる方法で解決したのよ」


「すげぇ! よくやったべ」

 二人は抱き合って喜んだ。


「最初から予算をちゃんと言ってくれれば、花の数を減らしたり調整できたのに。

 人を騙して得しようとするから、痛い目を見るのよ」

 怒った口調で言ってみる。少しわざとらしく、棒読みのようなところがあった。


 リーナはそれを指摘せず、怒ってみようとする努力を受け止めた。

「ベネさん、結構言うようになったべ?」


「うふふ、そう? 今のわたくしなら、聖女たちの意地悪にも負けないかもしれないわね」

 ベネデッタは、今までにはなかった快活さを見せた。


「なんだ、『聖女』なのに意地悪すんのか?」

 リーナは意外そうに言う。


「光魔法が使えるだけの、普通の人だもの。

 家の名誉を背負っている分、地味な祈りをするより、目立つ聖女を蹴落として目立とうとしていたわ」

 すっきりした顔で、ベネデッタは説明した。

 悪口を言わないよう自制していただけで、本当は、醜悪な人間関係に気付いていたのだ。


「えげつねぇな」

 リーナが笑いながら言う。


「何も感じないように、気にしないように、ぼんやり生きてきたわ。今なら、王太子に『つまらない女』と言われたのも理解できる。許すつもりはないけれどね」

 ベネデッタは頬を膨らませて、怒っているということを表現した。


「大体、人に嫌味を言う暇があるなら、祈りを捧げるために使えばいいのよ。そうしないから実力がつかなくて、親に叱られて、真面目な聖女に八つ当たりをする悪循環。

 愚かすぎて、笑ってしまうわ」


 怒るのをためらわせる、「人のことを責められるほど、自分は立派な人間だろうか」という自問を押さえ込んで、ベネデッタは怒る。


 最近、腹が立つことをたくさん思いだし、言い返してやれば良かったと思うようになってきた。それを溜め込まずに、解放してやるのだ。


 親に愛されていないから面会に来てもらえない。婚約者に無視される、できそこないの令嬢――そんな陰口を叩かれた。



 けれど、聖女なら聖力が多い方が、価値があるはずだ。

「そんなこともおできにならないの? 親にも婚約者にも愛されているのに? 

 まあ、大変ね。これからご苦労なさる未来が見えるよう」

 とでも言ってやればよかったかもしれない。


 一人のときに、台詞を考えて、口に出して練習している。言い返すのにも、慣れが必要だと思うから。

 実際にそんな場面が巡ってきたときに、震えて無言になったりしないように――。



「清く正しく」をやめて、ベネデッタは随分人間らしくなったと思っている。

「口調も令嬢っぽくなくなってきたでしょう?」


「それを目指すなら、『わたくし』をやめな?」

 リーナがからかうように返した。


「そ、そう? そのうちね。

 今日はお料理を教えてくださるのでしょう?

 さあ、光の家に帰りましょう」


「最近、父ちゃんが入り浸ってて、すまんね。母ちゃんが持たせてくれた料理もあるで、堪忍な。

 料理は簡単なものから始めるべ」


「ふふふ、楽しみだわ」

 声を弾ませるベネデッタ。ボウがそのふくらはぎに軽く頭突きをする。

「ああ、ボウちゃんにも美味しい物をお裾分けするわね。さっき、魔法を使ってくれたお礼をしなくちゃ」


「僕はリーナの母ちゃんの料理を食べようかな」

 ムスが失礼なことを言い出した。


「どういう意味だ? おらが教えるだぞ

 それに、初めからうまくできる人なんていねぇべ」

 リーナがすごむ。


「あら、リーナったら、失礼ね。

 わたくしは最初から成功させるつもりよ」

 ベネデッタがつんと拗ねたふりをする。


 魔の森はいつものように、どんよりと湿った空気に満ちている。

 その中を、楽しそうな一行が賑やかに歩いて行った。


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