表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう戻らない令嬢の話――偽物の聖女と断罪されて、魔族に拾われました  作者: 紡里


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/61

光の家で(後編)

 パオロが教会の後ろ暗い事情を暴露したところで、個室の方からガタンと音がした。

 物音が司教の注意を引かないように、パオロは早口で続ける。


「こほん、話が逸れましたね。

 つまり王都が壊滅しても、教皇は動きません。

 貴族がいなくなっても、王都の外側で暮らす平民には生活を支える基盤ができているので。

 競争相手を蹴落とすことだけ得意だったのは、お気の毒です。

 実力が伴わない肩書きを得てしまったから、今、困っているのでしょう?」


「き、貴様!」


「結界は王国の象徴です。それを維持して、人々を魔物から守るから尊敬される。

 教会は人々に善なる道を示し、光魔法の担い手の育成をし、光魔法を使えない人間にはいい波動を出す生き方をしてもらう。

 ――それを忘れて、権力を振り回すだけの人間など、誰にも必要とされません」


「無礼なことを申すな!」

 唾を飛ばしながら、怒鳴り散らす。


「だって、すでに聖騎士が護衛についていないじゃないですか?」

 パオロは司教の後ろの、誰もいない空間を指差した。


 司教はハッとした。護衛がいなくなったのは、いつからだろう?

 腹立ち紛れにグラスを投げつけたから、ふてくされているのかと……。

 いや、護衛は何人もいるのだから、いないことがおかしいのだ。


 司教が思考に沈んでいると、家の中からドーンとぶつかるような音が聞こえた。



「ちょ、ちょっと待って、壊れちゃうわ」

「ボウちゃん、飽きちまっただな。おじさん達は話が長くていけねぇ」

 そんな声に、鍵を開ける音が続き、部屋の扉が開いた。

 ワイルドボアの子どもが飛び出し、それを捕まえ損ねた女の子の姿が見えた。



「あ、ベネデッタ! いたな。出てこい! 王城で結界を張るのだ」

 司教は目ざとくその人物を特定した。チェーンをちぎろうと力を入れ、扉をガタガタと揺らす。


「い、いやです! 

 教会は、わたくしを騙していたのですね」

 ベネデッタは震える足で、しっかりと正面を向いた。


「どうして? わたくしの心の拠り所だったのに。

 光の神の教えを利用して、好き勝手しているだけじゃない。汚いわ。卑怯者。

 全然偉くない。立派じゃない。わたくしに我慢させて、自分だけは楽しむの?

 魔族だって遊びながらも、自分の役目を果たすわ。魔物だって群れのルールは守ってる。

 あなたはそれ以下よ」


 ベネデッタは、自分の感情をコントロールできなくなった。

 頭に浮かんだ言葉を、言っていいか考えることができず、大声で吐き出す。


 司教は玄関の扉の隙間に靴の先をねじ込み、締められないようにした。

「人々が困っているのを、お前は見捨てるのか?」

 司教の仮面が剥がれた薄汚い男は、ベネデッタのお人好しな部分に付け込もうとする。


 一瞬ベネデッタは怯んだが、パオロのフォローが入った。

「どの口が言っているんだ。

 司教まで上り詰めたお前が何とかすべきことだろう。

 若い女の子に押しつけて、お前は酒太りか」


「ストレスが溜まるのだ。少々の美食と女くらい当然だろう」

 司教は目を血走らせ、扉を壊しても開けてやると力を込めた。


「最低だな、こいつ。うるっさい」

 ムスが屋根の上から司教に何かを吹きかけた。

 司教の目がとろんと眠たげになり、扉から手を離した。

 扉が閉まる。


 窓から様子を見ると、ふらふらと馬車に戻っていくところだった。



 ベネデッタは自分の胸を押さえて、呆然としていた。バクバクとすごい早さで、心臓が暴れている。

 リーナがそっと手を引いて椅子に座らせる。


 そして、リーナは手際よくお茶を淹れた。

 司教を光の家に入れなかったので、用意していたお茶もお菓子もそのままだ。



「彼は、ここで話した内容を覚えているでしょうか?」

 パオロはチェーンを外して外に出て、屋根の上にいるムスの方に手を伸ばした。


 ムスはパオロに抱きかかえられたまま、「夢か現実か悩むくらいの感じかな」と答えた。

「でもあいつ、すでに精神の境界線がぐちゃぐちゃになってた。まともな思考はできてないと思うぞ」

 小皿に入れたお茶に息を吹きかけて冷ましている。


「まあ、数十年前に魔の森に捨てた男に縋ろうと考えるの自体が、おかしいですね。

 もう死んでいると思って安心していたはずでしょうから」

 パオロもお茶を飲み、張り詰めた空気を和らげていく。


「あ、私もベネデッタさんのように、怒鳴って責めればよかったな。

 魔の森に捨てられて、どんなに苦労したと思っているんだって」


 ベネデッタは顔を赤らめ、両手で頬を隠した。


「嘘吐け。光魔法で自分の身を守ってたし、魔王城で歴史資料を見せてくれって直談判しに来たじゃないか」


「でも、村に受け入れてもらうには時間がかかりましたよ。食べ物を分けてもらうのも大変で」

 眉を下げて、少し困ったような顔になった。


「世話焼きの娘と早々に結婚しておいて、何を言ってんのさ」


「だって、『訛ってないのが素敵』って、積極的にアプローチされたんです」

 パオロが惚気話を始めた。


 リーナが玄関を開けてボウを出してやった後、「父ちゃん、また始まったべ」と苦笑いした。

 床にはボウにあげたお菓子のクズが散らばっている。リーナはしゃがんでそれを拾い始めた。



「真面目な話、彼の顔を見たら殴ってしまうかもしれないと思っていました。

 けれど驚くほど、どうでもよかった。

 彼が幸せそうじゃなかったからかな……」

 パオロは玄関を見つめて、呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ