遠足……のようなもの
魔の森の魔族も魔物たちもウキウキしていた。
普段は人族の領域に行かないように言われているが、明日は解禁するというのだ。
「人族の王城は、光気の吹き出し口に建っています。
人族は瘴気に触れると具合が悪くなり、魔族は光気に触れると調子を崩します。
最近の王城には瘴気もほどよく流れ込んでいるとはいえ、長居すると体に良くありません。
呼吸が苦しくなったり、急に体から力が抜けていったりする恐れがあります。
自分の体調を注意深く観察しながら、余裕を持って帰れるように行動するのですよ」
ラモーゾが母親のように言い聞かせる。
一斉に上がる喜びの声は獰猛で、壁がビリビリと震えた。
小さな昆虫から大きな竜まで、好奇心旺盛な者たちが集まっているのだ。
ムスはその横で、ニマニマしている。
「誰が一番壊せるか、一番いいお宝を盗ってこれるか競争しようか」
再び歓声があがりかけたが、ラモーゾが慌てて手を大きく振って遮った。
「いけません! 今回はそれぞれが自分の力量を測る練習ですから。
そのような限界に挑戦するのは許しません」
「っち。生意気な口きくなよ」
一瞬、ムスから凶悪な靄が出た。
ムスから滲み出る威圧感に、ぴゃっと飛び上がって仮死状態になった者もいる。
「申し訳ございません! ムステッロ様が単独で行動されるのは、どうぞお好きになさってください。
ですが、年端もいかない魔物たちを誘うのはお控えいただきたい」
ラモーゾは震えながらも、しっかりと釘を刺した。
「あっそ、わかった」
ムスは興味を失ったかのように、ふて寝を始めた。
だが、耳はラモーゾの説明に向けられている。
ラモーゾはそれに気付かないふりをして、説明を続けた。
魔物に死傷者を出さないことが、自分の仕事なのだと胸に刻みながら――。
当日は、比較的指示を守る者たちに遠見鏡をつけさせた。
数人でチームを作り、危険になったら合図を出すように説明もした。
それでも、予想もしないことをしでかすであろう魔物たち。本当に油断ならない。
本来なら、自分も暴れ回る方に入りたいくらいだが、魔王に仕事を任される自分が誇らしくもある。
「他の者には務まらないのですから。ええ、名誉なことです」
昨晩、誰もいないバスルームでラモーゾは自分に言い聞かせた。
自分だけは、ハメを外してはいけないと。
「さあ、みなさん――」と話だそうとしたところ、ムスに遮られた。
「いっくぞー!」
「おお!」
地鳴りのような声が上がり、翼のある魔物や魔族が飛べない者を連れて一斉に飛び出した。
呆然と立ち尽くすラモーゾ。
ペアを組んでいる魔族が気の毒そうに、「我々も行きましょうか」と声をかけた。
「え、ええ。そうですね。緊急事態に対処できる場所に布陣しないと……」
飛べないラモーゾを抱えて、魔族がバサリと翼を広げた。




