聖女とお見合い
この国では十二歳になったら、教会で魔力を診断します。
それは全国民の義務で、貴族も平民も診断を受けなければなりません。
魔力は持っている人も、いない人もいます。
持っている場合は水や火などの属性に分かれ、珍しいのは光、聖、闇の魔力です。
わたくしはどんな結果が出るか、楽しみなような怖いような気持ちでその日を迎えました。
不機嫌な継母と馬車に乗るのは、とても気まずいものでした。
ですが、対外的には良好な関係を見せておかなければなりません。
小声で「笑いなさいよ」と言われ、脇腹をつねられました。そんなことをされたら、余計に笑えない……。
教会には、かつて実母と出席したお茶会で友達になった子もいました。
一瞬嬉しくなったのですが、自分のチグハグな衣裳が恥ずかしくて、声をかけられませんでした。時間が経つにつれ、見つかりたくないと思うようになり、平民の集団に紛れてやり過ごしました。
継母も貴族の集団に入れなかったので、わたくしが隠れている様子を嘲笑うように眺めていました。
名前を呼ばれたら、横の小部屋に入って診断を受けます。
隠れていても、名前を呼ばれたらお友達に気付かれてしまいます。困ったとおろおろしているうちに、順番が回ってきてしまいました。
継母は「早く来なさい」とわたくしの腕を引っ張り、さっと小部屋に向かいました。
「平民に馴染んでいたわね」
と嬉しそうに、わたくしの腕に爪を立ててきました。
わたくしは聖属性を持っていたので、聖女として週に一度教会で修行することになりました。
父に手紙でそれを伝えたところ、「励みなさい」という短い言葉が返ってきました。
温かい言葉を期待していた自分に、がっかりしました。
返事があっただけよかったと考えようとしましたが、もっと、こう……誇りに思うとか、あってもいいのではないでしょうか。
期待する方がおかしいのでしょうか。「さすがに聖力なのだから、褒めてくれるだろう」と、傲慢にも考えてしまった自分が、ひどく情けなく、恥ずかしい――。
一年前に義姉も十二歳になっているはずです。彼女の魔力診断はどうだったのか、わたくしは知りません。
食事も部屋で一人でとらされていて、この頃には家の中で何が起きているか、全くわからなくなっていたのです。
あの義姉なら結果を自慢しに来そうですから、魔力がなかったのかもしれません。
――そう考えて優越感を持とうとする己に、身震いしました。いけません。そんなのは、とても醜い感情です。
わたくしは藁にも縋る思いで、聖女になるための学びにのめり込みました。
家庭教師にマナーと学園に入学するための準備を叩き込まれ、それ以外の時間は本を読むか祈りを捧げることに費やします。
聖女様たちが優しく指導してくださるので、教会に行くのがすぐに好きになりました。
この頃はまだ、大聖女と次席の聖女の派閥争いがあることなど、気付かなかったので……。
十三歳になり、同い年の王太子との婚約の話が浮上しました。
外国にいる父からは「お受けしなさい」と返事があり、父はお見合いの直前に帰国してきました。
魔力診断には来なかったのに、お見合いには来るんだと、なんとなく寂しく思ったものです。
といっても、その頃にはわたくしは無表情になっていました。
淑女教育の賜といえばそうですし、人に期待することを諦めて、心を殺して生きていたということかもしれません。
聖女は心穏やかに清らかでいるべきだと、自分の心の揺れを感じないようにしていて……それは、わたくしが抱く「聖女」のイメージに近づこうと迷走した結果でもありました。




