側近たちの行方
オッセルヴァはグラスをくゆらせ、ろうそくの光を反射させた。
「ベネデッタを痛めつけた、王太子の側近たちはどうしているのだ?」
ラモーゾはグラスを置いた。
「ベネデッタをこの森に連れて来たのは、司祭のルカ・ランベルトです。司教の甥でもありますね。
彼は、その翌日に、教会に尻を叩かれて魔の森に来ました。
その時に捕獲し、教会では行方不明扱いになっております」
「なに? 連れて行った人間が、責任を持って連れて帰れってことで来たの?」
ムスは小皿に注がれた飲み物をチロチロと舐めた。
「そうでしょうね。ベネデッタをどのあたりに捨てたか、という情報も重要ですし」
「はあ~、ほんと馬鹿みたい。何も考えないでノリでやるから」
ムスが嫌悪感をのぞかせた。
「数日後に近衛騎士が調査に来ましたが、その中にトンマーゾ・コロンナもいました。
近衛騎士の見習いとして魔の森の捜索に参加していたので、確保しました。
両名とも淫魔サキュバスのオモチャになっています」
「それって青少年にはご褒美にならない?」
ムスが小首をかしげた。
ラモーゾは目を閉じて、一瞬考えた。
「どうでしょうね。
ただ、即死させるような連中には預けられないですから。消去法で、そうしました」
「あいつら衰弱死させるじゃん」
ムスがニヤニヤする。可愛い顔の中に、ときどきオヤジ臭い表情が混じった。
「徐々に衰弱するわけですから、たまにチェックを入れれば間に合います」
ラモーゾは、死んでさえいなければいいと考えていた。
「先日、ベネデッタに嫉妬して、文句を言いに来たサキュバスがいたので、教育的指導をしました。
そのとき、司祭も近衛騎士見習いも雑味がすると言っていたのです。西の方の魔海の魔族の匂いがすると。
ソフィアという娘が、西の魔族の血を引いているのかもしれません」
「その娘の母親は、ベネデッタの継母になっていたな。今はどうしているのだ?」
オッセルヴァがゆったりと問いを投げた。
「ベネデッタの家で、帰国した夫と毎日罵り合っていますね。
母親は生まれつきの魔族ではないので、最初の夫が魔族である可能性が高いと思います。
魔道士を名乗って、その実魔族だというケースかと」
ラモーゾは推測ですが、と付け加えた。
「魔族でも力が弱いと角や尻尾が小さくて、隠しやすいもんね」
けけけとムスが笑った。
「もしかしたら、未だに元夫と連絡を取り合っているかもしれません。
ベネデッタの聖力を奪う腕輪と、それを受ける腕輪の出所が西の国である可能性もあります」
「西は魔海の者の縄張りだから、あまり情報が入ってこないもんね」
ムスが忌々しげに言う。
オッセルヴァはムスの様子を興味深そうに眺めている。
ベネデッタの周囲の清浄な空気が、ムスに軽い疲労を与えているようだ。この部屋の澱んだ空気に身を預けながら、緊張を解こうとしている。
人族に瘴気が不調をもたらすように、魔族にとって聖力は不快なものなのだ。
ベネデッタを貶めようとしたのは男が四人、女が一人だったはずだ。
オッセルヴァはもう一人のことを話題にした。
「宰相の息子も、冤罪をかけようと企んだ一人だろう。
どうしているのだ?」
少なくとも魔の森には来ていない。王太子が野放しにされているのだから、他の側近も公的には処罰されていない。
「宰相は息子を叱りつけましたが、官吏として働く道は閉ざしていません。
王城ではなく城下町の出張所で、普通に働いていますよ」
「ええ? なんか腹立つなぁ。一人だけ何事もなかったかのように生活しているなんて」
ムスは木の実をパリポリと音を立てて食べた。
「人目につくところで生活しているため、その親である宰相への反感は日に日に大きくなっています。
ベネデッタを追い出して、水や結界といった生活の基盤を揺るがした人間です。償いもせず、罰を受けもせず……なんて、許しがたいでしょうね。
人々の憎悪がいつ牙を剥くかしら」
ラモーゾは楽しそうだ。
「人族に先を越される前に、宰相の家を襲ってしまいましょうか?」
ラモーゾがいいことを考えたとばかりに、にっこり笑う。
「いいね。宰相って、王様の次に偉い人?
あ、トンマーゾに王宮内まで行って暴れさせるのは? 父親が、死んだと思っている息子を見つけた瞬間に、殺さねばならぬのかと苦渋の決断を下す場面が見られるかも」
「貴族たちが王城に籠もっている方が面白いから、王宮で暴れさせるのはやめてほしいわ。
城下町にしたら?」
「そんなの軍務卿の配下がバッサリ切って、すぐ終わっちゃうじゃん。
状況判断が速い人は、からかい甲斐がないよ」
二人はさまざまな案を出していく。
「まあ、ベネデッタが自分の手で復讐をしたいと言わなければ、の話だな」
オッセルヴァは頬杖をついて、彼女は何を望むだろうかと口にした。
「ずいぶんとお気に入りですのね」
ラモーゾは主の考えを読もうと、言葉を選んだ。
「聖女を魔族に堕とす――。面白くないか?」
オッセルヴァは艶やかに笑った。




