表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう戻らない令嬢の話――偽物の聖女と断罪されて、魔族に拾われました  作者: 紡里


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/37

王弟

 王都の水や食糧事情はますます悪くなっていった。

 聖女たちが結界にかかりきりになり、流行病が放置されて広がっていく。

 修繕箇所が放置され、日常生活に影響が出る。

 下水がつまり、悪臭が広がるが、もう修繕箇所の把握が追いつかない。


 王都の上空を鳥型の魔物が飛ぶようになり、不安が広がっていった。

 商人がこの国を避けるようになり、品薄状態が買いだめを誘発し、物価はうなぎ登りだ。

 執務に必要なインクの確保も難しくなってきた。


 税金の徴収は適切な金額が算出されず、納税も滞る。


 王宮の仕事が回らなくなり、諍いばかりが増えていく。



 前王妃は、息子である王弟を呼びつけた。

「あなたなら、この混乱を治められるのではないかしら」

 ソファーに座るやいなや、挨拶や労いもせず、本題を切りだした。


 王弟は、片方の眉を上げた。

「そうお考えなら、こんなにひどくなる前にお声がけいただきたかった。

 もう、修復不可能でしょう」


「ですが、あなたも王族の一人として、責任を……」

 前王妃は威厳を崩さないように正論を語ろうとしたが、王弟はそれを遮った。


「そこまでおっしゃるのなら、兄上を退位させて私を王にしてくださるのですか?」

 眼光鋭く、前王妃を見据えた。


「それは……」


「ふっ。また尻拭いが終わったら、功績は兄上のものですか。

 だいたい、国王を差し置いて、なぜあなたが私を呼び出すのですか。決定権はお持ちなのですか。

 やってられませんね。失礼します」

 詳しく話を聞かなくてもわかるとばかりに立ち上がり、踵を返す。


「――仕方ないでしょう! あなたには王家の血が流れていないんだから」

 前王妃は苦しまぎれに叫んだ。


「なんですって?」

 王弟は、ゆっくりと首だけ振り返る。声は地を這うように低い、


「あ、違うの。兄弟仲良く、思いやりを持って……」


「はははは。なるほど。いろいろと合点が行きました。

 私の妻に下位貴族の聖女を薦めたのも、軍に入れて前線に立たせたのも、王位から遠ざけるためか」


「弟として、臣下として、支えてほしかったのよ」


「あのボンクラを、ですか。

 はは。道理を説くなら、私を産んだ後にあなたは王妃を退くべきだった。

 そうしていたら、新たな王妃との間に、優秀な子どもが生まれたかもしれないのに。

 もうこれ以上、何を言っても尻軽女の戯れ言だぞ。

 こんな王家、滅びればいい」


「お待ちなさい、アレッサンドロ!」


 王弟と呼ばれた男は、振り向くことなく前王妃の応接間を出て行った。




 アレッサンドロは宰相に面会を求めた。

 だが、忙しいと断られる。


 次に軍務卿に会いに行った。

 軍務卿が苦労していることは知っている。この男も、薄々、この王家は駄目だと感じているのではないかと思っていた。


 案の定、彼は頭を抱えていた。

 国王は自分たちの周囲だけを守ろうとしている。近衛騎士が減った分を、他の部署に埋めさせようとしているらしい。


「こんな事態を引き起こした王族を、優先して守る必要などないのではありませんか?」

 アレッサンドロは王弟という立場を利用して言った。


「それが、許されるなら……」


「ふふふ。国王陛下が許さないと言ったところで、何ができますか。

 法務も行政も機能していませんよ。残る軍務は、あなたの管轄だ。

 国の結界が機能しなくなった責任は、王家や貴族が取るべきだと思います。

 その一方で、平民たちは守らねばなりませんよね?」


 今まで見たことがないアレッサンドロの表情に、軍務卿はごくりと喉を鳴らした。

 目が据わっていて、妙な迫力がある。


 王家を見捨てて、王国を守るなら、まだ間に合うかもしれない。

 ここで選択を誤れば、国土ごと人族が住めない領域になるだろう。


「どのような策をお考えですか?」

 軍務卿は覚悟を決めて、アレッサンドロに向き合った。

 今までも、国王や王太子が困ったことをしでかしたとき、間に入って解決してくれたのはこの男だったのだ。




 深夜まで話し合った結果、王城を守るのは近衛騎士のみとした。

 残る軍は、王城を除いた王都を守るための分と、地方を守る部隊に分けた。

 王都は軍務卿が守り、地方はアレッサンドロが指揮を執る。


「あなたのような方が王族にいてくださって、本当に良かった」

 軍務卿が心からの賞賛を捧げると、アレッサンドロは一瞬泣きそうな顔をした。


「私は、そんな……褒められるような者ではありませんよ」



 アレサンドロはこの話し合いの中で「王族として」とは、一度も言わなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
二心を疑われないように国政から離れた位置に居たのかと思っていたら、実情はもっと酷かった王弟さま。 王太后といい色々とビックリ。
うわー。 親が不倫してた事を知ったら、マトモな倫理観を持つ子にとってソイツは親からゴミに変わるんですよね。あらゆるゴミの存在を感じさせる事象(姿、声、痕跡etc.)が不快になる。 しかも自分がその不倫…
うわあ、元聖女の前王妃は、まだマトモな人かと思ってましたが、この王家はどこまでも腐ってますね。 王弟に見放されるのも当然です。 ただ、民を見捨てられない彼は、それでも戦いに身を投じる覚悟なのでしょうか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ