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もう戻らない令嬢の話――偽物の聖女と断罪されて、魔族に拾われました  作者: 紡里


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少しずつ変わって

「痛っ」

 ベネデッタが喉を押さえた。


「ベネさん、またお祈りしようとしたんだべ」

 リーナが笑う。


「もう習慣になっているのよ」

 つい、手を組んで「神様」と言いたくなってしまうのだ。

 その度に、ムスが描いた魔法で中断させられる。



「ベネがどうしても光の神様に祈りを捧げたいなら、別に住む場所を用意するよ。

 魔王城で唱えられたくないだけだから」

 ムスはそう言って、ベネデッタの顔を見た。


「そうねぇ。習慣になっているだけで、お祈りをしないと気持ち悪いというほどではないの。そんなに敬虔な信者ではなかったのよ」

 穏やかに微笑むベネデッタ。言われたから、言われたとおりに振る舞っていただけだ。



 ムスはそれを見て苛立ったように、後ろ足でタンと音を立てた。

「我慢できるかじゃなくて、どうしたいかを訊いてるんだけど!」


 ベネデッタは困ってしまった。

 十歳から十七歳になる現在まで、何も選ばせてもらえなかった。徹底的に否定され、選ぶ能力が衰えているのだ。


「好きとか、嫌いとか、あるでしょ?」

「ご、ごめんなさい」

「謝ってほしいなんて、言ってないじゃん」


「ムッさん、もっと優しく言わにゃあ」

 リーナがムスを宥めた。


 すっかり小さくなってしまったベネデッタの肩を、リーナは抱いた。

「あのな、ベネさんに良くしてあげたいから、何が好きか、何をやりたいかを聞かせてほしいんよ。

 今までは感じるのをやめて、自分を守ってたんだべ。

 それをやめて、好きか嫌いか教えてほしいんさ。あと、『どーでもいい』って言うのもあるかもしんねぇな」



「……お風呂は好きだわ」

「ああ、来たとき喜んでたな。臭いのには慣れたか?」

「匂いは少しずつ慣れてきたと言えそうよ。

 コルセットは嫌い。もう二度と着たくないわ」

「苦しいらしいなぁ。お嬢様は大変だべ」

「貴族はやせ我慢ばかりね。

 刺繍は好きよ。少しずつ出来上がっていくのが楽しみだわ」

「うんうん。とても上手だな」


 ベネデッタは心がほぐれてきたように微笑んだ。

「ありがとう。嬉しいわ。

 それなら、リーナは? 何が好き?」

「ええ、おらか? 祭で食べる焼きチーズが好きだ」

「焼きチーズ?」

 ベネデッタが聞き返すと、ムスも「何それ?」と興味津々だ。


「大きなチーズの塊を、焚き火で炙って溶かして、肉やパンにかけるんだ。うんめぇよ」

 リーナは思い出しながら、口をもぞもぞ動かした。


「美味しそうだね」

「ええ、食べてみたいわ」


「次の祭までには、もちっと静かになっとるとええんだがね」

 リーナが苦笑いした。


 ムスが短い前足で腕を組んだ。

「次の祭まで、かぁ」


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