責任の押し付け合い
魔物が鐘で遊んでいる。
それを鏡越しに見たラモーゾが「あの子たちまで入り込めるようになったのね。王都の結界に穴が開き始めたんだわ」と、訛りのない口調で笑った。
鏡の画像は国王たちの会議に戻った。
「これは、なんの鐘か」
国王が司教に鋭い声で問う。
「し、調べさせますので、しばしお時間を」
司教は慌てて、お付きの者に指示を出した。
大聖女は所在なさげに座っている。
ソフィアは自分には関係ないとばかりに、髪の毛をいじっていた。
しばらくして、お付きの者が戻ってきた。
「魔物が鐘の紐を引っ張っていました。それ自体は、騎士が討伐するよう動いております」
その報告に、会議室はどよめいた。
結界は三重になっており、国境沿いに薄いもの。王都に濃いもの。更に貴族の居住区は堅固な結界が張ってある。
その堅固な結界の中心部にある教会は、決して魔物など近付けないはずだった。
「教会は、結界が機能していないことをどう考えているのか」
宰相が言い逃れは許さないという迫力で迫る。
司教は新たな大聖女に責任を押しつけた。
大聖女は就任したばかりでよくわからないと、手元の資料を意味もなくめくる。
「お前たちがソフィアを聖女と認めた。だが、前王妃殿下は聖女ではないと断言している。
どういうことだ?」
王太子はしっかりと質問した。自分の進退にも関わることを確認せねばならない。
だが、会議に出席している教会関係者は顔を見合わせるばかりだ。
「彼女を聖女と判定した者たちを連れてこい」
王太子がしびれを切らした。
着席していない教会の関係者が、司教の指示で出て行った。
宰相は、後悔ばかりで現実に向き合おうとしなかった国王の代わりに、会議を進めた。
「前王妃殿下の見立てでは、すべての聖女に結界の間で聖力を注いでもらわねば間に合わないようです。
それは、治癒を担当する聖女も、結界のために引き上げると言うことですよ」
些細な傷でも聖女に依頼していた金持ちからは、強い反発を受けるだろう。
「さて、どういう仕組みでソフィア嬢から聖力を出したのですか?」
宰相は、王太子の立場よりも王都の結界を優先して考えようとした。
王太子妃が聖女である必要はない。
問題は結界なのだ。
ソフィアが聖女ではないのに聖力を出せたのなら、考えようによっては、その方が有用性が高い。
他の者たちからも、同じように取り出せるのならば、国は救われるのだ。
「ベネデッタから奪っただけよ」
前のめりになる宰相に、ソフィアはふてくされたように答えた。
「では、ベネデッタ嬢が魔の森に捨てられたということは……彼女の聖力は――」
宰相の喉がゴクリと鳴った。
「捨てられた次の日には聖力が送られてこなくなったから、もう死んでるんじゃないの」
仮にも義理の姉妹に対して、なんという言い草か。
最大の聖力を持つ者の死去――それは、絶望的な言葉だった。
王太子は言葉を失った。
偽物のソフィアを選び、本物のベネデッタを死なせたのか。
そんなこと、信じたくない。それではいけない。
「ベネデッタが本物だなんて、嘘だよな? 偽物はお前の方だなんて……まさか、そんな」
「気付かない方が間抜けなのよ」
ソフィアは軽蔑するように、王太子を睨み返した。
「だから、王都の結界が薄くなっているのか」
司教が真っ青になった。
ソフィアを聖女と認定したのは部下で、彼自身は報告を受けて、ソフィアを聖女だと思っていたのだ。
「そうなんじゃないの? よく知らないけど」
ソフィアは他人事のように言う。まるで、自分に責任はないというように――
ベネデッタが魔の森に捨てられた途端に、次席聖女にその座を譲り渡した前大聖女。
彼女の行動の意味が、今、わかった。
この国はもう駄目だと見捨てて逃げたのだ。
「うわあぁぁぁ! お前のせいだ!」
王太子はソフィアに襲いかかった。




