魔の森の王
日が沈み、魔王城は夜の闇に沈んだ。
昼間にも灯していたろうそくが、その数を増やす。揺らめく炎に合わせて、影が生き物のように蠢いた。
「ベネデッタ嬢はどうしている?」
オッセルヴァはグラスを揺らし、赤い液体を口に含んだ。
「一日の半分を寝て過ごしているね。今までの過労と環境の変化による疲れだろう。
新しいことをどんどん目の前に出されて、精神的な疲労もあるかもね」
ムスが答える。その表情からは、今までの愛くるしさが抜け落ちていた。
「なに? 『魔王』って呼ばれたくないの?」
くつくつとムスが喉で笑う。
「お前だって、彼女の前ではずいぶんと可愛いふりをしているではないか」
オッセルヴァが反撃する。
ムスは片方の目を細め、口元を歪めた。
「あんなに可憐なお嬢様相手ならね、自然とそうなる」
鋭い歯をむき出しにして、皿の上の肉を手に取りかぶりついた。
「人族の結界はどうだ?」
「今のところ、通常レベルに戻った感じかな。
徐々に薄れて、鈍い人族がベネの不在に慌てるまで二か月くらいってところか。教会の大聖女が逃げ出したから、崩壊はもっと早いかもしれないけど」
ムスはペロリと口の周りを舐めた。
「この腕輪は、西の国が作ったものか」
オッセルヴァはベネデッタがしていた腕輪を指差した。箱に入れて、直接触らないようにしている。
「前魔王の残党がかなり西の国に入り込んでるね。
魔道具を人族にばらまいて、さまざまな属性の魔力を吸い上げる仕組みを作ろうとしている。
ベネの継母は西の国の人間だ。仲間の司教から大聖女を通して、ベネに装着させたらしい」
テーブルの上に宝飾品が並んでいる。指輪や首飾り、カフスなど……。だが、どれも黒ずんだり欠けたりしている。
「ようやく自爆していない魔道具が手に入ったな」
オッセルヴァは手袋をはめてからベネデッタの腕輪を持ち上げ、分析していった。
「なるほど。奪われたときに自爆するための呪文の代わりに、別の呪文が刻んであるぞ。
ほう、結界の要石だけでなく、別の腕輪に聖力を送るようにしてあるのか」
「ああ、だからあの女は聖女のふりができたんだ」
ムスは半眼になり、ベネデッタの義妹を思い出していた。
遠見鏡を鳥や鼠につければ、偵察などたやすくできる。
「仕掛けがわかれば、くだらん子供だましだな」
オッセルヴァは腕輪が入った箱を閉じた。パタンという音で、燭台の炎が瞬くように揺れた。




