軍人たち
軍務卿は、国王から令嬢を捜せと命じられ、聞き返した。
「どのような立場の令嬢を、どのような理由で捜索するのか明確にご説明いただきたい」
王太子が婚約者を魔の森に捨てさせた。
意味がわからない。
悪辣だと非難して、聖女を詐称したと責め立て、婚約破棄をした。
聖女の認定は教会の権限だ。聖女ではないと認定するのも教会であるはずだ。
司祭に叙階された学生がいたそうだが、認定権限までは持っていないだろう。
――婚約破棄。
話し合って円満に婚約解消するのではない。一方的に、破棄条項に当たる何かがあるとして、断罪したという。
王太子の暴挙とも言える行動を、国王は非難したり撤回を求めたりしていない。
追認しているなら、その令嬢は「咎人」として扱われているわけだ。
魔の森に追放したことを正当性のある刑罰と考えるならば、捜索は必要ないのでは?
「魔族と戦争する気があるならば軍を動かしますが、そうでないならば今一度お考え直しください」
国王に、はっきりとそう告げた。
命令を拒否したわけではない。
正当な根拠を示してくれと申し上げただけだ。
王太子の行動が間違っていた、無実の令嬢を保護してくれ――そう言われたなら、すぐに動く。
だが、軍務卿に連絡は来なかった。
国王を護衛する近衛騎士と、非番の騎士や魔法騎士を動員して、魔の森に向かわせている。
なんと姑息な国王とその息子……
愚かすぎて、ため息が出た。
どうやら、近衛騎士団長の息子が令嬢の追放に関わっているらしく、団長が休暇を取って現場指揮をしている。
勝手に指揮系統が異なる騎士団と魔法騎士団をこき使うなど、服務規程に違反していると責めたいところだ。
しかし国王が内密に後押しをしており、「非番の過ごし方に口を出すな」と言われれば黙認せざるを得ない。
魔法騎士団長は、「非正規の訓練だと考えて目をつぶる。だが、怪我しても公務災害には認定しない」と割り切ったようだ。
騎士団長は、日頃から華美な近衛騎士団と仲が悪い。
「近衛に入りたくて媚びを売っているのか。はした金で人生を棒に振りたければ勝手にしろ」と言っていた。
平民の兵士たちをまとめあげる下士官長は、統制が取れないと諦めたようだ。
金に困った奴、断れない性格の奴が駆り出されている。また、普段なら接点がない近衛から声をかけられて、光栄だと進んで参加してしまう者もいるらしい。
日に日に怪我人が増える。
近衛騎士に数名、森から帰還しない者が出たらしい。
誰が責任を取るのだ?
休暇中の怪我なんて、除隊になっても軍人年金は出さないぞ。
国のために訓練した者たちを、王族の思いつきで振り回して失っていく……それは誰のせいだ?
一人前にするのに経費がどれだけかかると思っているのか。――と、私の補佐官が憤慨していた。
権力を振り回す未熟な王族のために、誇り高き騎士や兵士が犠牲になっている。
守るべき淑女を侮辱して私刑に処す者に、「騎士」を名乗る資格はない。親として再教育するどころか、隠蔽に加担するのか。
このまま看過すれば、軍の規律は乱れ取り消しがつかなくなる。それを放置した場合、私は軍務卿という職務を放棄したことになるな。
ならば、私は軍務卿という地位だからこそできる手段を使おうではないか。
だいたい近衛が勤める王族などの要人警護と、魔物との戦い方は別物なのだ。
普段は静観している魔族の機嫌を損ねて、魔物を取りまとめて攻められたら、こんな小国はあっという間に蹂躙されるだろう。
王城に籠もっている近衛の連中は、戦力の差も知らぬまま「戦ったら勝てるかもしれない」と夢を見ているのか。
私は軍事顧問の一人である王弟殿下に相談をした。
国王は、王弟に劣等感を抱いている。
従来であれば、裏で手を組むのは国王の信頼を裏切る行為だと、自重しただろう。
だが、国王も正規の手続きで動いていないのだから……いや、ばれたらどんな言い訳もきかないな。
私の進退一つで国が守れるならよしと、覚悟を決めよう。
「ああ、聞いている。怪我人など被害状況をまとめておいてくれるか。それを材料に中止の要請を出す。
さて、母上から攻略するか、兄上を先にするか――」
「そのご令嬢の安否確認は、どうなさいます? 放置するのも、いささか寝覚めが悪い気はしますが……」
「ベネデッタか。もう死んでいるか、魔族に保護されているかどちらかだろう。
今さら森の入り口を捜索すること自体、無意味だよ」
王弟は窓の外を見ながらそう言った。
その背中からは、どんな表情をしているのかうかがい知ることができなかった。




