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もう戻らない令嬢の話――偽物の聖女と断罪されて、魔族に拾われました  作者: 紡里


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18/19

魔王

 まずはカーテシーだろう。

「お初にお目にかかります。

 ベネデッタ・ディ・ヴィットリオと申します。人族の侯爵令嬢でございます。

 先日から森に滞在させていただき、配下の方々に便宜を図っていただいたこと、誠にありがとう存じます」



「ご丁寧な挨拶をどうも……。まずは、お座りなさい」

 穏やかな口調で、とても紳士的だ。

 だが、どこか一線を引くような距離を感じる。そして、観察するような目――


 促されてソファに座ると白い飲み物を出された。

「乳を発酵させて甘くした飲み物だ。内臓を休め、空腹を和らげる」


 ムスにも浅い器が出され、ピチャピチャと飲んでみせた。

 ベネデッタの方を見上げて「木苺より甘いよ」と笑う。


 恐る恐る口をつけると、甘酸っぱくとろけるようだ。思わず夢中になり、ごくごくと半分ほど飲んでしまう。

 リーナにハンカチを差し出され、口の周りを慌てて押さえた。


「気に入ってもらえたなら幸いだ」

 同じ飲み物を飲んでいるはずなのに、口元は綺麗なまま話している。

「さて、私はオッセルヴァと言う。皆には『主』と呼ばせているが、貴方は私の部下ではない。

 人族の言う『魔王』はあまり良い意味ではないであろう? ならば、領主とでも呼んでもらおうか」


 足を組んでゆったりと話す様子は、支配者に相応しい威厳があった。


「はい、では領主様と呼ばせていただきます」

 ベネデッタが言うと、「うむ」とうなずいた。


「人族の軍が出てくるなど、穏やかではない。

 貴方がこの森に来た経緯を教えてくれるかな」


 そこで、ベネデッタは簡潔に説明をした。

 聖女に選ばれ、王太子の婚約者になったこと。

 継母の連れ子が聖女になり、自分は偽物と呼ばれて夜の森に捨てられたこと。

 教会が迎えに来ないのは偽物と判断したからかもしれない。

 今、軍が自分を捜している理由には、心当たりがない――と。


「ムスたちに助けてもらっている身で、森を騒がせてしまい、申し訳ないことでございます」

 ベネデッタは頭を下げた。


「いや、聖女には人族の結界について相談したいところだったから、よいのだ。

 つまり、こちらも頼みたいことがあるということだが……」

 オッセルヴァは、魔族と交渉する気があるか尋ねてきた。


「お話を聞いてからでないとお答えできませんが、ご厚意を仇で返すようなことはしたくないと思います」

 ベネデッタは慎重に、そう答えた。



 そこにラモーゾがノックして入ってきた。鳥を布で包んで抱えている。


「遠見鏡で偵察をしてくれた鳥さんね?」

 ベネデッタは立ち上がった。


「羽根をやられたべ」

「わたくし結界魔法ほど得意じゃないけれど、治癒も少しなら……」


「せっかくのお申し出だが、魔族に聖力は……」

 オッセルヴァが苦笑しながら、ムスに治癒師を呼ぶように指示した。


「あ……そうですわね。失礼いたしました」

 恥ずかしい。余計なことをして悪化させるところだった。


 赤くなりながらソファに戻る様子を、オッセルヴァがじっと見つめていた。


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