王太子フェデリコの正義
国王である父上に怒られた。
勝手に婚約破棄をしたことを。
みすぼらしい聖女を捨てて、可愛らしい聖女を選んだ。
それの何が悪いのか。
愛らしく輝くソフィアは美しい。母上も応援してくださっている。
学園で、ソフィアが人前で聖力を披露した。それに比べ、ベネデッタは「ひけらかすものではない」と、聖力を見せようとしなかった。
国民の支持を得るために、自分の価値を見せつけることも必要なのだぞ。
もしかしたら、聖女というのは嘘なのではないか――そんな噂が立つのも当然だ。あのときに見せていれば、払拭できたものを。愚かだ。
成績だって、最優秀のクラスには入るが目立たない。
私が常に三位以内にいるというのに、恥ずかしくないのだろうか。
ソフィアは、一学年下で上位十位に入っている。
能力が優れていて、笑顔も可愛らしい女性の方がいいに決まっている。
しかも、家でベネデッタは義妹のソフィアを虐げているという。
なんということだ。
ソフィアの実父は隣国の平民で、魔道士をやっていたそうだ。
我が国にはない、魔道具という文化に造詣が深いらしい。
国際的な競争力を得るために、我が国でも魔道具を取り入れたらどうだろうか。いつか、詳しい話を彼女たちの父親、ヴィットリオ侯爵に聞いてみたい。
それなのに、「半分平民の血が流れているのだから家族として認めない」と、ベネデッタが言っているそうだ。
貴族も平民も等しく我が民であるのに、なんという不心得者だ。そんな人間は、国母に相応しくない。
私は十三歳でベネデッタと婚約を結ばされた。
暗い表情で、パサついた髪。彼女に会ってガッカリしたのを覚えている。
父上にあの娘は嫌だと訴えたら、次の候補はかなり年上の聖女だと言われた。
なぜ、私は聖女しか選べないのだ。
お祖母様は聖女だが、母上は聖女ではないではないか。
「だから、今、苦労しているのだ」
と、まるで母上が悪いと言わんばかりの口調。父上を尊敬しているが、あれはよろしくないと思う。
父上は大聖女と仲が悪いから、王室に聖女を迎え入れたいのだろう。
それを私に押しつけないでほしい。
一度、婚約者をソフィアにしたいと交替を願ったが、父上は聞き入れてくださらなかった。
ならば、本人――ベネデッタが消えてしまえば、いい。
戻って来られないところに連れて行けと側近に命じたら、森の中に捨てに行くという。
よくやったと褒めてやろうと思っているのに、次の日から顔を見ていない。
長期休暇に入ったからといって、遊び歩いているなら感心しないな。私の側で、側近としての研鑽を積むべきだ。
公務は、一歳年上の宰相の次男が補佐してくれる。彼によると、ベネデッタにも書類仕事をやらせてみたが、使えないと言っていた。
私の婚約者なので根気よく教えてみると請け負ってくれた彼にも、手間を取らせて申し訳なかったな。
何度も休日にベネデッタを指導してくれたのに、彼女は些細なことに引っかかって書類を突き返すと困っていた。
彼もソフィアの方が王妃に向いていると断言してくれている。
ベネデッタは私の婚約者ではなくなったので、家の籍から抜くそうだ。急いで手続きを済ませてしまうとソフィアが言っていた。私も口添えをしてやろう。
可哀想だが、親の手にも負えない性悪ならば、仕方ない。いるだけで、家名を汚すような者をいつまでも置いておけないからな。将来的には「王妃の実家」になる家なのだし。
あの辛気くさい顔が私の目の届く範囲から消えた。この先も会うことはない。
ああ、実に清々しい。
あんなのが婚約者などと、恥ずかしくていけない。
国の顔となる、私の隣に立つのだ。
もっと華やかで、幸せそうでなければ。
ベネデッタは世間を知らなすぎた。
打てば響くような気の効いた会話もできないし、流行も知らない。
真面目に学園と教会を往復するだけで、世界を広げる心意気がないのだ。
休日に母上が茶会に招いてやっても、感謝したり学ぼうとしたりする気がないらしい。
母上も、お茶会の前後に私と交流させようとお考えだったようだが、「あの子は駄目ね。わざわざ会いに来なくてもいいわ」と言うようになった。
王太子妃教育を始める前に性根をたたき直さなくては、とおっしゃっていた。
母上のお手を煩わせて……本当に問題児だったな。
そんな、やる気も適性もない娘を婚約者から外してやっただけだろう。
なぜ、軍部まで出して捜索しているのか。いなくなって、せいせいしているのに。
私には、父上のお考えがよくわからない。
個人的に、あのような暗い女が好みなのか? そんなゲスな勘ぐりをされかねないと危惧している。
王国の明るい未来のために、私は正しいことをしているのだ。




