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もう戻らない令嬢の話――偽物の聖女と断罪されて、魔族に拾われました  作者: 紡里


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国王の後悔

 馬鹿息子が、次期大聖女を魔の森に追放したという。

 辺境から帰ってきてそれを聞いたとき、開いた口が塞がらなかった。



 私が、国の結界を強くするために聖女を娶った方がいいということを知ったのは、王位を継いでからだった。

 その時には、もう結婚していた。


 婚約者を選ぶ際に候補の中に聖女はいたが、素朴でぱっとしない感じだったので今の王妃を選んだ。

 候補者たちは家柄、能力、容姿などそれぞれ一長一短で、正直、誰を選んでも大差なかった。

 だから、それを知っていたら聖女を選んだのに。


 聖女は幅広い年齢層で、二十人くらいいる。全員、貴族の娘だ。


 今の大聖女は教会が第一で、王国のことは二の次。国政にあまり協力的ではない。


 王位に就いてから、「やはり身内に聖女がほしい」と強く考えるようになった。


 今は、聖女である母上がいるから、まだいい。

 父上の時代には、「わたくしが教会に話を通しますわ」と二人三脚でうまくやっていた。


 母上は私の妻とは仲が悪い。そのため一線を退き、私が相談に行くときだけ答えてくれる。

 教会の出方が予想できるだけでも、大助かりだ。


 本音は、母上がもっと動いて、教会が私に協力的になればいいのにと思うけれど……。

 婚約者を決める際に、ちゃんと「聖女を選べ」と助言してくれたらよかったのに。



 その後悔から、息子の婚約者は聖女にしてやった。これこそが親心というものだ。

 息子フェデリコと聖女ベネデッタのお茶会はあまり盛り上がっていないらしい。

 まあ、若いから異性に対する照れもあるだろう。

 私は一番お茶会が盛り上がった女性を選んで失敗した。よって、そんなに気にすることもないと考えていた。


 十三歳で婚約し、十七歳まで素っ気ないまま……。

 さすがに少し不安になったが、結婚してから仲良くなる夫婦もいるのだ。なんとかなると期待した。



 実は、半年くらい前から、大聖女と私は何度も衝突している。


 ベネデッタが、ただの聖女ではなく大聖女の器だというのだ。私の先見の明は素晴らしかった。

 しかし、そのせいで、大聖女が自分の後継者にしたいから婚約を白紙にしろと言いだした。


 あちらは、「王太子妃など他の令嬢にも務まる。大聖女になれる資質をもつ聖女は少ないのだ」と主張する。

 こちらは、「聖女の中から最適な者を選び直せばいいだろう。将来的に王妃になる人間が優秀でないと困る」と反論する。


 元々、非協力的な大聖女が、ますます嫌な態度になっていった。分からず屋の頑固な老婆め。



 ベネデッタを教会に奪われてはならん。

 こちらで確保しておけば、大聖女も弟子可愛さにいろいろと妥協するかもしれない。


 だから息子には「婚約者を大切にしろ」と念を押した。

 息子は「聖女を大切にする」と答えた。



 後で思い返せば、意味深な言い方だ。

 あやつは婚約者のベネデッタではなく、聖女のソフィアを大切にすると、言葉遊びをして私を欺いたのだ。



 一月前に、辺境から「半年前から様子がおかしい」と相談が寄せられた。

 もし結界の不具合だとしたら、代理ではなく国王たる私と大聖女が現地に赴くべき事案だ。


 ところが大聖女は、それよりも大事なことがあると断ってきた。

 同行を願うなら、王太子と聖女の婚約を白紙に戻せと言う。


「王太子がベネデッタを捨てる」という噂があるのは知っている。大聖女ともあろうものが流言に惑わされるなど、けしからん。


 王太子たる者が、婚約者の義妹に懸想するなどありえない。そんな不埒な人間ではない。私は息子を信じている。

 ――そのときの私は、本気でそう考えていたのだ。



 とりあえず私と母上が出向いて問題を確かめるほかないだろう、ということで辺境に向かった。


 どうやら結界が強化されすぎて、小動物の行き来が阻害されているようだ。

 果実の受粉を助け、病害虫を食べてくれる鳥や虫が、外に出るのはいいが中に戻ってこられない。

 大聖女に結界の強度を落としてもらえば解決するな。

 私たちは安心して帰城の途についた。

 辺境から王城に戻るのに数日はかかる。息子の卒業には間に合わないが、国王なので突発的な仕事が入るのは仕方ない――



 帰城して、得意げな様子の息子に、おかしな話を聞かされた。

 旅の疲れで自分の頭がおかしくなったのだと、思いたいくらいだ。


 婚約破棄のみならず、魔の森に追放しただと?


 息子はこんな人でなしだったのか!



 追放してから三日目も経っている。

 軍を派遣して、捜索しなければ。

 すぐに動くよう、軍部に命令を出した。



 それから、大聖女に「結界が強すぎて不具合が出ている」と手紙を出した。

 本来なら顔を見て話したいところだが、緊急事態で執務室から動けない。

 ……正直に言うと「だから婚約解消しておけば」と怒鳴られるのが怖かった。


 ベネデッタを巡り険悪になってから、登城要請を無視されることがあった。

 だから大聖女が登城して来ないことに舌打ちをしながら、辺境への視察の間に溜まった仕事を片付けていた。



 令嬢が魔の森で困っているというのに、捜索の状況ははかばかしくない。

 一刻も早く助けなければと、もっと真剣にやるべきだろう。



 婚約破棄と追放の当事者たちに話を聞いたが、理解不能だった。

 司祭の資格を持つ学生が「夜の森に捨ててきた」などと、悍ましいことを平然と言い放つ。

 浮気をした側が、なぜ堂々としているのか。

 王太子も側近も、未だに何が悪いか理解していない。

 大聖女に、次期大聖女になることを望まれるベネデッタが偽物なわけがあるか。


 呆れていたら、ベネデッタの義妹が聖女だとか、新たな婚約者だとかふざけたことを言いだした。

 他国の平民の血が混じった、さして優秀でもない少女を娶ってどうするのだ。私以上に統治するのが難しくなるぞ。

 それに、光魔法を使えるとしても、平民を「聖女」と認めるのはおかしいだろう。教会は私にいやがらせをしたいのか。


 まったく、どいつもこいつも……。



 数日後、もうこれ以上魔の森を捜索しても無駄だと軍部に言われてしまった。

 彼らにとっては、王太子の婚約者ではなくなった人間だ。

 しかも実家が除籍手続きを始めたので、もうすぐ平民になる――。


 実の娘を排除して、連れ子に家を継がせるのか?

 いや、王太子の婚約者にしろと言っているのだから、継がせることはできない。それなら、ベネデッタを後継者にするのが普通だろう。


 除籍すると知っていたら、侯爵に思いとどまるようにと説得した。

 だというのに、忙しくて、気がついたら手続きが進んでいたのだ。


 なにより、なぜお前が娘の捜索をしない?

 政略結婚の妻との間の子であろうと、血を分けた我が子に変わりあるまい。


 あれ? 侯爵は外交官として他国に赴任しているぞ?


 何かがおかしい。

 そう思っても、立ち止まって考える時間などない。

 疑問は、頭の片隅に流されていった。




 それにしても、なぜ、こんなに忙しいのか。

 非協力的な教会のせいだ。結界をどうするのかの問い合わせに、返事が来ない。舐めている。

 私を舐めているぞ。



 十日も過ぎた頃だろうか。大聖女が代替わりしたと書状が届いた。

 この大変な国難のときに、一体なんなのだ。

 前回の大聖女の交替は、国王に挨拶をしに登城し、両名が国民の前に立って儀式をしたではないか。


 事後報告なのは腹が立つが、教会が決めたなら仕方ない。

 こちらに協力的な人物であることを期待したが、母は新しい大聖女を「あれは修行が足りない怠け者だ」と断じた。

「侯爵家の生まれという血筋しか誇るものがないクズだわ。大聖女……元大聖女は、逃げたのね」

 私の婚約者候補だった聖女も、元大聖女と一緒に出国したそうだ。



「この国は、どうなるのでしょう」

 不安で、思わず母上に泣きついた。

「残った聖女たちに修行をさせ、祈りの力を増すしかないでしょう。平民の光魔法の使い手も集めて、同じようにさせなさい」

「それでは貴族の反発が……」

「まごまごしていたら、国がなくなります。

 最悪、王家が滅んでも、この地を人族のものにしておかなければなりません」


 さすが、前王妃だ。

 眩しいほどの覚悟であることよ。私も腹をくくらねば――。


「軍を掌握しているあなたの弟と協力して事に当たりなさい」


 母上にそう言われ、私はショックで返事ができなかった。

 またか。

 優秀な弟に、不出来な兄……いつまでたっても、どんなに頑張っても、私は認めてもらえないのか。

 心が悲鳴を上げた気がした。



 もう限界だった私には、「平民の光魔法と貴族の聖魔法は同じ物だ」と公表することができなかった。

 だって公表したら、「本当か?」と確認に押し寄せる者、「今まで騙していたのか」と責め立てる者が湧いてくる。

 教会だって、非協力的どころか敵になるだろう。

 それらに一人で対応するなど、出来損ないの私には無理だ。ははは。



 そんな状況なのに、妻が「お義母様はきつい方ね」と母上の悪口を言う。

 華やかな上位貴族出身の王妃……貴族としてなら及第点だ。しかし、国母になる心構えがなっていない。

 母上に反発して、学ぼうともしない。


「……フェデリコが浮気していたことを知っていたのか?」

「知っているわ。いつも疲れた顔をしている子より、可愛い子を義娘にしたいじゃない。だから、応援したの。

 あなたこそ、今頃そんなことを言っているなんて、情報が遅いわよ」


 私の頭の中に、絶望という言葉が浮かんだ。


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