食事と心の傷
洞窟にある食料は、今朝ムスが取ってきてくれた木苺と、一昨日ラモーゾがくれた硬いパンと干し肉だけ。
一食で食べきってしまいそうな量だが、半分か三分の一くらいにして残しておくべきだろうか。
ベネデッタは真剣に迷ったものの、今までそんな経験がないのでどうしていいかわからない。
「あのさ。そろそろ傷むかカビが生えるから、食べきった方がいいよ」
彼女が悩む様子をムスは面白そうに見ていた。だが、あまりにも決められないため、しびれを切らして声をかけた。
「あ、そ、そうね」
ベネデッタは赤くなった。食べ物のことで悩むなんて、はしたないと。
大人しく口をもぐもぐさせていると、ムスも木苺を食べている。
「次の食事はどうなってるかとか、訊くの怖い?
どれくらい食べようかって、僕に相談するっていう方法もあったよ?」
予想もしていなかったことを尋ねられて、固まってしまった。
怖い?
そう、怖いのかもしれない。
なぜ?
……あっ! 実家で継母が嫌がらせに食事を出してくれず、厨房に行ったら卑しい真似をと後で怒られたんだわ。
ぞくりと背筋から冷えた感覚がして、手からパンが抜け落ちる。幸い、膝の上に落ちた。
「大丈夫だよ。生きていくのに食べ物の配分はとても大切なことだもん。遠慮なく相談して。
今までは相談する人がいなかっただけでしょ?」
「どうして……そう、思うの?」
「この森に捨てられる人って、虐げられてきた人が多いからさ」
なんてことない、というような軽い口調だった。
ムスは何をどこまで知っているのだろう?
ただの一般論なのか、ベネデッタの事情を知っているのか……。
あまりにも親切なことに、微かに違和感を覚えた。
「なんか、森が騒がしいな」
ムスは洞窟の入り口の方に意識を向けた。
「様子を見てくる。念のために目くらましをかけていくから、ラモーゾが来たら名前を呼んで。
そうしたら、呼ばれた人にはベネの姿が見えるようになる」
ムスはベネデッタの腕を登り、首の後ろを回って逆の腕から降りた。
尻尾が首筋をなでて、ふわふわの感触が気持ちよかった。
だが、ムスが地面に降り立つと、ピキリと体のまわりを硬い何かに覆われる感じがした。
「え、なんか動きにくい……?」
「あ~、あんまり動き回らないでほしいかも。
今日も疲れが残っているだろうから、寝てなよ」
そう言い残して、ムスは洞窟を出て行った。
昨晩は不安で眠りが浅かったかもしれない。頭が重たい。
ベネデッタは手と顔を洗って、もう一眠りすることにした。
最初の夜の木の根元よりもいい寝床なのだが、慣れてくると枯れ葉がチクチクするし、堅い土の上では体が痛くなる。
「安心したら、贅沢になっちゃった」
清貧の教えに背く自分を恥じたが、それならば司教の衣装はなぜ金ピカなんだろうと疑問が湧いた。
「こんなことを考えるから、聖女に相応しくないと言われるのかもしれないわね」
小さな声は、枯れ葉がこすれ合う音に消された。




