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もう戻らない令嬢の話――偽物の聖女と断罪されて、魔族に拾われました  作者: 紡里


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12/13

食事と心の傷

 洞窟にある食料は、今朝ムスが取ってきてくれた木苺と、一昨日ラモーゾがくれた硬いパンと干し肉だけ。

 一食で食べきってしまいそうな量だが、半分か三分の一くらいにして残しておくべきだろうか。


 ベネデッタは真剣に迷ったものの、今までそんな経験がないのでどうしていいかわからない。


「あのさ。そろそろ傷むかカビが生えるから、食べきった方がいいよ」

 彼女が悩む様子をムスは面白そうに見ていた。だが、あまりにも決められないため、しびれを切らして声をかけた。


「あ、そ、そうね」

 ベネデッタは赤くなった。食べ物のことで悩むなんて、はしたないと。


 大人しく口をもぐもぐさせていると、ムスも木苺を食べている。

「次の食事はどうなってるかとか、訊くの怖い? 

 どれくらい食べようかって、僕に相談するっていう方法もあったよ?」


 予想もしていなかったことを尋ねられて、固まってしまった。

 怖い?

 そう、怖いのかもしれない。

 なぜ?

 ……あっ! 実家で継母が嫌がらせに食事を出してくれず、厨房に行ったら卑しい真似をと後で怒られたんだわ。


 ぞくりと背筋から冷えた感覚がして、手からパンが抜け落ちる。幸い、膝の上に落ちた。


「大丈夫だよ。生きていくのに食べ物の配分はとても大切なことだもん。遠慮なく相談して。

 今までは相談する人がいなかっただけでしょ?」

「どうして……そう、思うの?」

「この森に捨てられる人って、虐げられてきた人が多いからさ」

 なんてことない、というような軽い口調だった。


 ムスは何をどこまで知っているのだろう?

 ただの一般論なのか、ベネデッタの事情を知っているのか……。


 あまりにも親切なことに、微かに違和感を覚えた。



「なんか、森が騒がしいな」

 ムスは洞窟の入り口の方に意識を向けた。

「様子を見てくる。念のために目くらましをかけていくから、ラモーゾが来たら名前を呼んで。

 そうしたら、呼ばれた人にはベネの姿が見えるようになる」


 ムスはベネデッタの腕を登り、首の後ろを回って逆の腕から降りた。

 尻尾が首筋をなでて、ふわふわの感触が気持ちよかった。


 だが、ムスが地面に降り立つと、ピキリと体のまわりを硬い何かに覆われる感じがした。

「え、なんか動きにくい……?」


「あ~、あんまり動き回らないでほしいかも。

 今日も疲れが残っているだろうから、寝てなよ」

 そう言い残して、ムスは洞窟を出て行った。



 昨晩は不安で眠りが浅かったかもしれない。頭が重たい。

 ベネデッタは手と顔を洗って、もう一眠りすることにした。


 最初の夜の木の根元よりもいい寝床なのだが、慣れてくると枯れ葉がチクチクするし、堅い土の上では体が痛くなる。

「安心したら、贅沢になっちゃった」


 清貧の教えに背く自分を恥じたが、それならば司教の衣装はなぜ金ピカなんだろうと疑問が湧いた。

「こんなことを考えるから、聖女に相応しくないと言われるのかもしれないわね」

 小さな声は、枯れ葉がこすれ合う音に消された。


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― 新着の感想 ―
魔の森は、虐げられた人々の姥捨て山だったのでしょうか。 非道がまかり通る救いようのない国ですね。 本編とは関わりないかも知れませんが、他の人々はどうなったのか気になります。
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