枯れ葉のように粉々になる
ラモーゾが買ってくれた串を食べ終えた。
「この串は洗えば、いろんなことに使えるべ」
彼女はそう言って、ベネデッタに串を渡してきた。一瞬、まだ洗っていない串に抵抗を覚えたが、素直に受け取る。
ムスも「じゃ、これもあげる」と渡してきた。
涙目になりそうだったが、そこは淑女のプライドにかけ、微笑んで礼を言ってみせた。
「湧き水があるところで、串と手を洗うべ」
ラモーゾにそう言われて、森の奥に向かった。
岩肌に苔が生え、その隙間に水がしみ出していた。
地面に近い岩が削れて水が溜まり、ちょうど手を洗えるくらいの深さがある。
冷たい水に、思わず肩が跳ねた。
「冷たっ」
ラモーゾが笑った。
「びっくりしたか」
「ええ。でも美味しいわ」
澄んだ水は喉を通り、生き返るようだ。
「僕の手はキレイだから、洗わないよ」
ムスは自分の指をペロペロと舐めながら言った。
「おめぇみてぇな小っこいもんには、ぴりりと痛かろう」
ラモーゾは手を洗いながら言う。
「これは聖水だでな。魔物は好んで飲んだりしねぇ。この辺りなら、
おめぇも暮らしやすいかもしれねぇな」
「わたくし、ここにいていいの?」
ベネデッタはラモーゾと交替して、串を洗いながら訊いた。
「人族の村に行くか? 教会のもんや兵隊さんがうろうろしてっぞ」
「わたくしを、捕まえるために?」
「そこまではわからねぇけんど。いつもよりは多いべな」
「ベネ、危ないからここにいなよ」
ムスが目をキラキラさせながら言ってくれる。
可愛い小動物のあざとい表情に、ベネデッタの胸は鷲づかみにされたようだった。
「そうさせてもらうわ」
「んじゃ、手をキレイにしたから、さっき脱いだドレスをここに運ぶか?」
「岩の奥の洞窟なら、雨もしのげるよ」
ムスが洞窟に向かいかけて立ち止まり、そわそわしながらベネデッタが追いつくのを待っている。
「それはありがたいわ」
ベネデッタは微笑んでムスについていき、ラモーゾは来た道を戻っていった。
湿っていない落ち葉を集めて、洞窟に敷いた。
ベネデッタとムスが寝床を作っていると、ラモーゾがドレスやコルセットを抱えて戻ってきた。
「これ、売るか? 取っておくか?
売るにしても、この辺りには平民しかいねぇから、行商人が来るまで売れねぇけんど」
ラモーゾは丁寧に、寝床の近くに置いてくれた。
「もう着たくないから、機会があったら売りたいわ。それで串焼きでも食べた方が幸せだもの。
でも、それまでお金がないからお世話になってしまうわ。ごめんなさいね」
「貴族の娘っ子は刺繍ができるって聞いたども」
「ええ、一通りは教養として身につけているわ」
「じゃあ、村の婚礼の衣装の刺繍を手伝ったら、喜ばれんべ。明日辺り、兵隊さんがいなかったら、預かってくるべか」
「どうしたのかしら。追放しただけでは安心できないとでも……?」
ベネデッタは不安になった。
「こちらの弁明も聞いてくれない人たちだから、逃げるが勝ちね。しばらくここに引きこもっていて、いいかしら?」
「弱っちい人族は、この辺りまで来られないから安心して」
ムスが胸を張る。
心の中で、「ムスも強くは見えないけれどね」と微笑ましく思った。
「そういえば、どうして魔の森の中に聖水が湧いているのかしら?」
先ほどムスが聖水に触れなかったのは、魔の者にとっては害になるものだから……そんな気がした。
「人族の領域にも瘴気が湧く場所があったでしょ?
もともと区別なく光も闇も存在していて、光が多いところに人族、闇が多めのところに魔族が住むようになっただけだから」
「光と聖力が多い土地……多いだけで闇魔法も存在する、ということ?
――驚いたけれど、なんだか、しっくりくるわ」
「だいたい同じ光魔法を、貴族なら聖魔法、平民なら光魔法って呼び分けてるだけじゃん」
ムスが、馬鹿みたいと蔑むように嗤った。
その言葉に、愕然とした。
ああ、教会で感じた違和感は、それだったのかと腑に落ちた。
貴族が優越感を持つためだけの、無意味な線引きを何度も感じていた。
清く正しい教会がそんなことをするはずがないと、見間違いだ、気のせいだと思い込もうとしていただけ。
次席聖女は大聖女を引きずり下ろそうと、何度も策略を張り巡らせていた。
神に祈りを捧げ、平和を感謝する場で、なんと醜く愚かなことか。
家も学校も王家も……教会さえも、欲望にまみれていた。
脱力して座り込むと、クシャと枯れ葉が音を立てた。




