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もう戻らない令嬢の話――偽物の聖女と断罪されて、魔族に拾われました  作者: 紡里


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10/13

枯れ葉のように粉々になる

 ラモーゾが買ってくれた串を食べ終えた。


「この串は洗えば、いろんなことに使えるべ」

 彼女はそう言って、ベネデッタに串を渡してきた。一瞬、まだ洗っていない串に抵抗を覚えたが、素直に受け取る。

 ムスも「じゃ、これもあげる」と渡してきた。


 涙目になりそうだったが、そこは淑女のプライドにかけ、微笑んで礼を言ってみせた。


「湧き水があるところで、串と手を洗うべ」

 ラモーゾにそう言われて、森の奥に向かった。



 岩肌に苔が生え、その隙間に水がしみ出していた。

 地面に近い岩が削れて水が溜まり、ちょうど手を洗えるくらいの深さがある。


 冷たい水に、思わず肩が跳ねた。

「冷たっ」


 ラモーゾが笑った。

「びっくりしたか」


「ええ。でも美味しいわ」

 澄んだ水は喉を通り、生き返るようだ。


「僕の手はキレイだから、洗わないよ」

 ムスは自分の指をペロペロと舐めながら言った。


「おめぇみてぇな小っこいもんには、ぴりりと痛かろう」

 ラモーゾは手を洗いながら言う。

「これは聖水だでな。魔物は好んで飲んだりしねぇ。この辺りなら、

 おめぇも暮らしやすいかもしれねぇな」


「わたくし、ここにいていいの?」

 ベネデッタはラモーゾと交替して、串を洗いながら訊いた。


「人族の村に行くか? 教会のもんや兵隊さんがうろうろしてっぞ」

「わたくしを、捕まえるために?」

「そこまではわからねぇけんど。いつもよりは多いべな」


「ベネ、危ないからここにいなよ」

 ムスが目をキラキラさせながら言ってくれる。

 可愛い小動物のあざとい表情に、ベネデッタの胸は鷲づかみにされたようだった。

「そうさせてもらうわ」


「んじゃ、手をキレイにしたから、さっき脱いだドレスをここに運ぶか?」

「岩の奥の洞窟なら、雨もしのげるよ」

 ムスが洞窟に向かいかけて立ち止まり、そわそわしながらベネデッタが追いつくのを待っている。


「それはありがたいわ」

 ベネデッタは微笑んでムスについていき、ラモーゾは来た道を戻っていった。



 湿っていない落ち葉を集めて、洞窟に敷いた。

 ベネデッタとムスが寝床を作っていると、ラモーゾがドレスやコルセットを抱えて戻ってきた。


「これ、売るか? 取っておくか? 

 売るにしても、この辺りには平民しかいねぇから、行商人が来るまで売れねぇけんど」

 ラモーゾは丁寧に、寝床の近くに置いてくれた。


「もう着たくないから、機会があったら売りたいわ。それで串焼きでも食べた方が幸せだもの。

 でも、それまでお金がないからお世話になってしまうわ。ごめんなさいね」


「貴族の娘っ子は刺繍ができるって聞いたども」

「ええ、一通りは教養として身につけているわ」

「じゃあ、村の婚礼の衣装の刺繍を手伝ったら、喜ばれんべ。明日辺り、兵隊さんがいなかったら、預かってくるべか」


「どうしたのかしら。追放しただけでは安心できないとでも……?」

 ベネデッタは不安になった。

「こちらの弁明も聞いてくれない人たちだから、逃げるが勝ちね。しばらくここに引きこもっていて、いいかしら?」


「弱っちい人族は、この辺りまで来られないから安心して」

 ムスが胸を張る。


 心の中で、「ムスも強くは見えないけれどね」と微笑ましく思った。

「そういえば、どうして魔の森の中に聖水が湧いているのかしら?」

 先ほどムスが聖水に触れなかったのは、魔の者にとっては害になるものだから……そんな気がした。



「人族の領域にも瘴気が湧く場所があったでしょ? 

 もともと区別なく光も闇も存在していて、光が多いところに人族、闇が多めのところに魔族が住むようになっただけだから」


「光と聖力が多い土地……多いだけで闇魔法も存在する、ということ?

 ――驚いたけれど、なんだか、しっくりくるわ」


「だいたい同じ光魔法を、貴族なら聖魔法、平民なら光魔法って呼び分けてるだけじゃん」

 ムスが、馬鹿みたいと蔑むように嗤った。


 その言葉に、愕然とした。

 ああ、教会で感じた違和感は、それだったのかと腑に落ちた。

 貴族が優越感を持つためだけの、無意味な線引きを何度も感じていた。

 清く正しい教会がそんなことをするはずがないと、見間違いだ、気のせいだと思い込もうとしていただけ。

 次席聖女は大聖女を引きずり下ろそうと、何度も策略を張り巡らせていた。

 神に祈りを捧げ、平和を感謝する場で、なんと醜く愚かなことか。



 家も学校も王家も……教会さえも、欲望にまみれていた。

 脱力して座り込むと、クシャと枯れ葉が音を立てた。


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