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星間の妖精(エルフ)  作者: tk7_sf
第4話 シルフのセカンドキャリア
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4-1 失業

 ベースに帰着後、航路管理局にクレームを入れに文字通り飛んでいった。

 件の中性子までの事前調査で通るよう言われていた航路に問題があったことを伝えに来たのだ。

 任務開始自体がかれこれ300年以上前の話なので引継ぎも何もなく、当時のことはわからないと言われた。

 準光速(0.1C:光速の10%以上の速度)で航行してた中、ほとんど寝て過ごした俺にとってはつい先日のようだが、地上勤務の人からすると300年以上だという。アンガーマネジメントの達人である俺としては帰ってくるまでこの怒りが持続したこと自体が奇跡のようだが、そう説明されたら納得せざるを得ない。

 しかし、この振り上げたこぶしはどうしたらいいだろうか。うまいこと振り下ろすことができやしないか。とりあえず、取得した航路のデータを提出し解析してもらうことにした。

 解析結果はすぐに出た。俺の取得したデータは現在の推奨航路情報とほぼ一致し、当該航路の安全性を裏付けるデータとして有益であると評価された。また、当時のデータとの差異があることを明確にすることができたので補償のポイント付与と言う形で矛をおさめてほしいと願われた。ポイント、つまり金での解決である。

 むしろ任務開始時の通貨レートでの成功報酬をもらうより、今回の補償におけるポイント付与のほうが多いまである。結果オーライ。振り上げたこぶし? なんのことかなぁ。わかんない。


 懐が温まった俺はグリーンリンクスの整備を任せているチューニングショップであるエイトシックスへ足を運ぶ。

「おう、シルフ。例の衛星の開発は順調だぞ。」

 エイトシックスの主であるジンは開口一番、衛星の開発の話から始める。

 曰く、開発は順調に進み、宙域に早速コースを設定したらしい。コース設定というのは特定エリアに進入禁止を示すブイを設定するだけの簡単なお仕事。

 ピットやクラブハウスの建物を建てることに注力したらしいがそれらも目標どおり進捗したとか。

「元々、ドーム建設用のロボットたちはあったしな。建築資材の現地調達もある程度できたし、想定より安く済んだよ。念願の不労所得も100年分ぐらい入金されてるはずだぞ。確認したか?」

 全然見てなかった。リンクスめ、何も言わなかったじゃないか。

「その様子じゃ、量子アンテナが設置されていることも知らないな?」

 ジンはニヤリと口角を挙げて何やら大事なことを告げる。

 量子アンテナとは量子テレポーテーションを使った情報通信であり、距離に関係なく瞬時に情報を伝送できる技術だ。

 つまり、それの設置は遠く離れた星において行われるレースをリアルタイムで観戦することができるようになるということだ。

 量子通信には莫大なエネルギーが必要なのと設備が極めて大型なため、船に設置することはできないため発電施設などを有する星に固定する必要がある。

 レースは最高速は0.1Cにもなり、テクニカルセクションの抜きつ抜かれつのバトルは迫力抜群。鍛え抜かれた職業レーサーのエルフが織りなす人間の限界を超えた超高速バトルは人気にならないわけがないという。

 衛星シルフには8人ほどの常駐選手がいるようで、衛星シルフ選手権として人気コンテンツとなっているそうだ。その放送利益の一部を俺は知らないうちに受けとっていたということだった。


「リンクス、俺の口座の残高いくら?」

 帰宅と言うか帰船してリンクスを問い詰める。

「ええと、ひと財産あるわよ。」

 なにが「ええと」だ。わざとらしすぎる。知っていただろうに。

「でも良かったじゃない。最後にひと稼ぎができて。」

「え? 最後ってどういう意味?」

「あら、聞かされてないの? 有人探査はもう行われてないってこと。」

「え? 聞いてない。というか、探査事務局に行くの忘れてた。」

「そう、だったら明日にでも行ったほうが良いわよ。退職金貰えるでしょうし。」

 なんか、不穏なことになってきたぞ。

 有人探査はもう打ち切り? えーと、この後俺はどうしたらいいんだろうか。いや、考えたことがなかったわけではないけど実感がわかない。

 スー、ハーと深呼吸。吐き出した息とともに焦燥感は抜けていく。まあ、明日の俺が考えればいいことだし、クヨクヨしても仕方ないな。寝るか。


 翌朝、早速、探査事務局に突撃する。

 おうおう、有人探査打ち切りってどういうことだい。そんなようなことを窓口のお姉さんだかお兄さんだか見分けのつかない中性的な若い人に問いかける。このご時世、人の性別を聞くことは失礼なこととされている。俺も聞かれるの嫌だし。

「何をおっしゃいますか。有人探査の打ち切りはかれこれ100年は前の話ですよ。」

 そうはいっても、100年前なんてまだ宇宙にいたってばよ。そんきゃ、こちとら絶賛中性子星の重たい重力と格闘中だい。

「お待ちください。シルフ様ですね。えーと…」

 窓口の人は端末でなにやら参照し、こっちをみてニコっと微笑む。

「最終任務は途中での棄権となりましたが、満額のポイントが付与されます。退職金に相当する任務慰労ポイントも出ておりますね。また、グリーンリンクス号の権利もシルフ様へ移譲されます。」

 そういえば、リンクスの権利は元々事務局のものだった。かれこれ千年以上、俺が使ってるからすっかり自分のものだと勘違いしてた。

「それと探査員の有志が立ち上げたサークルのご案内もございます。パンフレットはこちらです。」

 パンフレットには探査員OB向けの考古学、新文明発見、異星コミュニケーションだののサークル活動のご案内。

 いろいろと分派している。俺も惑星探査員だったから特定のジャンルに注力したいその気持ちはわからんでもないよ。とはいえ、到着するまでなにがあるかわからないのも探査任務だ。ピンポイントで狙ってそれぞれのミッションにつけるかって話。

 とりあえず、それぞれの代表の話でも聞いてみるかな。暇になっちゃったし。


 早速、各サークルに直談判してやろうと息まいたが、それぞれの事務局は異星だ。ここは辺境も辺境、太陽系近郊の中央星系から150光年は離れたところ。一番離れたサークル事務局の住所は中央星系をはさんで反対側で200光年ぐらい離れてる。幸い、連絡先の記載がある。

 従量課金で決して安くない量子電話だが、俺には念願の不労所得と退職金で得たひと財産がある。とりあえず帰船して連絡することにした。

 帰船して、探査事務局での出来事をリンクスに報告した。

「そう。それじゃあ、私は名目共にシルフのものになったわけね。不束者ですがこれからもよろしくお願いいたします。」

 そういう冗談まで使いこなすようになったのは一体何が……。

 さて、リンクスにわざわざ話を通したのはそれぞれのサークル事務局の現地時間を確認するためだ。量子通信で現地サーバーから時刻を取得してもいいんだけど、それだけでも金がかかるから。

 いや、今の俺は働かなくても食っていける不労所得もある富豪であるからして、そんなことでケチケチする必要はないのだけど、貧乏時代の癖が抜けない。

 リンクスに確認したところ、3サークルとも現地時間は真夜中。ここしばらくはちょうど半日違う感じらしい。

 とにかく今日はいろいろあって疲れた。直談判したかったが、非同期通信でメッセージを送ることにした。西暦時代でいうところのEメールのようなものだね。概ね次のようなことを伝えた。


Dear サークル幹事

・今日、帰ってきたら最後の任務だったと告げられたこと。まだ探査を続けたいこと

・各サークルはそのジャンルを特定しているが、私の任務では現地に着くまで特定できなかった。おたくらのところでは出発前に特定できていたのか

・他のサークルにも興味がある。掛け持ちは出来るのか

・船の型式はZX-F86であること

・金の事

from 辺境のシルフ


 二日ほどあって、それぞれサークルから返信があった。概ねそれぞれの返信内容は同じようなことだった。


Dear 辺境のシルフ

・最後の任務のねぎらいの言葉。

・中央付近(太陽系)では出発前にジャンルの特定はできていた。そうでない任地があることに驚いたこと。

・サークルの掛け持ちは可能だし、歓迎している

・船は不問。サークルメンバーの所有船は高級船が多いこと。自慢か?

・遠方参加のため入会金は免除するが年会費(100年単位)がかかること

・各サークルは実はつながりがあること。

・俺の拠点については完全圏外であるとのこと。従って、サークルからの活動指示はほとんど期待できないとのこと。

・衛星シルフ選手権のファンであること

From サークル幹事


「リンクス、これって参加する意味あるかな。」

「シルフ、聞かなくてもわかるでしょ。金だけ払ってなにも活動することがないじゃない。私からの提案だけど、辺境事務局を開くのはどうかしら。」

 辺境事務局ねぇ。事務局と言ってもこの近辺で有人探査していたのは俺だけだからなぁ。いつだかにフリーの探査員になっても良いとぼやいたが、それもいいかもなぁ。問題は探査先をどうするかだね。とりあえず、衛星シルフ選手権にでも広告打ってみるか。


 衛星シルフ選手権のプロモーターであるエイトシックスのジンを訪ねた。これまでの経緯を話して協力を仰ぐことができないか相談するのだ。

「なんだ、シルフ、そんなことか。それじゃあ、ホームストレートエンドの看板をお前さんの事務所の宣伝に使ってやろう。」

 ホームストレートエンドといえば、0.1Cまで加速したマシンが1コーナーに進入するためのブレーキングポイントから1コーナーの入り口のことだ。

 超望遠で撮影されるため、望遠圧縮効果も手伝って大きく写り込む特等席だといえる。超高速度からの減速のため、ブレーキング時間もとても長い。つまり長々と広告が映されることになる。まさにプレミア看板だ。

「それに衛星シルフ選手権の名前を変えたっていい。今までお前に敬意を払ってネーミングライツを断っていたんだ。どういう名前がいい?」

「いや、特等席の看板だけでいいよ。ネーミングライツは解禁してくれて構わないよ。」

「そうか。善は急げだ。次の開催に間に合うよう手配しよう。広告の入稿も電子的に送るだけだからな。」

 まあ、広告のデザインなんかもリンクスがやるんだけど。持つべきはアシスタントAIだね。


 そして、広告を打って衛星シルフ選手権の今年のシーズンが閉幕した。シーズン途中からの広告だったけど、広告そのものはまあまあ話題にもなり、狙い通り1コーナーはシルフコーナーと呼ばれることが定着した。

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