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星間の妖精(エルフ)  作者: tk7_sf
第1話 エルフのシルフ
2/12

1-2 おしごと開始

「シルフ、西暦の機械が搭乗員とコンタクトを取りたがっていますがどうしますか?」

 機械からコミュニケーションを求められるなんて初めてのケースだ。おそらく他の探査においても初のケースに違いない。

「人間のフリしてコミュニケーションを取ったらよかったんじゃないの?」

「打診の前にAIであることを看破されてしまいましたので。」

 リンクスに限らず、こういうところがAIのダメなところ。未だに人間のフリが下手なんだ。

 前期西暦時代に指標とされていたチューリングテストとやらは余裕で突破できるだろうが、AIと会話慣れしている人間ならすぐに看破できる。相手にもその程度の能力があるということだろう。

 特にこの船のコンピュータは時代遅れの半導体によるコンピューターであることもあって融通が利かない。いや、融通うんぬんではなくて、すぐにコミュニケーションが取れたり翻訳が異様に早かったりといったことのほうが違和感につながるのかな。考えてみたら看破される理由はいくらでもありそうだ。

「仕方ないなぁ。早速、交信してみるか。」


「こんにちは。私はシルフといいます。西暦時代にはHR○○○○とよばれる恒星系を拠点として宇宙探査をしています。人間とコミュニケーションを取りたいということでしたが私で良いですか?」

 とりあえず、自己紹介。基本情報はすでにリンクスが共有していると思うから簡単に。

「シルフ様、ご連絡ありがとうございます。私たちはアメリカ合衆国所属の惑星開発局です。惑星開発と言ってもこの星は衛星でございますが。合衆国の法律、および開発局の規約により、開発より1000年が経過し、受け取り者不在のため最初にご来訪いただいた人類が私たちの新たな主人となります。つまり、シルフ様でございます。今後ともよろしくお願いいたします。」

 いきなり、ご主人様認定されてしまった。ハッキリ言って困る。とりあえず断るか。

「お申し出はありがたく思いますが、私たち探査員にそういった権限はなくて、あの、お断りしたいのですが。」

「いいえ、合衆国の法律において、この地と私たちはあなたのものとなります。」

「えーと、いや、合衆国とやらはもう存在していないから。リンクス……、私の船から事情は聞いてませんか?」

 西暦時代のレガシーや星とかもらっても困るし。もうリンクスに丸投げしよう。

「今後は私の船のアシスタントAI、リンクスと話してもらえるかな。」

「それではリンクス殿と会話し、決まったことをまとめ、その後シルフ様に承認していただくという流れでよろしいでしょうか。」

「OK。じゃあ、そういうことでよろしく。」

 俺のアシスタントAIであるリンクスは文句を言わず、黙々と調整作業を進めた。その間、俺はやることがないので彼らのログを流し見する。さすがにAI同士のやり取りはものすごい速さで調整されているようだ。会話ログが滝のように生成されている。あ、同じ文言をお互いに繰り返す無限ループになってる。AI同士お互いにゆずり合わないから同じやり取りを何度も繰り返す。こういう西暦時代のAIとのコミュニケーションは割とあるからリンクスはうまいことやってくれるだろう。俺は昼寝することにした。


「シルフ、起きてください。話がまとまりました。」

 時計を見ると2時間というところか。まとまった内容を確認するとやっぱり所有権は俺になるらしい。そうしないと話が進まなかったようだ。

「合衆国の法律の一点張りで取り付く島もありませんでした。申し訳ございません。」

 西暦時代のAIは頑固すぎるから現代のAIではどうしてもこういう交渉で先に折れてしまう。設定次第で折れないようにすることも可能だけど、俺はこういうファジーさも大事だと思う。

「ま、仕方ないか。帰ったら色々面倒くさいことになりそうだなぁ。」

 そういうややこしいことは100年後の俺がどうにかするだろ。頑張れ、未来の俺。


 改めてとりまとめた内容を確認すると調印式のような儀式を行うとある。え? 星に着陸するということ?

「リンクス、調印式って……?」

「はい、着陸して書類にサインすることになります。英語だとシルフのサインはこのように描きます。練習してくださいね。」

 なんてこったい。着陸調査任務になってしまった。目標の岩石衛星には大気がないから乗船しながら観測して満足したら帰るつもりだったのに。

 宇宙から件の衛星を観察するとドームが一つポツンとある。そこが目的地のようだ。

 件の衛星はテラフォームされていないので大気はない。エアハッチにて船外着に着替える。船外着はその名の通り船外で活動する際に着用するウェアだ。全身を覆うスーツとヘルメットからなる。船外着の着用にあたっては色々と手順があるんだけど、俺のようなエルフはその手順を省略することが一般的だ。なぜなら数分程度なら無酸素でも宇宙線でもへっちゃらなのでいちいち面倒な手順を取る必要がないから。

 グリーンリンクスが指定された着陸場所にサクッと着陸する。

 船のエアハッチが減圧され船外活動が解禁される。俺は衛星の大地を踏みしめた。

 船外着に備え付けられている外気インジケーターを確認する。表示はヘルメットの着用を推奨する赤。命にかかわることはちゃんと確認する。

 重力は0.2Gといったところ。普段の船内は0.6G程度の加速度としているので普段より身軽だ。調子に乗ってあまり力強く踏み込まないように気をつける。なぜなら文字通り飛んでいっちゃうから。

 着陸場からドームに移動を開始する。ざっと200m程度の徒歩移動だ。意外に近く感じるかもしれないけどグリーンリンクス号は逆噴射をせずに着陸に必要な減速が十分可能なのでこのくらいなら全然平気だ。

 ドームの加圧室を通り、ドームに入る。中は呼吸可能な空気で満たされているようだ。彼らを信用していないわけではないが、船外着のインジケーターが呼吸可能なことを示す緑色に点灯していることをちゃんと確認してヘルメットを外す。我ながら丁寧な仕事ぶり。

 ドームの中をぐるっと一周した。とりあえず呼吸ができる事はありがたいが取り立てて何もない。とはいえ、呼吸ができる空間があるというのは辺境では初めての発見だ。これは大発見と言えるだろう。やったぜ。

 早速、ロボットが調印の紙を差し出す。話が早くて良い。内容は確認済みだがそれが事前に確認した文書と相違がないか検査する。視線をおくることで船外着に備わっているカメラとディスプレイで調印文章のチェックを行う。俺は西暦語(英語)わかんないし。予めすり合わせした内容と調印文書の記載に相違がないことが確認できたので先ほど練習したサインを記入した。これでこの星の権利は俺の物ということになってしまった。


 調印も終わったし、さあ帰ろうと思ったら、施設を見てほしいと引き止められてしまった。着陸に当たり空から見たときはこの星の開発具合はドーム一つとその周辺の数百メートル程度。開発されているのは星のごく一部だけ。数千年以上の時間があった割に開発の規模が小さい気がする。

「シルフ様、それは当初の計画よりもこの星にたどり着くことができた機械が少なかったからです。そのため、開発を行っている機械も用途違いで本来と違う用途で使われていたのです。」

「本来の用途って?」

「ドーム建設です。」

「ドーム建設のロボットで穴掘りなんかをしてるということ?」

「この星に着いた頃はそうでした。現在ではもう少し改善しておりますが、まだ完全ではありません。もし、この星の開発をお望みでしたらご支援を頂きたいのです。」

 なかなか涙ぐましい話。ドーム建設用の機械と言えば溶接や組み立てに特化した機械だ。そうした機械たちが自らを採掘工事ができるようアップデートして穴掘りして、資源を精製して長い年月をかけてドーム一つを拵えたということだろう。

 俺を迎えるために。いや、あくまで結果としてだけど。本来は西暦時代の人を迎えるためだが、彼らは来なかった。西暦時代は終わり、彼らの仕事が忘れ去られた後に俺が来たということか。

 少し愛着がわいた俺はこの星に名前を付けることにした。

「この星の名前だけど、俺が付けていいかな?」

「もちろんです。」

 と、言ってみたものの、いまいち気の利いた名称は思いつかない。なにせ星に名づけするのなんて初めてだから。

「リンクス、なんかいいアイデアないかな?」

「古来より星の命名は第一発見者の名前を付ける事が習わしと伝わっています。」

 そっか。

「じゃあ、この星の名前はシルフ。どうかな?」

「かしこまりました。この星はこれより衛星シルフです。」

 自分の名前を使うのはちょっと恥ずかしいけど、そう言うのもいいだろう。


「シルフ、良かったのですか、名前なんて付けてしまって。愛着がわいてしまいますよ。」

 船に戻った際、リンクスからそう問いかけられた。うーん、どうだろう。彼らの健気さに心を打たれて名づけをしてしまったけど、時間がたてば執着がなくなってしまうかもな。それも俺たちの特徴だし。

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