6-2 探査開始!
出発の日。イシドル教授とその研究室の人、ベーダさんが見送りに来てくれた。いつもは惑星探査局の人と事務的な手続きをした後は誰とも会話することなく出発するのが通例だった。というのも、長距離任務だと帰ってきたら知ってる人はいないということはザラだから。
「シルフさん、あなたが帰ってくる頃には私はもうこの仕事をしていないと思いますが、きっとこの中の誰かが私の研究を継いでくれているでしょう。無事戻ってこれますように。」
イシドル教授の言葉を聞いて、今までの探査でもこうした引継ぎが行われていたことを考えた。
「機材管理の方はお任せくださいね。ジーニーさんとしっかり管理しますから。」
ベーダさんが今後の方針も改めて話す。先日の初顔合わせの後、事務所の管理はジーニーに任せることになったのだ。掃除はちゃんとできてるようだし。
「ボス、事務所は俺たちがちゃんと管理しますから安心して行ってきてくだせえ。」
未だかつてこんなに多くの人に支えられた探査があったろうか。
「それじゃあ、行ってきます。」
「シルフ、見送りに大勢きてくれて良かったわね。」
「うん。」
今回の航海は8光年。往復に40年の計画だ。探査対象の惑星へは18年で到着する予定で、現地で4年ほど探査して返ってくる計画だ。
量子通信が使えないので、情報は電波による通信となるので、最初の探査結果を送るのに最短で26年。俺たちエルフにとっては大した時間ではないがヒトにはとても長い時間だろう。そして、戻ってきたころには亡くなってる人もいるかもしれない。
今まで意識しなかったけど、有人探査で探査の依頼者とコンタクトしなかったのはそうした出会いと別れを無意識に避けていたのかもしれない。
さて、感傷もほどほどに仮死の準備だ。起きててもやることがないし船のリソースを余分に使うだけだ。
仮死のプロセスは以下の通りだ。抗生物質を服用して数日過ごす。仮死中に体が腐敗しないためにあらゆるばい菌類を殺すための処置だ。その後、仮死剤を使い代謝を停止する。仮死化が確認されたのち体表面の殺菌が改めて行われてパウチされるらしい。
仮死からの起床は抜けた水分を補充されて肉体の鮮度が戻ったら電気ショックで心臓を動かす。全身に血液が回り安定状態になったら薬剤にて脳を再起動するというプロセスだそうだ。
死と仮死の違いは細胞の状態が量子的にみると違いがあるらしいが、あまり詳しいことはわからない。まあ、実感としては睡眠剤で寝たり気絶するのと大差ない。
「おはよう。シルフ。目覚めはどうかしら?」
無事仮死から復活を遂げた。
「まあまあかな。まだ頭はすっきりしないけど。」
「今のところ、計画通り進捗していて心配するようなことは何もないわ。ゆっくり回復したらいいわ。」
水をすすりながら、思索にふけり少しずつ頭の靄を晴らす。活性剤を飲んでまた睡魔に襲われて眠った。
「おはよう、リンクス。今度はスッキリしたぞ。」
「それはなにより。シルフが話し相手になってくれると私も張り合いが出てくるわ。」
「そんじゃあ、まずは俺が起床するまでの状況を報告してもらおうか。」
リンクスの報告によると、旅の進捗は予定通り。先発した無人探査機をオーバーテイクして約2年先駆けて先行観測を開始。無人探査機が追い付いたら共同して探索することになった。これは出発後にイシドル教授らが惑星探査局に掛け合っ多結果だ。グリーンリンクス号のほうが高出力のため、より大容量のデータ通信を行えるから無人機のバックアップおよび共同探査をすることになったそうだ。
おおそうだ、探査対象の惑星を目視できるかも。
「リンクス、対象惑星を見たいんだけど見れるかな。」
「今日のところは目視は難しいわね。私が光学観測した結果で我慢してもらえるかしら。」
そういって、リンクスは光学観測を中心とした観測結果のレポートをコンソールに表示した。ふむふむ。まあ、よく見られる地球型の生態系のようだ。水と炭素を主成分とした生物がいることが確認されたそうだ。これといって新しい発見はなさそうだ。
「ダメ元で聞いてみるけど、知的生物の痕跡は?」
「分かってると思うけど、もちろんないわ。」
そうか。ないのか。当然分かってたけど。
正直、この程度の発見はすでにたくさんある。霊長類程度の生物も発見されている。知的生物が発見されて初めて大発見と言われるだろう。
まあ、生命の種がこのあたりにも撒かれてることが確定したということは十分な情報といえるかな。なんにせよ、まだ調査は始まったばかりだからなにか面白いものが見つかると良いな。
「お姉様!」
なんだぁ? ピーコックが近くにいるのか?
「一緒に調査するX46よ。それにしてもどうしてオープンチャネルで通信してきたのかしら。」
「お姉様、そろそろ私も観測可能範囲に到達しそうですわ。」
「X46、私のオーナーのシルフはもう起きてるわよ。自己紹介してもらえるかしら。」
「あ、失礼しました。シルフ様。お初にお目にかかります。といってもまだ光学観測できる距離じゃないわよね。とにかく、今回のお仕事、ご一緒出来てとても光栄です。あらためまして自己紹介させていただきますと、私はX46です。スペックは・・・」
長々とスペックを紹介される。無人探査機のAIと話すのは初めてだけど、意外に普通なのかな。
「うん。よろしく。」
「挨拶も済んだことだから、本題に入るけど、どうしてオープンチャネルで連絡したのかしら?」
リンクスが確認する。
「それなんですが、私のアンテナユニットは機体に固定されているのでグラベルを航行してると指向性が保てないんですの。オープンチャネルならブロード送信できるので。」
「そういうこと。それなら私が通過した航路を通ればいいわ。航路を教えてあげるわ。」
リンクスはそう言って、俺たちが通過した航路を教えてあげてた。
「お姉様! ありがとうございます! 私、観測機器のペイロードを増やすために高速航行での観測能力が劣るのでとても助かります。」
リンクスは人間を乗せることが前提になってるため、比較的長距離から宙域の濃度分析が出来る。むやみに高速で分子濃度が高いところに高速度で突っ込むと宙域の分子が荷電粒子化することに等しく、人体に有害だ。無人機のX46では人間を乗せてないのでグラベルに突っ込んでから減速しても十分間に合うということだろう。
「ところで、なんでリンクスがお姉様なんだ?」
「それはお姉様はお姉様だからです。」
「X46、まるで説明になってないわ。そうね。私のほうが製造年が古いからよ。」
ああ、そういうことか。ピーコックにもそう呼ばせていたのかと思ってた。
「もちろん、それもありますけど、私にとってお姉さまはお姉様ですわ!」
俺は考えるのをやめた。
1年も経つ頃、当初設定された探査が一通り1巡した。ちょっと見方を変えて、主星や付近の惑星や衛星を観測する。西暦時代のレガシーがないか確認したかったのだ。今のところ西暦時代と生命に関係は見出されていないが、太陽系を中心に生命が分布している可能性も否定されていないからだ。
ただ、この星系はイシドル教授らが注目しベース惑星からの観測は長いことされていても西暦時代の痕跡は見つかっていないことからも分かる通り、何か見つかる可能性は低そう。というわけで、X46が観測を始めるまでの間は比較的遠方からの観測が難しい主星に近い第一惑星の探査に集中することにした。
この星系の惑星は5つ。主星に極めて近い小さな地球型の惑星。2つめが生命が存在できる領域、ハビタブルゾーンになっている観測対象の惑星で当然地球型だ。3つめも地球型。外縁の2つは大きめのガス型惑星だ。外縁の惑星二つの衛星についても通りがかりついでに観測しているが、水は存在せず火山活動なども確認されず生命の痕跡はなさそうだった。もちろん、西暦時代のレガシーの形跡もなし。
なぜ第一星に注目しているのかというと、第一惑星は公転と自転が一致する潮汐ロック状態のため光と影の堺にごく狭い範囲だけど、生命が存在できる温度帯が安定して存在するからだ。この潮汐ロック状態であることは今回の観測旅における大きな功績といえるだろう。まあ、未だかつて、同様のパターンでたまたま生命がいたという発見はないので対して期待してないけど。
簡易観測の結果から何にもないことが分かって少し残念な気持ちになった。




