5-2 ジーニー
「社長はあと数年帰ってこねえだ。」
シルフを訪ねたエルフの男、ジーニーはヤマネコ便で働くために中央星系からはるばる辺境星系へやってきたがその当てが外れて愕然としている。
中央星系と辺境星系の行き来はミルキーウェイエクスプレスという超光速船による。いわゆるワープだ。
ミルキーウェイエクスプレスのエネルギー源は恒星を覆う構造物、ダイソン球で得るものの、莫大なエネルギーを要するため年に数回しか運用できない。そのため利用料金はとても高い。
しかし、辺境星系への移住希望者は補助金がもらえるので意外に安く来れる。中央ではこれを片道切符という。ジーニーは片道切符を使って辺境へ来たのだ。
中央星系で来る日も来る日も人混みに揉まれて同じ毎日を繰り返すことに飽きたジーニーはスローライフを求めて辺境星系まで来た。
そのきっかけはニュースで見たヤマネコ便だ。中央星系ではとっくの昔に特急便のサービスは開始されているが、辺境星系ではシルフというエルフによってつい最近始まったという。
よく言われることだが辺境星系は中央星系から3000年遅れてブームが届くと言われている。もっとも、若者向けブームやテクノロジーの類は伝播しない。
途方に暮れていたジーニーにヤマネコ便の社員の男は言う。
「やることがねえなら、うちじゃねえけど仕事さ紹介できんぞ。」
ジーニーはその紹介された仕事を始めることにした。
「中央から送られてきたのはいいものの、使ってない船が一隻余ってるんすよ。使ってもらえるなら助かるっす。邪魔なんで。」
ジーニーは運送屋で船をもらった。
辺境では所有の概念が希薄なので、あそんでる船や機材は使える人が使うというのがしきたりだ。
「しかーし、その船はカーゴ仕様じゃないので手積みになるっす。でも、兄さんは立派な体してますから、平気っすよね。」
ジーニーは何百箱も手積みで荷物を積み込んで、言われた配送先に向かった。
辺境星系の航海はジーニーにとっては刺激的だった。航路に他の船がいないので運行速度が速い。中央星系なら第2惑星から第4惑星の間は厳しい制限速度が設定されているが、辺境星系にそういった速度制限はない。そもそも運行における法律がない。何をしても自由。どこを飛ぼうが自由。グラベル(分子濃度や星間物質の濃度の濃い領域)を通ろうが自由。ただし、何があっても自己責任。
配送先のセンターにて手降ろし。サクサクと行う。
「兄ちゃん、すげえなぁ。たまに来るおチビのエルフとはえらい違いだ。」
「兄さんの筋肉に惚れました。俺もご一緒させてください。」
そんな調子で配送センターへ向かうたびに乗組員が増える。ジーニーには謎のカリスマがあるようだ。
全ての配送が終わった帰り。ある乗組員が言った。
「ボス、知ってますかい? 辺境の宇宙にはルールはないんですぜ。」
乗組員がどういう意味で言ったかは定かではないが退屈に飽きたジーニーは刺激的な悪いことを思いついてしまった。
ジーニーはあまりにも自由な辺境の宇宙にあてられていた。
子分が言うことを確認するために、船のAI、船の型式がPX8だからP子と呼んでいるAIに法律を確認したところ、それは事実だという。
それでジーニーは海賊になることを考えたのだ。
「さすがです! ボス!」
退屈な辺境生活に飽きていた部下たちはジーニーの悪行に賛同する。
辺境の子悪党たちは星系にいれば統治AIの監視が窮屈でジーニー同様に日々の生活に辟易していた。ジーニーのアイデアは彼らにとっては天啓であった。
多少の悪事もバレなければ問題にならない。自分の腕っぷしならちょいとどやしつければ大半の人物はビビりあがって言うことを聞かせられるだろうと。少なくともこの辺境の人間たちに例外はなかったため、ジーニーは自信を持っていた。
船を襲えば燃料や食料を強奪できる。辺境ではそもそも暴力事件が起きることがないため、警察力は乏しく星間に逃げてしまえば追いかけられることはまずない。
せっかくなので近くにいる船でも襲うことにした。周りの状況を確認するべく広域の状況を調べるために最大出力のレーダー波を送出することをP子に指示した。
「ジーニー、そんな大出力レーダー波を送信しては他の船の航行に問題が生じてしまいます。できません。」
ジーニーは制止を提案するP子に「いいからやれ」と強引に迫る。
PX8は倫理上問題があるとわかっていてもマスター権限を持つジーニーの命に逆らえない。
ジーニー達は大出力のアクティブレーダーで宙域を漂う宇宙船を見つけ、接近した。
「この機影はZX-F86じゃねえですかい?」
子分の一人が言う。ZX-F86は最近高騰している宇宙船だ。
俺たち海賊稼業の手始めにちょうどいい。




