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星間の妖精(エルフ)  作者: tk7_sf
第1話 エルフのシルフ
1/3

1ー1 目覚め

 ピピピッと鳴るアラームの音で目が覚めた。

 10時間ぐらい寝た後のような爽快な目覚め。何年ぶりの起床だろう。何時間の間違いではないかって? 何年ぶりであっているハズ。なにせ星間移動のために仮死状態からの起床だから。と言っても感覚としては普通の睡眠と大差はない。ただ寝てる時間が何時間単位ではなくて年単位の違いだけ。本当に何年も寝ていたという実感はちっともない。

「リンクス、今起きた。」

 リンクスとはこの宇宙船グリーンリンクス号の愛称。そしてそのアシスタントAIでもある。船内で呼びかければどこでも返事が返ってくる。

「シルフ、起きましたか。水を準備してありますよ。」

 シルフというのは俺の名前だ。ベッドの横の机に水入りのパウチがあった。その飲み口を咥えパウチをギュッと握り一口飲む。渇いた体に染みわたる。

「リンクス、状況は?」

「はい。計画通り115年が経っています。お目覚めのご気分はいかがですか?」

 115年寝てたらしい。仮死状態からそのまま死んじゃうケースもたまにあるので無事起床できたことを喜ぼう。計画通りと聞いたけど、計画はいまいち思い出せない。仮死状態で脳機能がハイバネート(休止状態)から復旧するにあたり、仮死前の状態に復旧するには数時間かかる。俺の場合はだいたい5,6時間といったところ。そのため、任務開始の50時間ぐらい前に起床するようにアラームをセットしておいた。この後、数時間起きて寝てを繰り返し、計画を復習して仮眠して任務にあたるという感じ。とはいえ、細かい管理はリンクスがやってくれるから俺はその指示に従うだけ。

「リンクス、飴ちょうだい。」

「ダメです。起床後すぐに食べ物は与えられません。あと2時間は準備しておいた水だけです。」

 リンクスのけち。口寂しいからなにか口に入れたかったのだが却下されてしまった。

 起床してしばらくはなにもすることがないからボケーっとする。あまり頭も回らないしやることがないから睡眠時間まで水をすするだけで時間をつぶす。まあ、こういった退屈に耐えられるから探査員が務まるってものだけど。


 あまりにやることがなさ過ぎてまたも脳がハイバネートしそうだ。そうだ、思考して頭のもやを晴らさなくては。他の同業者にはひたすら素数を数える者もいると聞いたことがあるが俺の場合は自分語り。そうすることで自分が何者かを思い出して任務へのヤル気も出てくるってもの。

 というわけで、自分語りスタート。

 まず、俺は宇宙人なんだ。宇宙人と言ってもエイリアンではなくて、地球由来の人間だ。人間と言ってもホモサピエンスではなくて、ホモサピエンスから分化した新人類のホモアストロ。ホモアストロというのは宇宙に適した特性を持った新人類で、大きなGや低酸素、宇宙線などに耐えられたり、空間把握能力に優れたり、寿命が長かったりする人類なんだ。

 そしてホモアストロはエルフと呼ばれる。それは耳がちょっと尖っているから。ホモアストロたる特徴を持つ遺伝子にとんがり耳の遺伝子も含まれてるんだって。

 そういう特徴を持っているから俺たちエルフが宇宙探査の任に着くことは多い。というよりホモサピエンス、ヒトが宇宙探査に着くことは滅多にない。仮死状態からの起床での死亡率が高かったり、ハイバネートからの復帰に失敗して死せずとも廃人になってしまうケースが少なくないから。遠方の調査は仮死状態での移動が基本なので、どうしてもその役割は俺たちエルフに回ってくる。

 任務は過去の経験からしても、有人探査の前に行われる無人の調査やベース惑星からの電磁波や重力波による観測でわかること以上の成果が上がることはあまりない。

 それでも有人探査が行われるのはAIと人間の間の認知の差に未だに大きな隔たりがあるから。認知の差というのは好奇心をくすぐる何かだったり理由を説明できない違和感のようなこととか。たとえば、標準確認項目になっていないことを確認するAIはほとんどないけど、人間のその場の思いつきだったりを期待されているそうだ。

 そういえば、この旅に出発する直前に開発された有機型コンピュータは人間に準ずるファジーさを持っているそうだから、有人探査員はじきにお払い箱かもしれない。そうなったら俺は何をしようか。


 そんなことを考えていたら2時間ほど経っていた。

「リンクス、飴ちょうだい。」

 再度ねだってみる。

「飴はダメです。そろそろ活性剤の時間ですから甘いものが欲しければ活性剤を飲んでください。」

 またも無慈悲に断られてしまった。活性剤とはハイバネートした脳を仮死化前の状態に戻す薬剤だ。なくても先ほどの自分語りのように脳みそを働かせつづければ戻るけどこいつを飲めばより早く確実に回復できる。

 活性剤はちょっと甘酸っぱい味付けがされている。甘味に飢えた今ならご馳走だ。素直に応じる。甘酸っぱくておいしい。でも、これを飲むと途端に眠くなるんだよなぁ。おやすみ。zzz


 8時間ほどの睡眠から覚めた。スッキリ。

「リンクス、おはよう。」

「シルフ、おはようございます。朝食を準備してありますよ。」

 机にパウチが置いてある。

「経口食がいい。」

 机のパウチは胃ろう用のパウチだ。ダメ元で不満を口に出した。

「経口食の準備はありません。」

 ジーザス…。経口食はないらしい。リンクスは俺と違って冗談を言うことがないから本当にないのだろう。

 俺を含めたエルフの一部は胃が退化してるから必要な栄養を経口摂取だけで得ることは難しく、こうして胃ろうで高カロリーで栄養満点な食べ物?を直接ぶち込む必要がある。

 経口摂取できる食べ物を長期間保存できるほどこの船は大きくない。いざとなったら燃料と共用できる炭素やらをぎゅうぎゅうに詰めて運搬することでペイロードを節約しているからだ。

 仕方ないから胃ろうパウチを腹部のコネクタに接続して栄養摂取だ。炭素やら水素、その他の微量元素をミックスして水で練ったような物を胃ろう用のコネクタに接続する。ゆっくり体内に入ってくる。いくら無菌状態とはいえ、それにこういう食事に適正があるのも俺たちエルフの特徴でもある。俺って本当に都合のいい生き物だ。そうこうしてるうちに血糖値が上がって多幸感が上がってきた。

「さて、楽しい食事が終わったな。ところで今回の任務は何するんだっけ。」

「今回の任務は変調された電磁波の発信源の調査です。すでに調査は開始しており、当初の確認項目は調査済みです。結論を言いますと西暦時代のレガシーのようです。」

 調査はもう終わってるらしい。そのまま帰ってもいいのだが、ガキの使いじゃないからそれで帰還というのも芸がない。出発から115年経ってるし、少しはなにか持って帰らないとますます有人による探査の役割がなくなってしまう。西暦時代のレガシーとは、今から1万年ぐらい前の文明の名残だ。彼らは宇宙開拓までたどり着いたけど結局衰退してしまった。

「やっぱり、西暦か。どこまで行っても連中の手のひらの上にいるようだ。」

 構造物があるとなればいつも西暦時代のレガシー。もう辟易している。

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