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怪盗少女たちの休日

「ふわぁー......」


 大きなあくびをし、体を伸ばす。

 目をこすり、布団から出る。

 スタスタと洗面所へ移動し、鏡の前に立つ。


「んぁー......」


 コップに水を注ぎ、口に含む。

 口をゆすぎながら、クシで丁寧に髪をとかしていく。

 寝癖が目立つ部分だけをとかしおえると、クシを置き、水を吐き出す。

 最後に、水で顔を洗う。

 タオルで顔を拭き、鏡で自分の顔を確認する。


「......よし」


 鏡の前で再び体を伸ばすと、ベッドへ歩き始め、布団に潜り込んだ。


 本日は授業や任務は一切ない。

 怪盗ビヨンドの休日の始まりである。



 数十分後、扉をノックする音が聞こえてきた。


「ビヨンドちゃーん! 町に遊びに行こー!」


 ノックをしていたのはランディだった。

 ビヨンドはしぶしぶ布団から出て、扉の鍵を開ける。


「ビヨンドちゃん! 遊び行こ!」


「今日はゆっくりしたいんだけど......」


「えーいいじゃん外行こうよ! ほら、早く準備して!」


 ランディはビヨンドの手を握り、部屋の中へと入る。

 ベッドに座らせ、洗面所にクシを取りに行く。


「ほら、せっかく人目をあびる外に行くんだから、髪の毛はちゃんとしよ!」


 戻ってきたランディもベッドに座り、ビヨンドの髪をとかしていく。

 ビヨンドの雑なとかしかたとは違い、丁寧にとかしていく。

 若干ぼさっとしていたビヨンドの髪が、みるみるとまっすぐになっていく。


「よし! いい感じ!」


 この間にビヨンドも行く気になってきたのか、とかし終えると立ち上がり、クローゼットを開けた。

 服を適当に選び、帽子を被る。

 そして髪を結び、ポニーテールにする。


 怪盗たちは、任務以外で外出する際は変装をして外出する。

 逆に盗みを行う場合に変装をする怪盗もいるが、この学園では禁止行ためとされている。

 これは、任務外に変装した方が危険に見舞われる可能性が少なく、変装がバレるきっかけが生まれにくいからである。


「まぁ、こんなもんでいいでしょ」


「ビヨンドちゃんかっわいー」


「で、どこに行くのよ」


「パンケーキが美味しいお店ができたって予告状を出す時に町の人から聞いたんだ! だから、食べに行こ!」


 ビヨンドは疑問に思った。

 この学園は、任務で優秀な成果を出せた場合、報酬としてお金が渡される。

 しかし、優秀どころか普通の生徒よりも成果を出せていないランディが、パンケーキを食べるお金などあるのだろうか。


「ランディ、他に誰がいるのか教えて」


「えーっと、レパールちゃ......」


 ビヨンドは即効で布団に潜り込んだ。



 結局ビヨンドは無理やり布団からから引っ張り出され、しぶしぶとランディ、レパール、クレナイの四人でパンケーキを食べに行くことになった。



 学園の怪盗は、外では普段と違う名前で呼び合うという決まりがある。

 ビヨンドたちは普段偽名を使っているため、外では本名で名を呼び合う。


 ビヨンド。本名、ラフィ・ルアール。

 ランディ。本名、リーシャ・テンペスティア。

 レパール。本名、ルナ・アスティック。

 コヨミ。本名、コヨミ・カンザキ。


 外出前に名前を教え合い、呼び間違えないように意識している。



 レパールはランディの腕を組み、どんどん歩いていく。

 その後ろに、距離を取りながらクレナイとビヨンドが歩いている。


「リーシャ! 今日は私のおごりよ! 好きなだけ食べなさい!」


「うん! ありがとね!」


「......ラフィとコヨミは自分のお金で食べなさい。リーシャのパンケーキをせびったらひっぱたくからね!」


「ッチ......。なんでこんなやつと貴重な休日を潰さないと行けないのよ......」


 誰がみても明らかに、ビヨンドの機嫌が悪いことがわかる。


「まぁまぁビヨンドさん。レパールさんが嫌なのはわかりますが......」


「私が嫌なのはあんたもよ」


「あらあら......。相当嫌われてるみたいですね......」


「......今日不意打ちなんかしてきたら、マジでぶっ殺すわよ」


「そんな、休日にそんな野蛮なことしませんわ」


「見て! ついたわよ!」


 レパールが店を指差す。

 店の前には行列ができている。


「ほら、早く並びましょ!」


 レパールがランディの腕を引っぱり、最後尾に並ぶ。

 ビヨンドとクレナイも二人の後について行った。



 それから二十分ほど待つと席へと案内された。

 椅子に座り、適当にメニューを眺める。


「てんちょー! おすすめパンケーキ二つお願ーい!」


 レパールは厨房にいる店主っぽい男に、指をピースさせて言った。


「オッケー。 他の二人は?」


「私はそうですね......。私も同じのを貰おうかしら」


「そっちの薄茶髪の子は? 同じでいいかい?」


 ビヨンドは無言で頷いた。



 それからレパールとランディは楽しく会話していた。

 それに対し、ビヨンドとクレナイはずっと無言だった。

 数分後、パンケーキが届いた。


「わぁー! 美味しそうだね!」


 ランディが目を輝かせながらパンケーキを見つめる。


「ふふ、それじゃ、食べましょうか! いただきまー......」


 次の瞬間、ガラスが割れる音が聞こえた。


「なんですか!?」


 クレナイが一番先に反応し、音が聞こえた方を確認する。

 窓が割れており、店の外にはナイフや剣を持った男たちが六人ほど立っていた。

 強盗だ。

 店の前に並んでいた客たちは、一斉に逃げてしまい、店内の客は恐怖で震えている。


「へへへ、ここが噂の人気店か。おいじじい! 金を出しな! さもなくば、ここの客の首を一人ひとり叩き斬っていくぞ!」


 強盗は店主や店員、客に武器を向ける。


「は、はい!」


 怖けた店主はすぐさま強盗の言うことを聞く。


「はぁ.....」


 ビヨンドがため息を吐きながら立ち上がる。

 それに続き、三人も立ち上がった。


「お、おい! 動くんじゃねぇ!」


「お嬢ちゃんたち! 私がお金を出すまで......」


「安心しなさい。こんな雑魚、一瞬で片付けるから」


 ビヨンドは一切怖じける素振りを見せず、堂々と強盗に近づいていく。


「へへっ、舐めやがってぇ!」


 強盗が剣を振り下ろす。

 ビヨンドは最小限の動きで避け、足を払う。


「おわっ!」


 強盗は地面に叩きつけられる。

 そこにすかさず、ビヨンドは頭を蹴り飛ばす。

 男は失神し、伸びてしまった。


「こんのクソガキっ!」


 強盗二人が左右から一斉に横切りをする。

 ビヨンドはその場にしゃがみ、剣を回避する。


「はぁっ!」


 声と共に、強盗二人の剣を持つ手に、パンケーキをカットするためのナイフが刺さる。

 強盗二人は痛みで剣を落としてしまう。

 ビヨンドは剣を奪う。

 剣を構え、けん制する。


「こ、こいつらやべぇかもな......。いったん撤退するぞ!」


 強盗たちはビヨンドたちの強さに怖気づき、慌てて逃げて行った。


「あら、私も戦いたかったのに......」


 出番がなかったクレナイがしょんぼりしている。


「お嬢ちゃんたち凄いな!」


 店の奥から覗いていた店主が、拍手しながら出てきた。

 それに続いて、周りの客も拍手で称賛する。


「普段こんな称賛されることなんてないから、心地いいわね」


 レパールはとても満足気だった。

 それに対し、ビヨンドは特に興味が無さそうだった。


「よし! お礼にしばらくの間お代は無料にしてやる! たくさん食べに来な!」


「ホント!」


 レパールはとても嬉しそうだ。



 そして、パンケーキをたらふく食べた四人は、学園へと戻っていくのであった。

 それから数週間後、パンケーキを気に入り、通い続けたレパールはお腹周りの脂肪が増えて絶望してしまった。

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