強者との闘い その1
日付が変わり、深夜の二時。
ビヨンドは任務のため、屋敷へ訪れていた。
いつも通り準備をし、いつも通り盗んで帰ろうとした。
だが、様子がおかしいことに気がつく。
警備兵が全くいないのだ。
前回の任務の時のようだ。
「また邪魔が入ったっぽいわね......」
ビヨンドは舌打ちをし、宝がある部屋を探した。
次々に部屋を見ていくと、一つ異様な部屋があった。
部屋一面気を失った警備兵が倒れていた。
そして、その部屋の真ん中に見覚えのある人物が一人。
「お待ちしてました。ビヨンドさん……」
宝を眺めているクレナイが、不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
「はぁ、やっぱり横取りしにきましたか......。それは私が狙っているお宝ですよ? 余計なことを考えずに返してもらえませんかね?」
「……断ったらどうします?」
「そしたら、こうするしかないですね」
先手必勝を狙ったビヨンドは、クレナイが抜刀する前にけりをつけることにした。
急接近するビヨンド。
しかし、攻撃をすることなく思い切り地面を蹴り、後ろに下がった。
「はあっ!」
クレナイは一瞬で抜刀し、刀を振るう。
居合切りだ。
刀により発生した強風が、ビヨンドの肌を撫でる。
普通の人ならば恐怖で血の気が引くほどの、恐ろしい死の風だった。
クレナイの刀を確認すると、木刀ではなく真剣であることがわかった。
後ろに下がらなければ、ビヨンドの命はなかっただろう。
「......私、殺そうとしてくる相手には容赦ないですよ」
「構いませんわ。本気を出してもらうために用意したのですから」
「そうですか……」
ビヨンドの顔つきが、普段のダルそうな表情から殺気を感じられる表情へと変わる。
「殺す気で戦わせてもらいます」
「ふふふ、殺されるのは貴方ですよ」
刀を構えるクレナイ。
攻撃を恐れ、距離を取るビヨンド。
「あら、来ないんですか? それなら、こちらからいきますよ!」
特訓場での戦いのように、猛攻を仕掛けてくるクレナイ。
速度があり、力がある斜め斬りをビヨンドへ行う。
ビヨンドは攻撃を見切り、避ける。
少し髪の毛のかすり、薄茶色の髪の毛が空中へと舞う。
それからも、クレナイは攻撃を続けた。
ビヨンドが攻撃を避ける事に、髪の毛が切られていく。
そんな髪の毛に月明かりが反射し、まるで舞台の様な美しさを醸し出していた。
しかし、これは舞台などではなく、命を掛けた殺し合いである。
両社はそんな美しさに目もくれず、目の前の敵を倒すことだけを考えていた。
あの時の戦いとは違い、攻撃を受けたら大怪我どころでは済まない。
しっかりと攻撃を見切り、勝つ方法を考えていた。
スピードは互角であり、力、体力は向こうのほうが上だ。
この部屋にある使えそうな物は、壁に立てかけてあるクレナイの木刀しかない。
おそらく警備兵を気絶させるのに使用し、戦いの邪魔にならないように立てかけてあるのだと思われる。
警備兵が持っていた槍は全て折れており、使い物にならなさそうだ。
おそらく戦いの際に、刀で折られてしまったのだろう。
「考え事をしていたら死んでしまいますよ!」
躊躇なく刀を振るクレナイ。
それをなんとか避けつつ、クレナイの木刀の元へ移動する。
相手は一メートル以上の武器を使っているため、近づくことが難しい。
長物があればチャンスが生まれると思い、ビヨンドは木刀を手に取った。
「あら、私に刀で勝負を挑もうって言うんですか?」
「勝てるかどうかはやらないとわからないですよ?」
「そうですか、では、かかってきなさい」
刀を構えたまま睨み合う二人。
ビヨンドは油断するタイミングを狙っているが、クレナイは一切隙を見せない。
お互い一切動くことが無く、無音の時間がしばらく続く。
「……私、こういう睨み合いの時間は好きではありませんの」
クレナイが先に動く。
「私が好きなのは、真剣勝負をして、相手を叩っ斬る瞬間! 早く決着を付けないと、真っ二つですわよ!」
クレナイの力が込められた斜め斬りがビヨンドに襲い掛かる。
ビヨンドは木刀で防ごうとした。
だが、咄嗟に防ぐ構えをやめ、疾風の靴の力で瞬時に避ける。
「賢明な判断ですね。そのまま防いでも折れてしまうでしょうし」
舌打ちをするビヨンド。
それから連続で斬撃を行うクレナイ。
隙を探りつつ攻撃を避けるが、あまりにも隙がなく、木刀を活かすことができない。
体力の消耗が続き、汗が垂れ始める。
息が荒くなり、思考が鈍くなる。
このままでは、体力が尽きたところを狙われて殺されてしまう。
正直、策がない訳ではない。
実行できない訳でもない。
使いたくないのだ。